第13話 超獣魔
ふっと目が覚めるように、周りを見回した。 俺は映画館の席に座っている。 隣には詩織さんの姿があった。自分の体を確認すると男の体に戻っている。俺は一先ず溜息をついた。
「本当につまらない映画だったわね」詩織さんは呟いた。
「え、さっきのは・・・・・・」俺は映画の途中で眠ってしまったようであった。周りを見回すと他の観客達は既に席を立っているようである。 ただ、初めからそんなに客は入っていないようではあったが・・・・・・。
「私達も出ましょう」詩織さんが席を立った。 手元にあったポップコーンのカップを見るとほぼ、空っぽになっていた。俺はあまり食べた記憶がないのだが・・・・・・。ロビーに出ると直美と愛美ちゃんの姿が見えた。
「あれ、お前達なにしているんだ」俺は二人に声をかけた。
「げ、こ、幸太郎君、私達は、え、えーと映画を見に来たのよ」
「へー、面白かったか?」俺は寝ていたのでよく憶えていない。
「それが、あまり良く解らなかったのよね」直美は宙を見上げながら呟く。きっとコイツも寝ていたのだと俺は思った。
「俺も・・・・・・でも、姉妹で映画鑑賞って二人は本当に仲が良いのだな」愛美ちゃんのほうに目をやり俺は言った。
「それはね、直美お姉ちゃんが焼きもち焼いて・・・・・・・」愛美ちゃんの口を直美が両手で塞いだ。
「え、焼きもち?」
「な、なんでもないの! そ、そこの角のおはぎ屋さんの焼き餅が美味しいってきいたから、愛美が食べたいって・・・・・・・ほ、本当よ! う、嘘じゃないわよ!」直美が激しく動揺している。あれっなんだかこのやり取りを以前やったような気がする。まあ、デジャブーなど良くあることだ。
「まあ、いいわ。なんだかお腹が空いたわね、皆で食事でもする?」詩織さんが提案する。俺の持っていたポップコーンは何処に消えたのか考えていた。
「やったー! 食事! 食事! ハンバーガー!」なんだか歌うように愛美ちゃんはテンションを上昇させた。
「ハンバーガー、いいわね! でも今日は、直美のおごりよ」詩織さんは悪戯っぽく囁いた。
「えー?! なんで私が?」直美が不服そうに文句を言った。
「当たり前じゃない。 私達のデートを邪魔したんだから」
「デート? 邪魔? えっ?」詩織さんが何を言っているのか解らなかった。
「じゃ、邪魔って、わ、解ったわ! 今日は私が払うわよ!」直美は顔を真っ赤にして慌てるように宣言した。
「やったー! 私、夢のダブルスカイタワー・バーガー!」ハンバーガーショップの前に
「あれ、詩織さん、肩の上に?」そこには蝙蝠のようなものが乗っていた。
「ああ、この子は、グーちゃん。私の使い魔よ」いいながら、詩織さんはグーちゃんの頭を撫でた。彼は気持ち良さそうにしている。
「いつの間に?」
「まあ、とにかく行きましょう」詩織さんの号令で俺達はハンバーガーショップに向かった。
「ああ、なんだか昨日は長い一日だったな」直美と二人学校に登校する。なんだか疲れが取れない。
「本当、なんだか変身した後の倦怠感みたいなのが一日取れなかったわ」直美は大きな欠伸を堪えながら呟いた。俺も同じ感覚であった。
愛美ちゃんは、昨日大きなハンバーガーを一人で頬張っていた。 その様子を見ていた周りのお客達も驚愕の目で見ていた。結局、食事の清算は詩織さんが済ませた。
「勅使河原君おはよう」振り向くと神戸の姿があった。
「あ、おお、おはよう」自然に振舞う神戸の姿に俺は逆に違和感を覚えた。直美も警戒するように神戸を見ていた。
「総持寺さんも、そんなに警戒しないで同じクラスメイトなのだから、ね!」神戸は可愛く頭を傾げた。
「ええ、解ったわ」直美は渋々承諾するように頷いた。
「あら、貴方知らない間に、力を強化したみたいね」神戸は俺の顔を観察するように見た。
「えっ、そうなのか?」自分の体を見るが特に変わった様子は確認することは出来なかった。
「おう、勅使河原! おはよう、朝から美女に囲まれて幸せそうだな!」北島が姿を見せた。
「ああ、おはよう」軽く手をあげて返答した。
「お前、長い白髪が生えているぞ。俺、先に行くからじゃあな!」北島は学校のほうに走って行った。そういえばアイツは、文化部に入っていて朝連があると言っていたのを思い出した。何を練習しているのかは解ったものではないが・・・・・。
「ああ」返答をしてから、ふと髪に手を触れた。 一本だけ長い毛があったので引き抜く。
その髪の色は、黒色でも白色でも無く、金色のものであった。
「変身の負荷がかかっているのね・・・・・・・」神戸がポツリと呟いた。
「えっ?」俺は聞き返した。
「いえ、何でも無いわ。変身の副作用かしらね、あなた、金髪の外人さんになったら、女の子にモテるわよ」神戸が無責任なことを少し笑いながら言った。
「いい加減な事を言うなよ」適当に神戸の言葉を流した。
突然、大きな地響きがする。 大きな爆発音も聞こえた。
「な、なんなんだ?!」直美の顔を見た。
「・・・・・・・」彼女は状況がわからないようで返答できないでいた。
『コウ、コウ!』頭の中を声が響く、この声はモンゴリーの声であった。
『なんだよ!モンゴリー』俺も頭の中で返答した。
『すぐに来て欲て、街中で獣魔が暴れている!』モンゴリーは慌てている様子であった。
