第20話 男同志
大きな海辺に私は立っていた。目の前には大きな海が広がり大量の船が見える。その数は数え切れないほど多い。百、いや二百。
船の方向から一斉に爆発音が聞こえた。大砲を発射するような音。大量の砲弾が私を的にして飛んできた。
この状況に置かれても私の心は冷静であった。軽く右手を上げて横に振ると眩い光は発射されて数百発はあると思われる砲弾が一瞬にして消えた。
次に右手の平を海に向けて念を込めると、衝撃波のようなものが発射されて、海上の船は炎上した。その光景を見ながら私は歓喜の声を上げていた。と次の瞬間腹部に激痛が走った。
※
「うっ!」俺は布団の中にいた。 部屋の中は暗くてあたりの様子がよくわからない。起き上がろうとするが体にまとわりつく物体があり体を起こすことが出来ないでいた。凄く甘くいい匂いがした。体の上にも何かが乗っている。体に当たる柔らかい感触。
「ま、まさか、これは・・・・・・?!」少しずつ目が慣れてきた。俺の目の先には、気持ち良さそうに眠る直美の顔があった。彼女は両手を俺の首元に巻きつけて、更に足を体に絡めている。既に十二時は超えているようで、俺の体は男に戻っていた。
「な、直美・・・・・・・さん?」小さな声で名前を呼んでみる。
「う、ううん」耳元で色気のある声で吐息を吐いた。体が硬直する。
「お、おい・・・・・・」
「う・・・・・・うん」
「直美・・・・・・・起きろよ」
「え、・・・・・・ああ、幸太郎君? どうしたの・・・・・・」ゆっくり目を開いて俺の顔を見ている。彼女も状況が把握出来ていない様子であった。
「あ、あの当たってるよ」
「なにが・・・・・・・?」まだ寝ぼけているようであった。
「あ、あの、オッパイが・・・・・・・」
「えっ、ああ、オッパイね・・・・・・・・オッパイ」彼女の顔が少しずつ赤みをおびていった。
「あ、あの、俺・・・・・・・」
「きゃー!」直美は大きな悲鳴を上げた。
「な、何、どうしたの?!」勢いよくドアが開き、詩織さん達が飛び込んできた。
直美は気が動転しているせいなのか、悲鳴は上げたが体は俺に覆いかぶさったままであった。
「・・・・・・・そういうことは大きな声を出さないでやって欲しいものだわ」詩織さんは髪を掻き揚げながら部屋から出て行った。
「い、いや、これは、ち、違う・・・・・・」俺は慌てて弁解しようとする。
「お兄ちゃん! 勃った? 勃った?!」愛美ちゃんが興奮気味で連呼する。
「あ、アンタ、な、何言っているのよ!」直美は更に顔を真っ赤にして俺の顔を見た。
俺は笑うしかなくて微笑んだ。 たぶんその顔は物凄くいやらしい顔をしていただろう。
「この超ど級変態!!!」直美の右ストレートが俺の顔面に炸裂した。 俺の意識は再び眠りの底に落ちていった。 今度は夢すら見なかった。
「おはよう」俺は目をこすりながらリビングに降りる。
「おはよう・・・・・・ふんっ」直美は顔を赤らめて向こうに顔を背けた。
「なんだ、男の幸太郎か女のコウはどうしたのだ?」ファムは良く寝て体調が良いのか機嫌良さそうに朝食を食べていた。 直美が用意したもののようだ。
俺は返事をせずに、椅子に腰掛けた。
「おい、幸太郎よ! ワシを今日案内しろ。人間界を観察したい」ファムは口にパンを銜えながら命令した。
「な、なんで俺が? それに今日は学校が・・・・・・・」俺がそこまで言うとファムの顔色が変わった。
「ワシに逆らうというのか」まあ、ガキが凄んでもあまり迫力はないのだが、それに先日の戦いの様子をみると、人間界では変身した俺のほうが遥かに力が上だろう。
「行ってさしあげたら」詩織さんの声が聞こえた。 振り返ると既に制服に着替えた彼女の姿があった。
「でも、学校が・・・・・・・」
「魔王様を一人にしておいては何かあった時に困るし、誰かが一緒にいたほうが都合いいわ。何かがあれば、愛美の力で駆けつけるから安心して」詩織さんの隣で愛美ちゃんがポーズを決めていた。
「解った、俺は今日学校休むよ」仕方なく今日一日はファムの面倒を見ることにした。
「もし良かったら、私も・・・・・・・一緒に行こうか?」直美が少しモジモジしながら呟いた。その直美の言葉を聞いて俺には、彼女が女神様のように見えた。
「いや、今日は二人きりで男の付き合いだ! のう幸太郎」ファムが俺の肩に手を回してガッツポーズを見せた。俺の顔は少し引きつっていた。
「残念ね、直美。ふられたようね。一緒に学校に行くわよ」詩織さんは髪を掻き揚げると部屋から姿を消した。直美は肩を落としてエプロンを外し出て行った。
「それで、今日はどこを案内すればいいのですか?」ファムの顔を確認しながら俺は聞いた。
「実はな・・・・・・・ワシが、人間界に来たのは重要な任務の為なのだ」ファムの顔が真剣になる。
「えっ? 重要な任務・・・・・・・ですか」俺はゴクリと唾を飲み込んだ。ここで気がついたのだが、ファムが来てからモンゴリーの姿を一切見ていない。 徹底して彼の前から姿を隠しているようであった。キーちゃんは直美と一緒に学校について行った。本当に男二人きりである。
「大きな声では言えないが、お前に案内して欲しいところがあるのだ」
「俺の知っているところ・・・・・・・ですか?」
「そうだ、今日一日宜しく頼むぞ」ファムが偉そうに俺の肩を叩いた。 その風貌はどう見ても幼い少年にしか見えず、少しムカついた。
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