第45話 アドバイス

早朝8時半。約束の時間に1人も遅刻する事無く、砂浜に集合する。


「揃いましたわね。では訓練を開始致しますわ。では、準備体操をして。その後に自分の特技氷雪会長に見て頂き、実践において必要なアドバイスを頂きたいと思いますが、会長宜しいですか?」


「私は構わないよ」


各自はペアになり入念に準備体操を行った。


「では、わたくしから参りますわ」


キャロルから順番に特技を披露していく。

その光景を腕組みしながら眺める旋風。


「・・・で、いかがでしょう? 何か気が付いた事などございましたら、教えて下さいまし」


「そうだね・・・千里。君、こういう事出来る?]


旋風は手を海に向け、海上に大きな氷の柱を出現させた。


「で・・・出来ません・・・」


「なるほど・・・遠隔発動ですわね」


「それじゃ、これを練習して。威力は下がっちゃうけど軌道を読まれにくい利点と。こっちの居場所が分かりにくい利点がある。それと・・・えいっ」


旋風が指をパチンと鳴らすと、海上の氷が霧散し氷霧に包まれた。


「撤退や救出を行う際に、遠隔発動が出来ると特定の場所の視界を悪くする事が出来るから便利。千里の場合は煙幕だね。少し難しいけどキャロルなら上手く教えられると思う」


「はい! わかりました」


「次は沙耶。君の雷は凄いね。でも多分、その雷だけではクラス3までしか通用しない。クラス3でも甲龍型には、もしかしたら通用しないかもしれないね。あと・・・その銃。まだ君の本気に耐えられないんだろう? いつも手加減して使ってるね」


「うん。でもこれが限界。素材を買うお金無いから」


「・・・そういう事でしたら早くおっしゃって下さいまし。なるべくいい龍麟鉱を用意させて頂きますわ。ですが・・・あまり期待しないで下さいまし。お金の問題もありますが、そもそもクラス2までしか一般には手に入りませんし・・・」


「あ・・・だったら私のクラス3の龍麟鉱を分けてあげるよ。どうせ私は使わないし」


「氷雪会長持ってますの!?」


「うん。クラス3以上の討伐に貢献した者には、そのドラゴンから採取された龍麟鉱の一部を、譲渡される権利が得られる決まりになってるんだ。クラス2までは捕獲だし、クラス3以上は命がかかってくるから、その見返りだろうね。勿論売る事は出来ないし、加工するにも莫大なコストがかかるから、使い道の無い人は軍に売ったり寄贈したりするんだけど・・・私は貰って取ってあるんだ。もちろん譲渡は軍関係者だけだし、審査も有る。学校からは持ち出す時も厳しいけどそれで良かったら。」


「どのくらいの量がございますの?」


旋風は両手を広げて


「これ位の鱗が3枚」


「1500万は下りませんわね・・・しかし本当に貰っても構いませんの?」


「あげるよ。キャロルには世話になってるし。私は君たちが好きだからね」


「ありがとうございます。しかし、わたくしはクラス2までしか加工する技術を持っていませんの・・・お父様にお願いして技術者を貸してもらうにしても・・・今は急がしい時期ですし・・・うーん・・・」


「それじゃ・・・俺に包丁造るの教えてくれた爺さんに、頼んでみようか? 爺さんが触れさせてくれなかった鱗みたいのがあったから、多分加工は出来ると思うぞ。まぁ九州まで来ないと会えないけど・・・」


「・・・助かりますわ。後で連絡を取ってみて下さいまし」


「了解!」


「とりあえず続きをやろう。次は大地の事なんだけど・・・君の能力は文句なしのトップクラス。力さえ戻ればそれだけで、クラス4までと戦えるほどの力になる。だからまだ力の弱い今の内に、色々と弱いからこそ学べる事を学んでくれ。そして力が戻っても過信しないで。クラス4以上は1人では無傷では勝てない」


「ばっちゃも同じような事言ってたな・・・。」


「余が憑いている限り、大地様を危ない目には合わせませぬ」


「そうそう・・・櫻姫様ほどじゃないけど私も精霊憑きなんだ。雪の精霊が憑いているんだが・・・どうも櫻姫様に怯えて出てきたがらないから、紹介も出来ないけど・・・まぁ、精霊憑きとしての能力の上げ方をこの休暇中に教えるから参考にしてね」


