第12話 やきもち
目を覚ますと俺の体は拘束されていた。 手足の自由が利かない。
「しまった! 眠っている間に捕まってしまったのか?!」両腕は後ろで縛られている。
「どんなに足掻いても無駄よ。その鎖はあなたを愛する王子の力でしか解くことはできないわ」聞き覚えのある声が聞こえる。なんだか聞き覚えのある声であった。声の主を確認すると・・・・・・・。
「詩織さん?! 一体何を、その格好は?」転がっている俺の目の前に、彼女は仁王立ちしている。
「詩織? それは誰のこと、私はフラウ。貴方に代わってこの国を治める女王様よ」彼女は大げさに笑いながら黒く長い髪を掻き揚げた。
「な、なにを?!」その瞬間、俺の肩に乗ったキラキラ光る金色の髪が視線に入った。ゆっくりと自分の胸元に目を移す。「まただ・・・・・・・」俺はガクリと肩を落とした。
また胸が大きく膨らんでいる。いつの間にか変身して女の姿に変わってしまったようだ。
「あなたはここで死ぬまで暮らすのよ、私があの城で優雅に生活させてもらうわ。沢山の美しい彫刻の王子様達と一緒にね」詩織さんが俺の顎を人差し指で持ち上げながら呟く。
勢いよく部屋のドアが開く。 何者かが俺達の目の前に飛び出してきた。
「姫! 助けに参上しました!」威勢のいい声が響きわたった。
「また、懲りずにやってきたか羊飼い風情が! 帰り打ちにしてくれるわ、この愚か者めが!」詩織さんは立ち上がり声の主に罵声を浴びせた。
「魔女フラウ、覚悟!」声の主は叫びながら刀を詩織さんに振り下ろす。詩織さんはその攻撃を見事にかわした。
「直美!危ないからやめろ!」刀を振り回す彼女の名前を呼んだ。 直美は桃色の髪をボーイッシュに纏めて男装をしている。宝塚の男役かと思った。
「直美とは誰のことだ! 私の名前は、オリバーだ!」直美は言いながらも攻撃の手を緩めない。
「今の二人に何を言っても無駄だキー」少年のような声が聞こえる。声の主は俺の肩の傍らに座っている。
「キーちゃん、お前喋れるのか?!」目の前の黄色い狐に俺は驚きの声を上げた。
「ここは現実の世界ではないからキー」
「どういうことだ、現実では無いって?」キーちゃんの言葉の意味が理解出来ない。
「お姉様!」突然の抱きつかれて俺は目を見開く。
「い、愛美ちゃん?」
「お姉様! 勃った? 勃った?!」
「何を言っているんだ! だいたい、勃つ物もないわ!」俺はその場に立ち上がり、しゃがみながら縛られた腕を体の前に移動させた。目の前では、詩織さんと直美の戦いが続いている。
「やめろ!やめるんだ!」叫んだ瞬間、俺の両手から電撃が放たれて、二人の体を突き抜ける。「「きゃー!!!」」詩織さん達の悲鳴が響く。
「あっ、しまった」無意識に発した電流の攻撃に俺は驚いた。
「う、ううん・・・・・・・」直美がうなされるような声を上げた。
「大丈夫か、直美?」彼女の体を抱き上げながら声をかける。
「あ、あれコウ君! 私は何をして・・・・・・・・」彼女が喋るのを制止して俺は口づけをした。
その瞬間俺の腕の鎖が姿を消した。
「やった、自由になったぞ! えっ、痛っ?!」俺はビンタを喰らった。
「な、何するのよ!」直美は顔を真っ赤に染めている。
「いや、鎖を解除するには愛する王子様とキスって、詩織さんが・・・・・・・」自分で言いながら恥ずかしくなり俺の顔も真っ赤になった。
「見せつけてくれるわね、あなた達」詩織さんが呟いた。どうやら彼女も正気に戻った様子だ。「直美は抱き上げて私はほったらかし・・・・・・・あからさまな対応ね」服についた埃を払いながら詩織さんは立ち上がった。
「いや、違います! 詩織さんが鎖を外すには、グエッ!」再び、直美のボディーブローが俺の腹部にめり込んだ。
「この世界は、獣魔の造った世界。君達が見ていた映画の中だよ。これは光を操る能力を持った奴の仕業だと思うキー」キーちゃんが流暢に喋った。
「キーちゃんが喋っている?!」直美が驚きの声を上げた。先ほどの俺と同じ反応だ。
「お姉様! お姉様! 何! 何!」愛美ちゃんはあちら側の人のままであった。
「えい!」愛美ちゃんを指差して軽く電流を浴びせた。
「きょえー!!」愛美ちゃんは奇声を上げながら感電した。そのショックで彼女は元に戻ったようであった。
「なぜ、こんなことになったのかしら?」詩織さんは冷静な口調でキーちゃんに聞いた。
「この劇場に巣くっていた獣魔が君達の力と干渉しあってこんな現象が発生したキー。君達の意識だけがスクリーンの中に移動したんだキー」キーちゃんは何もかも知っているような口調であった。
