第9話守とキャロル
放課後、渡された地図を頼りにキャロルの家へと向かう守。
「確かこの辺りなんだけど、何かさっきからこの城と堀の周りぐるぐるしてるような・・・」
「おいお前さっきから何故この辺りをうろついている」
突然現れた黒服のスーツ2人組みに呼び止められ守は驚く。
「おい貴様何か怪しいな。ちょっと来い」
「ええ!? ちょっと・・・」
腕を掴まれ問答無用で連れ去られそうになる守。
「そいつは俺の知り合いだ。放してやってくれ」
「剣様!失礼しました」
黒服は即座に守を放し立ち去る。
「・・・で、貴様が何の用だ? 謝罪でも求めに来たのか?」
「相変わらず嫌味な奴だな・・・違ぇよ、校長から手紙を預かって来たんだ」
「俺が預かろう」
手を伸ばす剣。
「悪いけどよ、直接手渡しするように言われている」
「ッチ」
剣は舌打ちをする。
「仕方ない。案内するから摑まれ」
そう言って剣は座りおんぶの体制を取った。
「何でお前におんぶなんかされなきゃなんねぇんだよ!」
「姫の屋敷はあの城だ。お前も散々堀を歩いて来たけど入り口なんて無かっただろう。屋敷に行くにはこの堀を飛び終えて行かねばならん、お前・・・飛べないだろ」
「キャロルの家ってあの城かよ!? とんでもねぇ家柄なんだな・・・どうりで高飛車になるわけだよ」
守は剣におぶさる。
「恥ずかし・・・ってうおおおおい!」
乗った瞬間跳躍し、軽く掘りを飛び越え敷地内に着地するーーー前に剣は守を投げ飛ばす。
守は着地出来ず地面に激しく体を打ち付けた。
「痛ってぇーーー! おい剣てめぇ最後投げる必要無かったろクソっ!」
「姫は高飛車では無い、口に気をつけろ」
そう言って屋敷に歩き出す剣。
「おい待てよコラ!」
守は慌てて追いかける。
広い屋敷中、他の部屋に比べて一際大きい部屋の前で立ち止まる。
「ここが姫様の部屋だ、ちゃんとノックをして一礼して入れ。密書というなら俺も立ち会う訳にはいかんだろう。では」
剣は後ろを向き歩き出し、少し歩いて止まる。
「昨日は姫様を救ってくれた事・・・か・・・感謝する」
そしてそのままこちらを向くこと無く立ち去っていった。
「素直じゃねぇなぁ・・・」
守は言われた通りドアをノックする。
「どうぞ」
中からキャロルの声、ドアを開け一礼する。
「失礼しまーーーー・・・ッツ!?」
そこにキャミソール姿のキャロルがベッドの上に横になって本を読んでいた。
薄いキャミソールの下にはうっすらと下着が透けて見える。
「きゃあぁああああああ!」
「うあああぁああぁ!」
2人は同時に悲鳴を上げる。
「どうかなさいましたか姫様!」
廊下をドカドカという足音を立て黒服が走って来る。
キャロルは守の腕を掴み、部屋の中へ投げ飛ばしドアを閉める。
「な・・・何でもありませんわ! 虫が出ただけですわ!」
キャロルは扉越しに黒服に説明する。
「そうですか・・・。では又何かありましたらお呼び下さい」
立ち去る黒服。
キャロルはキッと守を睨みつけ、頭を足で踏みつける。
「痛ってぇ・・・」
「ちょっとぶつけた位で痛がるなんてーーー」
キャロルは言いかけて止まる。
守の腕からは大量の血が流れていた。
「ちょちょっと! しっかりして下さいまし!?」
守を抱きかかえる。
「出血が多いですわ・・・意識は・・・ねぇ貴方! 何が見えまして?」
そう言って守の前に指を2本立てる。
守は声も絶え絶えで答える。
「ち・・・小さい胸」
ゴスッ
「ぎゃああぁあぁぁああ!」
守の鼻からは鼻血が吹き出し、キャロルの手からは血がポタポタ落ちている。
「あっ・・・つい」
「ついじゃねぇ・・・!」
ー1時間後ー
守はキャロルの反対側を向いて正座している。その後ろからキャロルが守の左腕に手をかざし、治癒術を施していた。
「こっち見たら殺しますわよ」
「見ねぇよ! 大体見る所なんかねぇ・・・いてて!やめろ!」
「治ったら覚えてなさい」
キャロルは守の腕の傷を見ながら昨日の事を思い出す。
(突然現れたドラゴン・・・あれは間違いなくこいつだったはず・・・。彼らを巻き込んでしまった・・・私の我侭に・・・)
