第16話 神戸
俺の体は十二時を過ぎて男の体に戻っていた。
今回は叔母さんに見つからないように、男のふりをして部屋に飛び込み時間が来るまで待機していた。テレビなどを見て時間を過ごしたが、その日のニュースには怪獣の事は一切触れられることは無かった。
モンゴリーの話によると、普通の人間には獣魔達の姿は見えないそうである。今回の事件も謎の爆発事件として取り扱われていた。
「あれ、こんな遅くに何処か出かけるの?」外出の準備をしていると直美が背後から声をかけてきた。
「あ、ああちょっと小腹が空いたから、コンビ二に行って来るよ」適当な理由をつけて直美を誤魔化して、神戸との待ち合わせ場所に向かった。
約束通り大島神社の境内に行くと、神戸が制服姿で待っていた。
「こんな時間に一体、なんの話なんだよ?」俺は夜遅くに女の子と待ち合わせすることなど初めてで少し緊張気味で声をかけた。
「時間ちょうどね。こんな時間に御免なさいね。女の姿だと目立つと思って」彼女なりの配慮であったらしい。
「ああ、別に構わないけど」
「貴方、変身できるようになってから体に違和感はない?」
「違和感か・・・・・・、変身した時はもちろんだけど、たまに変身を解いた後に、金髪がそのままの時があったかな」そんなに大きな体の変化は無いように思えた。
「男の体が、女になるのだからそれなりの負担はあると思うのだけど・・・・・・・ところで、あなたは昔の事をどの程度覚えているかしら?」
「昔? 一応子供の頃からの事はたいてい覚えていると思うけれど」神戸の昔の尺度が良く解らず返答に
「そうよね、御免なさい。 私が言いたかった事は、貴方の周りを信じてはいけないという事よ」
「どういうことだ?」
「・・・・・・・悪いけれど詳しい事は言えないの」
「中途半端な・・・・・・」少し、俺は苛立ちを感じた。
「そうね、モンゴリーと・・・・・・・あの三姉妹には気をつけなさい。 それだけ言いたかったのよ」そう言うと神戸は歩き出した。
「ちょ、ちょっと・・・・・・・」
「また、明日学校でね! お休み」そう言うと神戸は後ろ向きのまま、手を振りながら境内から姿を消した。
俺は、彼女の言葉の意味が解らなくて困惑するばかりであった。なんだか、一人だけで納得して感じの悪い奴だと思った。
「あれ?」夜道を家に向かって歩いていると、直美が門の前にいた。
「幸太郎君」直美が少し寂しそうな顔で呟いた。
「何しているんだよ?」
「小腹が減ったから、コンビ二に買い物に行くのよ・・・・・アンタは、結局何処に行っていたのよ。あ、べ、別にアンタの後を追いかけて出てきた訳じゃないのよ! 本当よ!」顔を真っ赤にしている。
「そうか、・・・・・・一緒にコンビ二に行くか? ちょっと寄り道してしまったから、結局食い物買えていないんだよ」腹を押さえて空腹をアピールした。実際に今日の夜は食事を抜いている為、お腹の虫が何度も鳴いていた。
「そ、そんなに言うのなら一緒に行ってあげるわ。 本当に仕方無いわね」俺の言葉を聞いて直美は嬉しそうに頷いた。彼女もお腹が空いていたようである。
「あ、これ知っている?アイスに芋が入っているのよ。微妙だけど美味しいのよ」直美は嬉しそうにはしゃいでいる。
「腹が減っているのだったらアイスでは駄目だろう」言いながらインスタントラーメンを品定めする。大盛り、激辛、生めんと色々な種類があるので目移りする。
「私、これにする!」直美はショートケーキを差し出した。苺の乗った可愛らしいものであった。
「夜遅くに、そんなものを食べていたら、お前肥満まっしぐらだぜ!」
「えー、私そんなに太っていないよ・・・・・・・。み、幸太郎君はポッチャリした女の子は嫌いかな?」少しモジモジしながら彼女は聞いてきた。
「そうだな、健康的な子がいいかな・・・・・・・俺は」
「そ、そうだよね、少し位大丈夫よね!」そう言うと籠の中にケーキを入れた。俺は塩味のインスタント焼きそばを購入することにした。
レジで清算を済まして家に向かう。
「なあ、直美はモンゴリーの事をどう思う?」
「え? いきなり何かあったの?」
「いや、別に何もないのだけど・・・・・・・あいつが来てから、色々な事があったからさ」俺は言葉を濁した。神戸の言葉の意味はよく解らなかった。 神戸は、三姉妹にも気をつけろと言っていた。
「ケーキ二つ買ったから帰ったら食べようよ!」屈託の無い直美の笑顔を見ていると神戸の言葉など忘れてしまう。
「そうだな、皆に見つからないようにしないといけないな」
「うん!」直美の笑顔が凄く眩しく感じた。
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