「櫻姫・・・何かお前、みんなに怯えられてるけど・・・昔悪い事でもしてたのか?」


「余は何もしておりませぬ。勝手に皆が怯えておるだけにございます」


「そんな威圧的な気を垂れ流してたらみんな萎縮するさ・・・」


「何か言ったか? 旋風とやら」


櫻姫は旋風を睨む。


「あ・・・いえ・・・ごめんなさい・・・」


「氷雪会長続けて下さいまし。まだわたくしと、守にアドバイスを頂いておりませんわ」


「あ・・・うん。キャロル。君なんだけど・・・うーん・・・言いにくいな」


「はっきりおっしゃって下さいまし!」


「ごめん・・・。そうだね、君はクラス3以上だと今の所、全く通用しないし、この中で君が一番弱い」


「・・・知ってますわよ・・・! それがアドバイスですの!?」


「・・・だから、絶対にクラス3以上で、何があっても前線に出てはいけない。いや・・・出るな」


「わたくしだって戦えますわ!」


拳を握り声を荒げるキャロル。


「・・・そうだなキャロル。中衛で魔力の供給を受けていれば、そこそこの火力は出せるだろう。しかし、君は基本の魔力だけでなく、放出量も人並以下。中衛火力なら君でなくてもいい。・・・君は、戦場での死因第一位は何だと思う?」


「失血死ですわ」


「それは結果で。理由はだ。私は実戦で多くの仲間が、そうやって死んで行くのを見てきた。」


キャロルは唇を噛み締め下を向く。


「これから君たち全員が軍曹階級まで上がれば、キャロルがチームを率い出動する事になるだろう。私は断言出来る。君が前線に立つと、負傷した君を助けるためチームの誰か、もしくは皆が犠牲になる。・・・私は付き合いこそ浅いが、君たちの事が好きだ。・・・だからあえて言わせてもらう。私を嫌ってくれても構わない。もう一度言う。君は前線には出るな」