「・・・なぁキャロル」
「呼び捨てはやめてくださらないかしら? それに敬語を使いなさいとあれほど・・・」
守は無視して続ける。
「あのドラゴンは俺なんだ。怖かったろ・・・すまん」
明らかにクラス4以上。意識も朦朧としててはっきりとは覚えて無いが、戦龍型と・・・もしかしたら甲龍型のハイブリッドだったのかもしれない。はっきり言って恐怖そのものだった。
「べ・・・別に。私はドラゴンを倒すために修行をしているんですのよ。あんなので怖がるわけ無いですわ。・・・それよりあなたは一体何者なんですの?」
「俺は・・・人間とドラゴンのハーフ・・・らしい」
キャロルは驚愕する。
「ありえない! 非現実的ですわ! 大体サイズが・・・交尾はどうやって!?」
「仕方ないだろこうして存在するんだから! あと交尾とか言うな!」
守のひと言にキャロルも顔を赤らめる。
「と・・とにかくほら治りましたわよ! まったく、魔力がすっからかんですわ」
「おいキャロル! まだこの鼻血が治って無いぞ!」
「こっち向くなって言ってますでしょう!?」
ゴスッ!
私服に着替え終わったキャロルは髪を結わえている。
「で? あんた何しに来たんですの?」
「あーそうだった。この手紙を校長がキャロルに直接渡してくれってさ」
胸ポケットから取り出した手紙は血だらけになっていた。
封を開け、文章の内容に目を通すキャロル。読みながら段々と顔が曇っていき、読み終わったキャロルは手紙を握り潰す。
「な・・・なんですって~!?」
「何て書いてあるんだキャロル・・・痛っ」
キャロルは手紙を顔に投げつける。守は手紙を拾って読む。
「なになに・・・通知 この度の不祥事により 大久保 キャロル 1年生階級 特A 同軍曹より降格とし、懲罰階級 1年生階級 F級 を命ず。って・・・確か懲罰階級F級って事は・・・E級の俺らは上官扱いだよな・・・つまり・・・?」
「嫌! 絶対嫌ですわ!」
「敬語・・・?」
「嫌ですわあああぁあああ!」
頭を抱え込むキャロル。
「まぁどうでもいいけどな。俺は帰るぞ」
「送って行きますわ・・・行きます」
「お前案外真面目なんだな。俺は敬語なんか気にしねぇよ。見送りなんかいらねぇから本の続きでも読んでろよ」
「あんた堀越えられないでしょ」
「あ」
「ほら、おぶさって下さいまし」
キャロルは地面に座りおんぶの体制をしている。
「やっぱ剣にやってもらう! やっぱ恥ずかしいぞこれ!」
「うるさいですわ! 早くして下さいまし! これはお礼ですわ! お礼! あんたに・・・その・・・助けて貰ったでしょう・・・」
「わかったよ!」
キャロルにしぶしぶおぶさる。
「落ちないで下さいまし」
そう言って大きく跳躍する。
「ちょ! あんたどこ触って」
「知るか! 落ちないようにするので・・・必死なんだよ!」
見事着地ーしたのはキャロルだけで、守は着地に失敗し転がっている。
「ぬおおお! お前らって奴はやること同じかよ!」
「あんたが変なところ触るからですわ!」
「とにかく、ちゃんと手紙は渡したからな! あと・・・お前明日ちゃんと学校来いよ! プライドの高いお前だから辞めたりしそうだからな、ちゃんと登校して大地と千里にお礼言えよ! 特に千里にちゃんと謝れよな!」
「うるさいですわ! 分かってますわよ!」
「ったく・・・じゃ、又な」
そう言って立ち去る守の背中を目で見送りつつ拳を握る。
(正直学校は辞めようと思ってましたわ・・・。懲罰階級なんてバカにされるに決まってる。恥、耐えられませんわ。そう思ってた、でもあいつら3人は入学してずっとバカにされながらちゃんと登校し毎日放課後バカにされながら無駄な努力をしている。バカ、バカ、バカ・・・でも、ここで私が逃げたら私はバカ以下。そんな事・・・私のプライドがゆるしませんわ!)
守がしばらく歩いた後。キャロルはつぶやく。
「ありがとう」
もちろん守には聞こえないように。
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