第22話 友達

「へー今日はお友達が一杯ね!」叔母さんは能天気に微笑んでいる。


「母さん・・・・・・リビング使っていい?」詩織さんが叔母さんに聞いた。


「ええ、どうぞ。私は買い物に行ってくるから自由にどうぞ」そう言うと叔母さんは出かけて行った。

 ソーシャも人間の姿に変身していた。髪の短いボーイッシュなジーパンを履いた可愛らしい女の子の姿であった。


「俺は、この姿が本当の姿なのか? 本当は女・・・・・・・なのか?」俺の変身は相変わらず深夜十二時にならないと戻らないようである。


「そうね、男、女の概念は人間界・・・・・・・この地球の概念よ。天上界、魔界とも男、女の区別はないのよ」


「そうじゃ、実はワシも」いいながらファムが胸をはだけた。


「えっ!」俺の目に二つの小振りなボールが飛び込んできた。 形のよい胸であった。


「ま、魔王様、はしたない!」神戸が慌ててファムの胸を体で隠した。 以外と神戸は純情なのだなと思った。


「痛っ!」直美が俺の頭を叩いた。


「じっくり見ているんじゃないの!」顔を真っ赤にして直美は怒っていた。


「貴方がお母様のお腹に居た時に、男の子になる事を選んだのよ。変身した時はその姿になるけれど、人間界での男の子の姿が今の貴方の本来の姿と考えても問題ないわ」詩織さんは紅茶の用意を始めた。


「あ、詩織姉さん、私がやるわ」直美が詩織の手からティーパックを受け取った。


「・・・・・・・まだ、姉さんって呼んでくれるのね」詩織さんは小さな声で呟いた。


「えっ?」直美にはその声が聞こえていない様子であった。


「話は変わるけど、以前エリザ・・・・・神戸さんが話していたように、天上界では人間界を浄化してやり直しさせようという考えを持つものがいるわ。神話に残る箱舟伝説などは、その未遂事件が伝承になっているのよ。ただ、全ての天上界の人間がそのような考えではないの」詩織の言葉がそこまで告げたところで、直美の作った紅茶が差し出された。


「有難う・・・・・・」そう言うと詩織さんは紅茶を一口含んだ。


「神戸、俺は疑問があるのだけど」


「なに?」神戸は直美の入れた紅茶を手に取りながら聞いた。


「聞いた話と大分食い違ってきている。お前はモンゴリーが人間界を守ってきたと言っていた。それに猫の姿になったのは呪いをかけられたのだとも」以前、魔界で聞いた話では確かそういう内容であったと思う。


「そうね・・・・・・。モンゴリーが人間界を守っていたことは事実よ。ただ、何かが彼女を変えたの。突然彼女は私達の前から姿を消した、そして私達は彼女を捜索していた。そして強い魔力を感じて、あなた達の前に私は転校生として現れた。これは嘘ではないわ」神戸はティーカップを机に置いた。


「それじゃあ、天上界が敵だって話は?」


「それは、さっき詩織さんも言っていたけれど、そういう勢力があることは間違いないわ」


「それと、多くの人は誤解しているようだけど、人間界は神が創ったものでは無いのよ。天上界、魔界、人間界は平等な存在なの。それぞれが他の世界を滅ぼして良い理由なんて何処にもないのよ」詩織さんは足を組んだ。長い足が綺麗だ。


「えっ、そうなの?!」神戸が驚いた。彼女が知らないのであるから俺達が知らないのも当たり前だ。


「天上界は奇跡、魔界は魔法、そして人間界は科学。それぞれが発達した世界なの。元は同じ存在らしいわ」詩織さんが紅茶をもう一口飲み込んだ。


「人間界の祖先は、魔界と天上界の住人のハーフなのだ」突然ファムが言葉を発した。

 俺達は、ファムの唐突な発言に目を見開いた。


「どういうことですか?」神戸はファムに質問した。


「これは、魔界、天上界のトップシークレットなのだ。 天上界と魔界の王族が恋に落ちて、地上に逃亡した。彼らは地上での生活に対応する為、狩をして食料を確保する男、子を育てる女と男女の機能を二人で分離した。その二人の子孫がお前達人間界の住人だ。だから、人間界を造ったのは、神とも言えるし悪魔とも言える。 その事実を消し去ろうと、神の一部の者たちは、人間を滅ぼそうとするのだ。私達、魔界の人間はその理不尽から、人間を守る為に、戦ってきた。その前線にいたのが最高魔女モンゴリーだったのだ」ファムは淡々と説明をした。


「俺達の先祖が神と悪魔」その言葉は少し衝撃的であった。 ただ、おれ自身の存在が今はよく解らない状況であるのだが・・・・・・・。


「ただ、ワシにもなぜモンゴリーが、更に強力な力を手に入れようとしていたのかは解らない」言いながらファムも紅茶を流し込んだ。

 その話を聞いて、愛美ちゃんは理解できないのか、少し詰まらなそうな顔をしていた。


「そこまで詳しい話は、私も初めて聞いたわ」詩織さんも少しショックを受けている様子であった。


「先ほども言ったが、これは一部の者しか知らぬトップシークレットだ。人間界では知る人間など居るまい。人間共が必死になって人類の祖先を調査しても、この真実に辿りつくことは決して無いであろう」ファムは少し嘲るように笑った。ダーウィンの唱えた進化論は誤りなのか。学校の授業もいい加減なものだと俺は考えていた。


「俺・・・・・・いや、俺達はどうすればいいのだ?」俺は自分がどうすればいいのか、全く見当がつかなかった。


「そうね、幸太郎君はそのブレスレットを決して外さない事! モンゴリーは今もあなたを吸収しようと狙っているはずよ。 それから直美と愛美も気をつけて、あなた達の能力もモンゴリーから引き継いだものだから、取り替えそうとするかもしれない」詩織さんは直美達に注意した。


「でも、彼女の器は一杯のはずだから、勅使河原君を取り戻さない限り直美さん達の力も吸収することは出来ないはずよ」神戸が詩織さんの言葉を補足した。


「あの・・・・・・私の処遇は・・・・・・」ソーシャが小さな声で呟いた。


「貴方は、何も知らないで行動していただけ・・・・・・・それも、騙されて・・・・・・お咎めは無いですよね。ファム様」詩織さんはファムの顔を見た。


「うむ! ワシは心が広いからな。大丈夫じゃ」


「あ、有難うございます」ソーシャは安心して少し目に涙を溜めていた。


「ところで、あの・・・・・・アシュナを動かした奇跡を、また見せて」俺はファムの手を抓った。


「い、痛っ!」何をするのじゃ。


「あ、いや、なんとなく・・・・・・すいません」俺は頭を下げた。


「ま、まあ良い、痛みはともかく、悪い気はせん! 友達という奴だな」ファムが顔を赤くしてあちらを向いた。一同の顔に笑みがこぼれた。

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