「・・・嫌ですわ。わたくしは絶対に諦めませんわ! 必ずや前衛に立つ力を手に入れて見せますわ!」


「君という奴は・・・もう少し素直かと思ったのだが・・・」


「ですが・・・その力を手に入れるまでは前線には出ません。からの的確なアドバイスには従いまわ」


「ありがとう・・・。」


ぺこりと頭を下げる旋風。


「ふんっ・・・」


キャロルの頭をポンッと軽く叩く守。


「良く堪えたじゃないか。偉いぞ・・・グフッ!」


キャロルの蹴りが守の腹にめり込む。


「気安く触らないで下さいまし!」


「・・・ごめん」


「最後は守だったな。君、もう一度ドラゴンの力を限界まで引き出してくれる? そして、あそこに立って欲しいんだ」


旋風は少し離れた波打ち際を指差す。

守はその場所まで、殴られたお腹を押さえながら歩いて行く。

そこで、守は力を解放した。守に角や羽などが出現しそして、鱗が守の全身を包み込む。


「これでいいんですか?」


「うん。じゃあ今から君を凍らせるから、無理そうなら言ってね」


「えっ?」


旋風は右手を守の方に向け、氷の竜巻を出現させる。


「どう? 寒い?」


「んー少し寒いです」


旋風の近くに立っているキャロル達は、手を肩に当て震えている。

我慢出来なくなったキャロルは、シールドを展開し皆を包み込む。


「出力を上げるね」


どんどん出力を上げていく。次第にキャロルのシールドも氷始め、旋風自身も凍り始める。


「どう?」


「すごく・・・寒いです! もう無理です!」


旋風が右手を下ろす。すると竜巻は消えていった。


「わかった。ありがとう」


「何が分かったんですか・・・?」


守はガタガタと震えながら旋風の元へ戻る。


キャロル達は発熱した千里を、ストーブ代わりにして温まっている。その輪に旋風と守も加わる。

ひとしきり温まった後、再び元の立ち位置へと戻る一同。


「で・・・何が分かりましたの?」


「守の耐寒性を調べてた・・・。うん。守。君にお願いがあるんだが・・・」


「何です・・・? 俺に出来る事なら」


「君。私のパートナーになってくれないか?」


『な・・・なんですってー!?』


同時に声を出すキャロルと千里。


「ちょっと待って下さいまし! 氷雪会長ほどの方なら、パートナーなど引く手数多ではありませんの!? なぜこんな奴を!?」


「こんな奴って言うな! つーか・・・パートナーって何だよ?」


「ああ・・・そうか。君は軍曹階級になったばっかりだったね。 パートナーっていうのは出撃の際の最小構成単位で、例えば君たちがEチームとして申請していても、状況によっては別々の場所に行ってもらう事だってある。その中で相性の良い者。特別な連携を持つ者が別々の戦場へ派遣されないように、予めパートナー申請をしておく事で、バラバラになるのを防ぐシステムの事だよ」


(そうだったの・・・よかった・・・パートナーって付き合うって事じゃなかったんだ・・・)


千里は心の中でほっとする。


「なるほど・・・それで守の耐寒性を見てましたの・・・。普通の人では先ほどのわたくしようにシールドを展開しても、それを超えて凍り付いてしまう。前線に気を使って手加減していれば、ドラゴンに致命傷を与える事は出来ないので。ドラゴン並みの耐久を持つ守にシールドを習得させ、前線に立たせよう。そういう訳ですわね?」


「流石はキャロル。そういう事。残念ながらシールドを張ると、どうしても攻撃面がおろそかになってしまうからね。シールド専門の部隊があるにはあるんだけど・・・クラス3以上になると1人につき1人つかなくちゃならないし、離れれば離れるほどシールドが薄くなりコントロールも難しくなるから、そのシールド専門の人も、ドラゴンの射程内で動かないといけない。その分リスクが増すんだ」


「しかし・・・守にそれが可能ですの? 足手まといになるのが落ちじゃありません?」


「お前酷ぇな!?」


「その姿での攻守はクラス3以上にもちゃんと通用するし・・・君、まだ上があるんだろ? いざとなったらそっちを出せばいい。それにこのEチームで出撃する際、高クラスとの戦闘経験を積んだ者がいた方が、何かと便利だろうと思って提案しているんだが・・・どうだ? 守。」


「俺は・・・」


「ええ、構いません。どうぞご自由に守を使って下さいまし」


「何でお前が、勝手に決めるんだよ!?」


「キャロルちゃん・・・でも守君が危険にさらされるんだよ・・・私は反対・・・」


キャロルは千里を無視して続ける。


「ですが、いくつか条件がございます」


「条件まで!? 俺はお前の所有物かよ!?」


「まったく・・・うるさいですわねっ!」


キャロルは守の襟首を掴み、海まで投げ飛ばす。

ポンポンと手を払いながら話を続ける。


「条件1。守の入手した龍麟鉱はすべてわたくし達に譲る事。条件2。氷雪会長が卒業するまでの間の期間という事。・・・そしてこれが一番重要な事。・・・守を決して死なせない事」


