第93話 空町の警備
今日は生徒一同は急遽武道館へ集められた。
その壇上に誠が立つ。
「皆、知っているだろうが予言の日に備えて、8月より順次一般市民の地価施設への避難を開始する。その際空になった町を上官と共にお主ら学生で警備にあたってもらう。夏季休暇を返上する事になるが一大事じゃ。皆、よろしく頼むぞい。詳細は担任の上官から伝達させる。以上じゃ」
生徒達は少しざわめく。
それを聞いた千里は守の袖を小さく引っ張った。
「大丈夫だって。何とかなるって!」
「うん・・・」
教室に戻った一同は優香より午前中一杯をかけ、避難誘導や警備の説明を受けた。
昼休みになり弁当を取り出した守は、ふと思い付き立ち上がる。
「皆、今日は天気もいいし屋上で食べないか?」
「おっ。いいじゃん守! そうしようぜ!」
7月の暑さからか屋上には1人もおらず貸切状態となってた。
「大地。頼む」
「ほいよ」
大地は培地に植物の種を蒔く。するとあっというまに成長し木陰が出来た。
その下で弁当を広げる守達。
「しかし、どうしたんだ突然屋上で食べようなんてさ」
「んー・・・なんとなく、俺はこの屋上に思い入れがあってな。だってほらここは俺らがチームとして始めて戦った場所だろ?」
「あれ、戦ったって言えんのか?」
大地は思い出し苦笑いする。
「あはは・・・あの時は本当に怖かったね・・・。死んじゃうかと思ったよ・・・」
「あの時、私に力があれば・・・姫様をあのような目に合わせる事はなかった・・・!」
「剣は昔っから弱かったんだなー!」
「先生・・・口元におべんとうがついてますよ。いい加減食べるの上手になって下さいよ・・・」
「うるさい! わかってるならさっさと取れ! 馬鹿弟子!」
「お兄様! ここは私が・・・」
エルダはすぐさま口元のご飯粒を舌で舐め取る。
「あっ! 自分で出来るじゃないエルダ!」
「ふーん!」
「いいもん! はいっお兄様あーん」
菊は自分の弁当を一つまみし、剣の口元へ運ぶ。
「こら菊! 人前だぞ!」
『人前・・・?』
冷たい視線が剣に注がれる。
「大地。あーん」
沙耶が同じく大地に差し出す。
大地はそれをためらいなく口に入れた。
「おい! 大地てめぇ人前だぞ!?」
「俺らは付き合ってるんで」
大地と沙耶は胸を張る。
突然千里が後ろから視線を感じ振り向くと、朝がこちらを見て守を指差し、箸を差し出すジェスチャーをしていた。千里はその意味を理解すると顔が真っ赤になり首を横に振る。
「ん?どうした千里?」
守が突然千里の方を振り向く。
「ええっ!? 私何にも・・・」
「袖引っ張らなかったか?」
朝をチラリと見ると小さく親指を立てていた。
(まさか・・・朝ちゃ~ん・・・)
千里は震える手で卵焼きを箸で持ち上げる。
「守君っ・・・」
「ん?」
「私もね・・・この屋上には思い出があるの。朝ちゃんとここでよくお弁当一緒に食べたんだ」
朝は頭を抱える。
(そうじゃねぇだろ千里・・・!)
