第20話 茶室

離れの茶室で食事を取る桜。出された食事をすべて平らげ満足そうな顔をしている。


「お食事は満足頂けましたでしょうか?」


着物姿のキャロルは部屋に入って来る。


「この料理はお主が?」


「はい。相良さんに出す料理を他の料理人に調理させる訳にはいきませんわ」


「確かに美味であったぞこの・・・至高の料理」


「究極ですわ。お腹が少し落ち着きましたらお茶を点てますのでお召し上がりになって下さいまし。では又後ほど」


「うむ。」


(大久保キャロル・・・誠に少し聞いたが、本当に惜しい逸材だのう。上の2人の姉は実力で軍上部に所属し父親は超一流の兵器開発のプロにして日本一の金持ちときたものだ。劣等感に苛まれるのも無理は無いか・・・)


少しして桜はキャロルを呼び出す。

呼び出されたキャロルは手際良く茶を点て始める。


「ふむ。流石大久保の娘・・・教養を身に着けておるな」


キャロルは桜へお茶とお茶菓子を差し出す。

お茶を飲みながら話を始める。


「この度の戦いの指揮を取ったそうだの。よくあの戦力で耐えてくれた感謝する」


頭を深く下げる桜。


「そんな・・・頭を御上げ下さいまし。わたくしは軍人の本分に従ったまでですわ」


「あの大地の変なスーツもお主が仕立てたのか?」


「へ・・ん!?・・・そうですわ」


「あのスーツが無ければ大地の大怪我をしていた事だろう、重ねて感謝する」


「所で・・・なぜ大地君の力を封じたんですの? 差し支えなければお教え下さいませんか?」


「・・・大地はな、ワシと同じ【精霊憑き】だ。それだけでは無いがの・・・。」


「精霊憑きですって!? あの神憑きと並んで2大特異能力の!? あいつがですの!?」


「うむ。精霊憑きは自分以外の生命力を使う事が出来る。それは精霊が自然との間を取り持ってくれるからだ。大地はその力が強い」


「でしたら尚更なぜそんな事を?」


「・・・自信は慢心を生む。力を持てば調子に乗って無茶をする。ドラゴンの恐ろしさは侮ってはならんのだ。死んだ者達の多くはその慢心に食われたのだ。そしてこのワシ自身もな」


桜は左足をポンポンと叩く。


「大地にはそれを理解した上で成長して欲しかったのだ。この思いはワシだけでなく大地の両親の思いでもある」


桜はお茶菓子をつまむ。


「・・・私は後学のため、今貴方の施した術の解術に取り組んでいます。これは続けさせて頂いてもよろしいのですか? あわよくば解術してしまってもよろしくて?」


「大地が出会った者の手で解かれるのであれば、それも運命だろうて。好きにするがよい。どうせ2年生まで続けば実践訓練の後解くつもりであった」


「ありがとうございます。それまでには解いてみせますわ」


「ぬかすのう。はっはっは」


桜は少し嬉しそうに笑う。


そういえば大地さんは九州で祖母と暮らしてたっておっしゃってましたわね。ご両親は出張でして・・・」


そこまで言ってキャロルはハッとする。


「死んだよ・・・いや帰らぬ人になったと言うべきか」


「し・・・失礼致しました」


キャロルは頭を深く下げる。


「よい。2人は立派な軍人だった多くの人の命を救った。大地には、いやワシの誇りでもあった。しかし5年前・・・これ以上は国秘だから言えぬが。・・・少し辛気臭くなってしもうたの。よし次はワシが茶を点てよう」


「・・・よろしくお願いします」


桜も手際よく茶を点てキャロルへと差し出す。


「お点前頂戴致します」


キャロルは作法に則って飲む。

桜はその姿を見ながら言う。


「お主・・・大地と結婚せぬか?」


「ブフーーーー!」


突然の申し出にキャロルはお茶を盛大に噴出してしまう。


「ななな何をおっしゃいますの!? ああ!? お茶が! 失礼致しました!」


立ち上がろうとして着物の裾を踏んでしまい顔面から突っ伏してしまう。


「はっはっは! いや、これは失礼した。大地の事を気に掛けてくれておるのでもしかしたらとな。冗談だ大地には都会の娘の相手は務まらん。お主があまりに良く出来ておるのでついな、許せ」


キャロルは床を拭き再び元の席へと座りなおす。その顔は赤面している。


「そういえば、お主のお茶菓子が無かったのすまん手土産を持ってくるべきだった失礼した」


「お気遣いありがとうございますわ。私の分は結構です。これがありますので」


キャロルは着物の帯から小さな箱を取り出しその箱を小さなお皿の上に広げる。


「それは何というお菓子かの?」


「名前は分かりませんが、今日頂いたケーキについていた砂糖菓子ですわ」


キャロルはお菓子を小さい口へと運び食べる。


「・・・おいしそうだの」


「ただの砂糖の塊ですわ」


そういうキャロルの顔からは笑みがこぼれていた。


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