『どこに行けばいいんだ?!』
『今、イツミがそちらに向かったわ!』モンゴリーの声と同時に、変身したイツミちゃんが現れた。イツミちゃんは俺と直美の腕を掴んだかと思うと、瞬間的に高いビルの上に移動した。
「な、なんなんだあれは?!」目の前の状況を見て驚く。
巨大な怪獣が待ちの中を闊歩している。時々口から炎のようなものを吹きだして、あちらこちらを燃やしている。
「見ての通り怪獣よ」そこには既に変身した詩織さんの姿があった。足元には彼女の使い魔、グーちゃんが待機している。
「今回の敵は少し厄介よ。複数の獣魔が結合して出来た。いわば大獣魔よ」モンゴリーが呟く。彼女が思っているほど良いネーミングとは思えなかった。
「どうして、いきなり街に現れたの?」直美は怯えたような表情を見せていた。
「基本的に獣魔は人間の嫉妬、妬みなどの暗部をエネルギーに現れるもの、この街にはそういうものが溢れているのではないのかしら、今まではモンゴリーが獣魔達の活動を封じていたのだけど、そのセーフティーが外れたせいで一気に悪さを始めたのよ」振り向くと神戸の姿があった。神戸は右手を振り上げると姿を変えエリザへと変身した。
「あなた達も早く準備して!」既にシオリさんと、イツミちゃんは変身を終えて待機している。直美は頷くと指輪に触れて変身した。魔法衣を着た少女ナオミが姿を現した。
俺も変身を迫られるが、少し躊躇していた。 また戻れなくなったら面倒だから・・・・・・・。
ナオミが怪獣の動きをテレキネシスで怪獣の動きを止めた。 イツミちゃんが怪獣の体に触れて、街の中から海上へと移動させた。
「ナイスコンビネーションね! 早く、貴方も変身して!」エリザこと神戸が叫んだ。俺は覚悟を決めて指輪に触れた。 俺の服が飛び散る。それと同時に胸に大きな脹らみが現れて、魔法衣が装着された。やはりスカートが短くて股の辺りがスースーする。
「飛行薬を振り掛けるわ!」そう言うと、エリザは俺達にビンに入った粉をふり掛けた。
「これで空を舞うことが可能になったわ! 私についてきて」エリザは魔女らしく箒を腰を乗せて空を舞っていく。俺達の体も意思のまま空中に浮かんだ。
「よし!」エリザの後を追って、俺達も海の方向に移動した。
海上では、イツミちゃんが怪獣と応戦している。イツミちゃんは怪獣の攻撃を器用にかわして手にした弓から矢を放っていた。多少は痛みを感じているようであったが、怪獣にはあまり効果が無い様子であった。彼女には既に、魔法の粉がふりかけられているようで、空を自由に飛びまわっている。
「お兄ちゃん! お姉ちゃん! 皆、遅いよ!」イツミちゃんは頬を膨らませて怒っている。
怪獣が大きく息を吸ったかと思うと、口から炎を吹き出した。
「きゃー!」ナオミが悲鳴を上げた。シオリさんが両手を下から上に振り上げると海水が吹き上がり水のカーテンが現れた。 炎はカーテンに阻まれてその勢いを失った。
「ナオミ! 油断しないで!」シオリさんはナオミに活を入れるように叫ぶ。
「あ、有難う、シオリ姉さん」
イツミちゃんが姿を消したかと思うと、怪獣の頭上に大きな岩を移動させて、落下させた。怪獣の頭に岩が当たり粉々に崩れた。
「イツミちゃん、凄いな!」俺は怪獣を指差して電流を放った。水に濡れた怪獣の体は激しく痙攣している。苦しみながら怪獣は俺の方向に炎を発した。その攻撃を避ける為、電流の放電を止めて体を移動させた。
「ナオミ! 怪獣の動きを止めて!」シオリさんの声に従って、ナオミは念を込めて怪獣の動きを封じこめる。 怪獣の力は相当の物のようでナオミは歯を食いしばりながら両手をかざしている。 シオリさんが両腕をクロスして、海水を怪獣の体に巻きつけるように操った。 次に拳を握り閉めると、海水は一気に凍りついて氷山のように姿を変えた。怪獣の体は氷づけ状態に変わっていた。
「イツミ! もう一度、さっきと同じ攻撃を!」
「うん!」イツミちゃんはそう言うと、大きな岩をもう一度怪獣の上に落とした。岩が氷に激突すると、怪獣の体は粉々に砕けた。
「すげー!」俺は歓喜の雄叫びをあげた。砕けた怪獣の体は数個の肉片に分かれたようだ。
「油断しては駄目! まだ生きているわ」エリザが叫び声を上げた。肉片は無数の獣魔に姿を変えた。そのまま、俺の体を包み込むように纏わりついた。
「コウ君!」ナオミは大きな声を上げた。
「うう、息が出来ない!」身動きが出来ない状況に陥った。
「これは、迂闊に攻撃が出来ないわ」シオリさんは歯ぎしりをしている。
「う、うわー!」獣魔達の力が体の中に流れてくる。 そのあまりの量に俺の能力ははち切れそうになっていた。渾身の力を込めて電撃を放った。俺の体を包んでいた獣魔達は飛び散っていく。力を増した電撃に、獣魔達は力を失ったようであった。獣魔達の体から眩い光が発して俺の体に吸収されていった。
俺の体も力が抜けていき海に向かって落下していった。 その体をナオミが優しく受け止めてくれた。
「コウ君! コウ君!」ナオミの声が頭の中を駆け抜けた。そのまま俺は意識を失った。
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