「朝ちゃんは本当にいい子で、私にいつも勇気をくれるの。だから・・・」
千里の手の震えが止まる。
「はいっ。あ・・・あーん」
千里の卵焼きが守の口元へと運ばれていた。
「千里・・・ありがとう! ・・・俺を哀れんで・・・はむっ」
「えっ!? 違っ・・・」
「どうだお前ら! 俺にだって、あーん。してくれる人がいるんだぞ!」
「・・・そうだな・・・。良かったなぁ守・・・!」
大地は涙を拭くふりをして守の肩を叩く。
「何か馬鹿にしてねぇか!?」
「してないしてない! 素直に感動してるんだよ」
「本当かぁ?」
(何か勘違いされちゃったけど・・・初めて一歩を踏み出せた・・・)
千里は朝を見る。
朝は千里にしか分からないように小さくOKサインを出した。
食事も終わり屋上を降りる一同。
「おい守。この木を片付けるの手伝ってくれ」
「ああいいぞ」
「ドスコイ」
「大丈夫。守は慣れてるから、太は先に千里達と降りててくれ」
太は親指を立て、皆と階段を降りて行く。
その途中、太は千里の肩にその大きな手を乗せる。
「ドスコイ」
「頑張ったねって・・・太君・・・」
太ニコリと笑いはそのまま歩き去る。
「ありがとう太君・・・きゃっ!」
その後ろから来た朝が千里の尻を叩く。
「やるじゃん」
「朝ちゃんのお陰だよ・・・。といっても誤解されちゃったけどね・・・。」
「どうだかな。まっ一歩前進ってこった」
「うん・・・!」
屋上では大地が木の実を取り、木を枯らし土にまで朽ちた木を袋に入れて回収していた。
「驚いたなしかし、・・・良かったのか守? 茶化しちまって。千里頑張ってたぞ」
「・・・正直嬉しいよ。でも今は状況が状況だからな・・・。大地はどう思う?」
「お前は難しく考えすぎなんじゃねぇか? 人が戦う理由ってのは、他人のためって方が強いような気がするな。それが家族なのか恋人なのか分からんが、自分が一番大事なら一番後ろにいるはずだろ?」
「確かにな・・・予言の日の後も、またさっきみたいに笑って飯食えるかな?」
「さぁな・・・。全力で生き残ろうな守」
「ああ」
2人は拳を当てあった。
そして8月ついに住民の移動が開始される。しかし、地下避難所は東京都の全員を非難出来るほどのスペースが無く、誠の指示で女性と子供を優先的に地下へ避難させ、男性や希望者は地上のシェルターへと誘導した。
中には頑なに家から離れようとしない人や、地下避難所へ入れなかった夫の為に一緒に地上のシェルターを希望する小さな子供を抱いた女性。軍を罵倒しながら暴れる人も多くいた。
が、そんな人達がスムーズに避難出来たのはここの地区担当が【白衣の悪魔】神代 咲だったからであり、不平不満をいう市民をそのメスを振り回すので、まずは目の前の脅威から避難せざるを得なかった訳である。
「あ~ん! 本当に上手ねぇ咲ちゃ~ん!」
有沈がクネクネしながらその様子を見ている。
「うるせぇ! さっさとてめぇも手伝え髭筋肉!」
「んぅも~ん! 有ちゃんって呼・ん・で」
「お前らもだぞ守! それに他のガキ共! さっさと働きやがれ!」
この地区の担当になった上官は咲と有沈の2人。生徒からは守・大地・沙耶・千里・剣・エルダ・朝に美神を加えた8名。
「おい髭筋肉。俺は一旦本部へ戻る。しっかり警備しとけよ」
「りょ~かいっ! ちゅっ」
有沈は投げキスを送るが、咲は構う様子も無くビルの上を飛び跳ねながら去って行った。
「咲さんっていつも怒ってますね・・・」
「あら、守ちゃん咲ちゃんの事が怖いの?」
「まぁ・・・少し」
「うふふ。咲ちゃんはあれで君達の事気に入ってるのよ? ここの警備に貴方達を指名したのも咲ちゃんだし」
「そうなんですか?」
「まぁ咲ちゃんは、実力第一主義。だから私みたいな変わり者でも、実力さえあれば評価してくれる。そして意外に涙もろいの。ああ見えてちゃんと乙女なのよ。うふふ」
「あんまり想像出来ませんね・・・」