旋風を威圧にも似た表情で真剣に見つめるキャロル。


「分かった。条件を飲むよ。そうだな・・・もし守を殺してしまったら・・・私も死ぬよ。それでいいだろ」


「それで構いませんわ。では・・・守をお願い致します。」


キャロルは深々を旋風に頭を下げた。


「わ・・・私からも・・・守君をお願いします・・・!」


千里も同じく頭を下げる。


「うん。わかった。約束するよ」


そこへ投げられた守が、水を滴らせながら戻って来た。


「キャロル~・・・てめぇ! 濡れちまったじゃねぇかよ!」


「ッチ・・・本当にうるさい奴ですわね・・・! もう一度泳いでらっしゃい!」


再び守を掴もうと手を手を差し出すキャロル。逆に、その手を掴み勢いよく海へ投げ飛ばし、キャロルはそのまま海へと着水する。


「ざまぁ見ろ! 同じ手を食うかよ! お前も濡れやがれーーーってあれ!?」


守の体が宙に浮き、そのままキャロルの落ちた所と同じ所まで移動する。


「おー。念動術か」


そこでキャロルに足を掴まれ水中へと引きずり込まれた。


「何してくれますのよ! この馬鹿守! 溺れ死んで下さいまし!」


「お前だって・・・ぶはっ! 同じ事しただろうが! ブクブク」


海の中でもみ合う2人を砂浜から見る一同。


「・・・俺らも泳ぐか」


「大地君泳ぐの? この訓練服で?」


「生物は全て海から生まれた・・・つまり海へ向かうのは帰巣本能! さらば!」


大地は海へ向かって走り出す。


「大地。私も行く」


「ええっ!? 沙耶ちゃんまで!?」


「楓も! 立ってても暑いですし・・・行きましょう!? 足だけでも!」


「私も行く!」


「氷雪会長まで!?・・・わかりました! 私もいきますよ~!」




砂浜の木の下で、溺れた守がシートの上に寝かされている。その横には濡れたキャロルが座っていた。その目の前では千里達が波打ち際で楽しそうに遊んでいる。


「まったく・・・みなさんは・・・又、訓練もせず、海で遊んでらっしゃいますの?」


「まぁ、昼からやればいいだろ? 俺らも濡れちまったし少しくらい大目に見てやれよ」


「それは貴方が、わたくしを投げるからですわ! まったく・・・」


「お前が先にやったんだろ!・・・ってそういや俺は結局、氷雪会長のパートナーになるのか?」


「・・・そういう事になりましたわ。貴方の手に入れた龍麟鉱を、こちらに回して頂けるという条件と、卒業するまでという条件を加えさせて頂きましたわ」


「そっか・・・俺が頑張れば、いい素材が手に入るんなら頑張らないとな」


「・・・無理をして、死なないで下さいまし」


「今さっき俺を殺そうとした奴が、言うセリフかよ」


キャロルは膝を抱えて座り、少し寂しそうな顔をしたまま返事もしなかった。

てっきり又怒鳴られると思っていた守は、拍子抜けしてしまう。


「・・・なぁキャロル」


「何ですの?」


「パートナーってさ一人しか決められないのか?」


「どうしてですの? 他にパートナーで組みたい方が居るなら、氷雪会長の件お断りしたらどうですの?」


「その・・・どうせ組むなら、お前と組みたいなって・・・ちょっと思っただけだよ」


「なっ!?」


予想外の言葉に、キャロルの顔が真っ赤に染まり。心臓の鼓動が自分でもはっきりと分かる位に高鳴る。

キャロルは自分を落ち着けるために、大きく息を吸いそしてゆっくりと吐き出す。


「何だよ・・・嫌なのかよ・・・」


少しムッとした表情をする守。


「いえ、嫌ではありませんわ。ですが氷雪会長のおっしゃられた通り、今の貴方に必要なのは高クラスとの実戦にて多くの経験を積み、それをこのチームに生かす事ですわ。それに、わたくしのパートナーには剣が居ますので、どちらにしても今のところは守と組む事は出来ませんわ」


「そっか・・・キャロルには剣がいるもんな・・・。」


守は少し複雑な気持ちになる。


「だとしたら氷雪会長が卒業した後、俺は誰と組むんだ? 大地は沙耶と組むだろうし、太とは意思疎通が出来ないし・・・となると・・・千里か!」


「ちょ・・・ちょっと待って下さいまし! それは駄目ですわ!」


「何でだよ・・・」


「とにかく、それは駄目ですの!」


「お前さっきからなぁ・・・俺はお前の所有物じゃ無ぇんだぞ! 勝手に決めるなよ!」


「わたくしも守と組みたいの!」


キャロル言った後ハッと我に返り、は顔を真っ赤に染める。


「そ・・・それは嬉しいけど。剣はどうするんだよ・・・。お前あいつの姫様なんだろ?」


「剣には妹がおりますの。その妹が来年この特戦校に入学するはずですわ。能力も相性もわたくしより上ですの」


「とにかく・・・ちゃんと剣とも話しておけよな。あと千里を1人にはやっぱり出来ない。あいつは本当は戦いなんかしたくないんだ。それを1人で戦わせるなんて俺には出来ない」


「覚悟が足りませんわね。・・・ですが、わたくしも同意見ですわ。それに関しては追々考えましょう」


「そうだな。頼むぞキャロル」


「ふんっ。言われなくてもやりますわよ。千里もEチームの仲間ですもの」


後ろの方からメイドが近寄ってくる。


「キャロル御嬢様。昼食の準備が整いました」


「ありがとう。みなさん! 昼食に致しますわよ! 上がってきてくださいまし!」


キャロルは浜辺で遊んでいる皆を呼び寄せた。

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