「私達の体はどうなっているの?」直美の疑問は俺も感じていた。
「映画館の席でねむっているはずだキー」
「そ、そうか・・・・・・・あれ、どうして直美と愛美ちゃんがここに・・・・・・・」この映画館には詩織さんと俺の二人で来たはず、どうして二人の意識もここにいるのだろう。
「それはね、直美お姉ちゃんが焼きもち焼いて・・・・・・・」愛美ちゃんの口を直美が両手で塞いだ。
「え、焼きもち?」
「な、なんでもないの! そ、そこの角のおはぎ屋さんの焼き餅が美味しいってきいたから、愛美が食べたいって・・・・・・・ほ、本当よ! う、嘘じゃないわよ!」直美が激しく動揺している。
「なるほどね」詩織さんは何もかも悟っているような顔をしていた。そんなに旨い餅なら俺も食べてみたいものだ。
「どうして、俺だけ・・・・・・、詩織さん達は服が変わっているだけなのに、俺だけ女の姿に変わっているんだ?」改めて見直すと、俺の体はゴージャスな純白ドレスに包まれていた。頭の上には髪飾りが乗っている。胸元は大きく開いていて、半分ぐらい飛び出しそうな勢いだ。
「そうだキー、きっと本来の姿・・・・・・もしくは、願望の姿でこの世界に存在したんじゃないのかキー」
「・・・・・・・」直美が軽蔑するような視線で俺を見た。
「う、嘘だ! 俺はこの姿に憧れたりしてねえよ!」動揺のあまり俺は大きな声を上げた。
「そんな事はどうでもいいわ。どうすれば元の体に戻れるのかしら?」詩織さんはあくまで冷静な口調であった。
「獣魔を見つけて、退治するキー。 それしか方法は無いのだキー」キーちゃんは俺の肩の上から飛び降りた。「物語のあらすじに沿って、冒険をするキー」
「わーい! 冒険、冒険だ!」愛美ちゃんがはしゃいでいる。
「えっ、でもこの話は魔女を倒す話じゃないのか?」言いながら詩織さんの顔を見た。
「詩織に魔女の配役が振られたということは、最後の敵は魔女じゃないキー。きっとなにかどんでん返しが用意されているはずだキー」面倒くさい話だ。どうやら俺達はパーティーを組んで冒険の旅に出ないといけないようであった。
勇者、魔女、道化師・・・・・・・姫様。なるほど・・・・・・。
「さっそく出かけましょうか」詩織さんが号令をかけるように言った。黒く短いスカート、大げさなベルトに、つばの大きな三角の帽子。彼女の胸は俺のそれに輪をかけて巨大であった。走ると飛び出るのではないかと心配させるほどであった。
「どこ見ているのよ! 変態!」直美が軽蔑するように吐き捨てた。
「な、なんの事だ? 俺は詩織さんの胸なんて見ていないぞ! うげっ!」直美の後ろ蹴りが腹にのめり込み俺は体をくの字に折り曲げた。
直美は鎧に身を包んでいた。容姿こそ直美のものであったが、設定は元羊飼いの勇者という設定であった。横顔が凛々しい。でも、その役は普通俺だろう・・・・・・・。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、早く行くよ!」愛美ちゃんが詩織さんの後に続いて飛び出していった。彼女は姫の妹という設定であったはずが、いつの間にか扱いが道化師のようになってしまっていた。彼女はフリルの着いた短いスカートの青いドレスを着ている。黙っていれば可愛いのであろうが・・・・・。
俺達は最後の敵を求めて冒険の旅に出かけた。旅の途中には様々な、
「ここが敵の本拠地だキー」キーちゃんが大きな城の前で呟く。どうやらキーちゃんの役目はナビゲーターのようであった。
「怪しいものめ!」二人の衛兵が槍を突き立ててくる。
「あ、危ない!」直美が剣を振り上げる。
「あ、貴方は、姫様! ・・・・・・失礼いたしました!」衛兵達はいきなり膝を着いて頭を深々と下げた。二人は俺の顔を見て驚愕の表情を見せた。
「え、俺?」自分の顔を指差した。
「でも、姫様は城の中に?!」二人は顔を見合わせながら困惑の表情を浮かべている。
「城の中のお姫様は偽者よ。この方が本物の、プンテェル姫よ」詩織さんが堂々とした口調で言い放った。プンテェルとは俺の名前のようであった。
「お言葉ですが、あなたが本物という証拠はございますか?」衛兵の言葉ももっともだ。証明するものなど何も無い。
「では、偽者という証拠はどこにあるの? この御方がプンテェル姫と証明されたらあなた達は・・・・・・・どうなるのかしら」詩織さんはセクシーな仕草で呟く。 衛兵達は鼻の下を目一杯伸ばしている。
「で、では・・・・・・・」
「おい! 早くしろ! ギロチンでちょん切るぞ!!!」愛美ちゃんが勢いよくガンを飛ばす。なぜか、ギロチンを表現する彼女の両手が下半身のあたりにあった。
