第30話 似合ってるよ
リビングの天井を見つめる。なんだかこの景色は馴染みになってしまった。
「ねえ、少し話しをしてもいい?」突然の声に俺は上体を起こしてその主を見た。
「直美、寝なくても大丈夫なのか?」直美は枕を胸に抱いて、可愛らしいパジャマを着ていた。先ほどの騒ぎの後で気が立って眠れなくなっているのであろう。
時間は、午前三時。思ったほどさきほどの騒動から時間が経過していないことに驚いた。
「明日の夜、本当に何かが来るのかしら」直美は疑問を口にした。彼女もモンゴリーの言葉を鵜呑みにするのには抵抗があるようだ。
「そうだな・・・・・・でもさっきも言ったけれど、モンゴリーが嘘を言っているとは思えない。なにか理由があって魔界を裏切るような真似をしたのではないかと思うんだ」頭のうす路で腕を組み、もう一度ソファーに頭を埋めた。
突然、直美が覆いかぶさるように俺の顔を覗き込んできた。
「お、おい・・・・・・・?!」慌てて俺は少し仰け反り仰天する。
「本当にもう、一人だけで抱え込んでは駄目だよ。私を・・・・・・・私達を頼ってもいいんだよ」彼女は俺の胸に頭を埋めた。その声は少し涙声のような気がした。
「判った、明日は直美達と一緒に戦うよ。そして、笑ってこの家に帰ろう」自然と直美の頭を撫でていた。
「絶対だよ!」彼女は涙を拭きながら笑顔を見せる。
「ああ、約束だ」俺も誠意一杯の笑顔で返した。
次の日、俺は昼過ぎまで寝ていた。昨日夜遅くまで起きていた為か時間の感覚が麻痺したようだ。結局、直美の事、モンゴリーの事、そして今晩に起こるという戦いの事を考えると寝付くことが出来なかった。
確か叔母さんと叔父さんは二人で出かけると言っていた。リビングルームを占拠している俺を起こさないように、気を使ってくれたようだ。
「おはよう。早いお目覚めね」詩織さんが、リビングのダイニングテーブルの椅子に腰掛けていた。
「あ、おはようございます」目をこすりながら詩織さんの姿を見た。彼女は優雅にコーヒーを口にしていた。
「一緒にどうかしら?」彼女は食器棚からカップを一組取り出しコーヒーを勧めてくれた。俺はソファーから起き上がりテーブルに移動する。
「有難うございます・・・・・・・」
「あれから、モンゴリーからは何か接触はあったの?」
「いいえ、特に何もありません」
「そう、今晩の敵のことだけど・・・・・・」彼女はコーヒーカップをテーブルに置くと肘をつくと少し前のめりになって語りだした。
「おそらく、地獄界の襲撃ではないかと思うの」
「じ、地獄・・・・・・ですか? あの、閻魔様や鬼がいるという」唐突な話の俺は仰天する。
「そう、天上界、魔界、地上界があるように地獄もあるの。ただ、地獄だけは三世界とは特別な結界が張られ隔離していて、自由に行き来することが出来ないのよ。」
「それじゃ、どうやって・・・・・」
「それが、何百年に一度、結界の壁が弱体化して人間界に紛れ込む事があるという話を聞いたことがあるわ」再び彼女はコーヒーを喉に流し込んだ。
「でも、俺聞いたことがあるんですが・・・・・・・鬼の正体はバイキングで、昔の鬼伝説は日本にやってきた西洋人の話だと・・・・・・」赤鬼は赤く焼けた外国人を見て、角は被っていた兜を見た人間が勘違いしたものだと聞いたことがあった。
「それは、逆かもしれないわ。鬼を見た西洋人が鬼の姿を真似たのかもしれなくてよ」詩織さんは背もたれに体重を預けると腕組をした。
「・・・・・・」俺は返答に困っていた。
「そんなことはどうでもいい事ね。最近空に暗雲が立ち込めていたのも、地獄の扉が開く前兆のようなの。神戸さんが知っていたわ・・・・・・・モンゴリーから以前聞いたことがあるそうよ」
「じゃあ、どうしてモンゴリーは、魔界を裏切って・・・・・・神戸達と協力したほうが勝てる確立が高くなるのは誰が考えても明らかなのに」そう一人で戦うより皆で戦うほうがいい。残された人達を悲しませないためにも・・・・・・・・。モンゴリーが一声かけてくれれば、きっと神戸やファム達も協力してくれるはずである。
「そうね。彼女には彼女なりの考えがあるのでしょう。でも、そんな危険な賭けを彼女だけに任せることは出来ないわ」詩織さんの言葉はもっともである。モンゴリー一人戦わせて、俺達が素知らぬ顔をすることなど出来るはずが無い。モンゴリーがどんな行動を起こそうと俺達も戦うべきであることは明らかであった。
「今晩、スカイツインタワーの屋上で地獄の兵達を皆で向かえ撃つ。それから私達は今晩に備えて準備をする。神戸さんにも伝えておくわ。それと、モンゴリーが貴方の体を狙ってくることも考えられるから・・・・・・夜まで直美と一緒に行動すること。良くて?」
「えっ直美と・・・・・・解りました」昨晩の事を思い出し少し顔が熱くなった。
「なんだか、進展があったようね」
「えっ?」
「顔に書いてあるわよ」
「ほ、本当ですか?!」俺は顔を触って確かめた。
「嘘よ。あなたは本当に正直ね、なんだか少し妬けるわ」そう言うと詩織さんは席を立ってリビングから姿を消した。しばらくすると直美が入ってきた。
「詩織姉さんに、今日一日幸太郎君と一緒にいるように言われたのだけど」直美が少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「ああ、俺もそう言われた」
「そ、そうなの」彼女は先ほどまで詩織さんの座っていた場所に腰を下ろした。何故か俺は直美の顔を直視することが出来なかった。彼女も何処か部屋の隅を見つめて伊いるようであった。気まずい空気が流れる。
「「あのー」」なぜかシンクロするように言葉が重なった。
「どうぞ」俺は直美に言葉を発する権利を譲った。
「い、いいえ、幸太郎君こそどうぞ」
「えっと・・・・・・・どっか行かないか? 家の中にずっといても気が滅入るだけだ」提案してみた。
「それって私と二人っきりじゃ、面白く無いって言うこと?」少し唇を尖らせて彼女は怒ったような顔をした。
「い、いやそういう訳では無くて、昨日は結局、詩織さんと一緒になってしまったから・・・・・・その埋め合わせも兼ねて・・・・・・嫌ならいいけど」頬の辺りを人差し指で掻いた。
「え、あ、い、嫌じゃないけど・・・・・・・まあ、そんなに言うなら、一緒に出かけてあげてもいいけど・・・・・・・仕方無いわね」なんだか言葉と表情がリンクしていない。
「それじゃあ、俺は出かける準備するわ」身支度をする為に、ファムに占領されている部屋に行く。。
「私も着替えてくるわ」なんだか嬉しそうに自分の部屋に戻っていった。彼女も家の中に一日中いるのも苦痛であったようだ。
しばらくすると直美が着替えを終えてリビングに現れた。
「あ、それ昨日の」直美は昨日買った白いワンピースを着ていた。改めて見ると本当に似合っている。黒髪に清楚な感じでどこかのお嬢様のようであった。
「や、やっぱりおかしいかな?」言いながら彼女は自分の身なりを再確認していた。
「いや、可愛い、よく似合っているよ」
「えっ、や、やだ!」直美は俺の背中の辺りを思いっきり叩いた。
「痛っ!」俺は痛みのあまり悲鳴を上げた。
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