その時、周りの空気が変わり目の前の東京第一ゲートからゆっくりとドラゴンが現れた。
「あぁ~ん! もうっ! まだ話の途中だってのにぃ~!」
有沈はその巨体をモジモジと動かす。
「クラス3甲龍型か・・・まぁ、このメンバーなら何とかなるな」
美神が一歩前に出るが、それを有沈が止める。
「だいじょ~ぶ。ここは私1人で十分よん」
「ですが・・・」
有沈はその大きな手で美神の頭を撫でる。
「上官の実力を知っておくのも勉強よん。君達は避難やこぼれ落ちのサポートを頼むわん。あと、ちょっと乙女成分薄くなっちゃうけど引かないでね」
そう言ってゆっくりと深呼吸をした。
「うおおおおぉぉおおおおお!」
激しい怒声と共に有沈の筋肉が膨れ上がり。その膨張に耐えきれず身にまとったナース服は限界を超えビリビリと音を立て破けていく。変身を終えた有沈はビルを蹴りながらドラゴンへ一直線へ飛び立ち、拳をつき立てる。その拳は甲龍型の分厚い鱗を砕き、ぐらつかせる。
「おー! 気の入れ方、動きに無駄も無い! かなりすごい!」
「優香姉の動きに似てるな・・・」
「見た感じ優香先生の方が腕が立つかなー? それでもあの力は達人で間違いなし! 手合わせしてみたいなー」
エルダは腰の刀に手を当てうずうずしている。
「エルダは戦ったら勝てそうなのか?」
「あっはっは! アタイが負ける訳無いでしょー? こっちは武器持ってるんだし! アタイが素手相手で勝てないのは今の所優香先生だけだからね! 後、手合わせっていうのは勝ち負けだけが全てじゃないからな? 命の取り合いならともかく、それ以外は相手の優れた所を盗むためにやるもんだ。負けたっていいんだその数だけ力になるからね。まぁ実力が近しい者同士じゃないとそれも出来ないけど! 分かった剣?! アタイ今いい事言ったよ!?」
「はっ! 肝に銘じておきます!」
そのまま攻撃を続け、応援が来る頃には勝負は決していた。
返り血で血まみれになった有沈が、守達の元へ手を振りながら帰って来る。
「お待たせ~! 待った~?」
「いえ、別に?」
「んぅもうっ! そこは、『俺も今来たとこ』でしょ~ん?」
「え?」
「あらやだ! ちょっと! 何じろじろ見てんのよ!?」
有沈は慌ててその開けた胸を太い二の腕で隠す。
「えっ?」
「んも~ん・・・守のエッチ・・・!」
有沈は守にウインクをする。
「はぁ!? おい大地!? この人何言ってるか分かんねぇ! 助けて・・・」
大地は一定の距離まで下がり目を逸らし震えていた。
(大地の奴・・・病院での有沈さんの事がトラウマに・・・!?)
その時突然守の体が吹き飛ばされ、有沈の逞しい胸毛だらけの胸元へ顔からふわりとダイブした。
「あら、守ってば、だ・い・た・んっ!」
守が慌てて後ろを見ると美神が手を合わせ、南無阿弥陀仏と小さく呟いている。
(まさか美神先輩っ!?)
守は有沈の二の腕に抱かれ、悲鳴を上げる事も出来ずその胸毛に沈んだ。
フラフラと皆の元に歩いて戻る守。その前に腕を組み美神が立つ。
「胸毛・・・どうだった?」
「・・・少し食っちまいましたよ!!! 何するんですか!?」
「何だ、知らんのか? 強靭な肉体を持つ者の一部を体内に取り入れる事で、その力を手に入れる事が出来る。私が代わってやりたいくらいだったが、仕方なく守に譲ったんだ。感謝しろ」
「・・・なるほど。では・・・ここに先ほど手に絡みついた胸毛があります」
「やめろ」
「え? 欲しいんでしょコレ」
守はゆっくりと美神に近づく。それに応じて美神は一歩下がる。
「やめろ」
「ほら、食べてくださいよ!!!」
「やーめーろー!!!」
遠くに避難していた大地と沙耶がその様子を見守る。
「美神先輩って思ったより親しみやすいよな」
「あれ親しんでる?」
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