「ひ、ひえ、これは第二姫のラフィン様! ど、どうぞお入りください!」衛兵は恐れおののき門を開いた。
「えへへ! やっと解ってくれたね!」愛美ちゃんの口調は普段に戻っていた。
詩織さんと直美は頭を抱えていた。
門をくぐり、城の中へと移動する。敷地の中はよく手入れされた美しい庭が広がっている。庭にいる貴婦人のような女性達が会釈してくる。どうやら、俺の顔を見てプンテェル姫だと思っているようだ。 あ、いや俺が本物なのか、訳が解らなくなってきた。建物の中に入ると大きな広間になっていた。 窓には美しいステンドグラスが施されていて、教会のようで美しい。
「よう、ここまで来たのう。しかし、なぜ魔女を引き連れておるのだ。話を勝手に変えてもらっては困るのだ」声の方向に目を送ると、衛兵を従えた女が立っていた。その顔は・・・・・・・俺?! 女性版コウがそこに立っていた。
「この結末はどうなるんだ?」
「そうね、元羊飼いの王子と姫が殺されて、入れ替わった大魔女がこの国を統治して、民は苦しみながら暮らしていったというものだ」
「どんな映画やねん!」愛美ちゃんが大阪弁で突っ込んだ。
「こうなったら、ここでお前達を抹殺してくれよう!」言いながら大魔女と名のる偽者の姫は姿を変えた。その姿は赤い皮の材質の服を着たSM女王のような姿であった。 手には先が複数に分かれたムチを手にしていた。
「ひっ!」俺はその姿を見て血の気がひいた。
「ひ、姫様が、偽者だ! 」衛兵達が蜘蛛の子を散らしように大魔女の前から逃げた。
「直美、愛美! 変身して!」詩織さんが指輪に触れる。黒い魔女の服が飛び散り、魔法衣に変わった。詩織さんに続くように、直美と愛美ちゃんの服も飛び散り、それぞれお馴染みの姿に変身した。
「き、貴様達は何者だ?!」大魔女は驚きを隠せないようであった。
「幸太郎君も変身するのよ!」直美が叫ぶ。 えっ、俺って変身していなかったのか? 指輪に触れると、俺の白いドレスが弾けとび、裸体を皆の前にさらす状態になった。「げっ!」魔法衣が体を包んだ。
「ほう、ただの観客ではないというわけだな、貴様達!」ムチを床に叩きつけた。
「いくぞ!」俺はリーダーシップを発揮した。
「なんでアンタが仕切っているのよ! ムカつく!」ナオミは言いながらも飛び出す。 壁面に立つ鎧の縦を念力で飛ばす。その縦に一瞬俺は手を触れた。 そのまま盾は大魔女目掛けて飛んでいく。
「こんなもの、当たる筈が!」大魔女がムチで盾を攻撃した。 その途端、盾が爆発した。「くっ!」爆風で大魔女の表情が歪んだ。
「イツミ! アイツを外に引きずりだして!」シオリさんは叫ぶと同時に外に飛び出した。
「うん! 解った!」イツミちゃんはテレポートして、大魔女の体に触れて彼女の体を城の外に移動させた。 俺とナオミも白の外に飛び出した。
「な、なんなのだ、これは一体?!」大魔女は突然外に放り出されて、驚いている様子であった。シオリさんは指から強烈な水流を発生させて大魔女にお見舞いする。
「ギャー!」その攻撃を受けながら大魔女の体は飛んでいく。
「さあ、コウ君電撃を食らわせるのよ!」シオリさんの合図に合わせて、俺は体から電撃を発して大魔女を感電させた。
「ギョエー!!!」大魔女は大きな悲鳴をあげてその場に倒れる。大魔女が倒れた場所に近寄ると、そこには彼女の姿は無く一匹の蝙蝠の姿が現れた。
「なんだ、これは!」俺は目を疑った。
「コイツも僕と同じ獣魔だキー! この劇場を巣くっていたギー!」キーちゃんがそう言うと同時に蝙蝠の体が輝いた。その光はゆっくりと俺に近づいてきたかと思うと、俺の中に吸収された。
「な、なんだ?」俺は急な出来事に驚いた。
「また、新しい力を手に入れたようね」シオリさんは冷静に分析していた。蝙蝠は目を開けると空中に舞い上がった。
「御見それいたしましたグー。 私をあなた達の家来にして欲しいグー」蝙蝠は唐突に懇願してきた。
「家来って・・・・・・・使い魔になるって事?」ナオミが聞いた。
「そういうことのようね」シオリさんは髪を掻き揚げた。蝙蝠はゆっくりとシオリさんの肩の上に着地した。
「僕が一番初めに、使い魔になったのだから、君はぼくの弟分だキー」キーちゃんはお兄ちゃん風を吹かせていた。
「わかりやしたグー、兄貴!」こいつの名前はグーちゃんになりそうであった。
「そろそろ、エンドロールのようよ」目の前を文字が降りていく。この映画も終了するようであった。自然に俺はゆっくりと目を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます