ある夜、妹に一緒に寝ようと誘われました……。

黒瀬 カナン(旧黒瀬 元幸 改名)

第1話

僕には同い年の妹が存在する。

4月生まれの僕、柊木 真琴と3月生まれの妹、柊木 美琴だ。

お盛んな両親が俺が産まれてすぐに拵えた妹はまるでドラえもんとドラミちゃんの設定のごとく、出来が良かった。


容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能と才色兼備で高校のトップカースト。明るく誰からも愛される学校のアイドル。

容姿平凡、成績平均、運動そこそこのぼっちオタクの僕とは似ても似つかない存在だった。

幼い頃から出来が良かった妹にコンプレックスを感じながらも、僕たちは兄妹として保育園、小学校、中学校と同じものを見て来た。


なのに最近妹の様子がおかしい気がする。

午後10時、僕が翌日の学校の準備をしていると、美琴はノックもなく僕の部屋に入って来た。


「お兄ちゃん〜、一緒に寝よ〜!!」


「はっ?お前、なに言ってんの?」

枕を片手に猫撫で声で話し出す妹の突拍子のない申し出に俺は耳を疑う。


「いいじゃん〜。昔はよく一緒に寝てたんだから今更だよ〜」


「いやいやいや!!なんかおかしくね?」

僕は両手を胸の前に掲げ首を全力で振る。


確かに幼い頃は同じ布団で寝る事はよくあった。

だが先日高校生になったばかりの兄妹が一緒の布団に寝るなんてことがあってたまるか!!


それこそ約1ヶ月前なんて「お兄、キモい!!」と俺の存在を真っ向から否定して来たのに、それがどうしてこうなった?

心変わりの原因がわからない。それこそ他人と入れ替わっているんじゃないかと思うくらいの代わりようだった。


「お前は誰だ?俺の妹がそんな事を言うわけがない!!まさか別人だな!!」

僕が美琴に向かって犯人を見破った探偵のようにビシッと指を差すと妹は一瞬戸惑った様子を見せた。


「なに〜?お兄ちゃんは長年連れ添った妹を他人と間違えるんだ〜。ふ〜ん。」

と、悲しげに言って項垂れる。


その様子に僕は罪悪感を感じてしまったが、妹はすぐにこちらを向くとニヤっと笑う。


「へぇ〜、じゃあお兄ちゃんが中学校の頃にあった事を暴露しちゃおうかな〜。通学中にお腹が痛くなって〜」


「うわぁ〜、ストップ、ストーップ!!」

妹は僕の罪悪感を打ち消すかのように俺の弱みを暴露しようとしてくる。


「絶対に言うなよ!!いや、兄の権限を持って口にする事を禁じる!!」

俺は妹を睨みながら、弱みの口外を禁止する。

中学生なのに兄妹で一緒に学校に行くなんて今考えてもおかしな話だが、それ以上を暴露されると僕の沽券に関わる。


「兄の権限ってなによ〜」

妹はけらけら笑いながら「どうしようかな〜」と良からぬ事を考えている。

その様子に僕はなにをい言われるか恐ろしくなり、後ずさる。


「じゃあ〜、一緒に寝よ!!」


「断る!!」

だからどうして妹と一緒に寝なければいけないのか教えて欲しい。

だが妹はじりじりと僕に詰め寄ってくる。


「じゃあ、あの事をクラス中に言っちゃおうかな〜。あっ、真彩に言えば」


「それはやめて!!」

妹の悪巧みに俺は大声で懇願する。


真彩というのは、美琴のクラスメイトで僕と同じ文芸部に所属する女の子だ。

本名は加藤 真彩。


クラスのトップカーストの妹とは正反対の性格をしていて大人しく、人見知りの性格をしていて、メガネを掛けていてどちらかと言えば地味。

美少女とは言い難い真面目で委員長タイプの彼女だが、高校に入った妹となぜか馬が合うようでよく一緒に過ごす姿を見ていたし、うちにも遊びに来ていた。


僕と彼女が所属する文芸部で僕も少しは会話を交わすものの、決して仲がいいとは口が裂けても言えない。

だが、僕は彼女の佇まいや雰囲気に惹かれ一目惚れをしてしまったのだ。


その事を美琴に見破られてしまい、最近ではそれをネタにタカられることが増えて来たのだが、まさかそれをネタに一緒に寝ようと言われるとは思いもしなかった。


「じゃあ、一緒に寝よ!!」


「〜〜〜!!」

効果抜群の弱点をつかれた僕はそれ以上なにも言えなくなってしまい、「はぁ〜」と深いため息をつく。


「今晩だけだぞ。」

僕は頭を掻きながら許可を出すと妹は「やった!!」と喜びながら枕と共にベッドにダイブする。

その様子を見た僕も学校の準備を終えると、部屋の電気を豆球に変えて寝るためにベッドに移動する。


ありがたい事に今日は父が出張中、母も夜勤でいないので怪しまれる事はない。

怪しまれると言っても兄妹でどうこうなろうなんて気はさっらさらないのだが、流石に同衾は気まずいので枕と毛布を手に取ると床に投げる。

「お兄ちゃん、なにしてるの?」

床に横になろうとする僕を見て妹は疑問を口にする。


「なにって、床に寝るだけだよ」


「なんで?」


「なんでって、このベッドに二人は狭いじゃんか。それに、兄妹とは言え若い男女が同じ布団に寝るとかあり得なく無い?」


「えぇ〜」

俺の答えに妹が不服そうな声をあげる。

なんであなたはそんな声をあげるんでしょうか?


「いいじゃん、ピロートークしようよ」


「ぶっ!!」

妹の衝撃的な一言に僕は吹き出してしまう。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


「お前、ピロートークの意味知ってんの?」

呆れながら僕は妹にピロートークの意味を問う。


「ん〜?寝ながらおしゃべりする事でしょ?」

と、言い出すので俺はスマホでピロートークの意味を調べて妹に手渡す。

すると妹は顔を真っ赤にすると「お兄ちゃんのえっち、変態!!」と俺の布団を胸の前に手繰り寄せてベッド一杯に後ずさる。


「意味も知らないのにいうお前が悪い。嫌なら自分の部屋に戻っても良いんだぞ?」

僕が呆れながら自室に戻る事を勧めると、妹は「うぅ〜」と唸りながら何かを考えている。


「えっちな事はしないけど、一緒に寝るの。お話ししたい!!」

妹は布団を手繰り寄せた状態でベッドの開いた空間をぽんぽんと叩く。


「そこまで言われても諦めないか……。」

妹の必死のアピールに折れてしまった僕は渋々妹が占領するベッドに入り、横になる。

その様子を見た妹も布団を俺に掛けると、もぞもぞと布団に潜り込んでくる。

そして二人、背中合わせに横になる。


さっきまで妹が横になっていた場所はシャンプーの匂いと共に彼女の匂いに包まれていてなぜかドキドキする。


……ちょっと待て、なんで妹に俺はドキドキしているんだ?男なんて女だったら誰でも良いのか?

と、戸惑いを感じてしまう。


「ねぇ、お兄ちゃん?」

僕が一人ドギマギしていると、美琴が声をかけて来た。

その声に俺はビクッと体を震わせる。


「どうした?」

上擦った声で返事をすると、妹は話を始める

「お兄ちゃんは真彩のことが好きなんだよね?」

その言葉に俺はドキッとする。なあでバレているんだろう。

妹に話をした覚えはないんだけど……。


「バレていたなら仕方がない。ああ、好きだろうな」

恥ずかしさで多少戯けながらも加藤 真彩に対しての好意を口にする。


「……どんなところが?」

僕の言葉を聞いた妹が小さなこえで質問してくる。


「う〜ん、まだ彼女のことはよく知らないけど、一目惚れってやつかな?優しそうだし。」

「じゃあ、顔は?」


「それこそ素顔はちゃんと見たことはないけど、綺麗だと思うよ?」


「……地味なのに?」


「そこも良いところじゃない?眼鏡込みでも可愛いと思うし。」


僕が少し悩みながら答えると妹はなぜか無言になる。


「美琴は加藤さんと仲がいいだろ。どんな子だよ?」

僕が美琴に聞き返すと、美琴はしばらく黙ったまま何かを考えている。


「う〜ん。優しい……とは思う。だけど、ずるい所はあるんじゃないかな?」

妹は彼女の良いところを口にすると共に、悪いところも言ってくる。


「そんなことはないだろ?」

好きな人のことを悪く言われた僕は少しムッとなり妹の発言を否定する。


「ううん、きっとずるい子だよ。それでもお兄ちゃんは真彩のことが好きになる」

そう言った妹の発言の意味はわからなかった。


「あぁ、多分……好きだ。いや、まだどんな子かは知らないけど、好きになると思う!!」

僕は何故かはわからないが力強く断言した。


よく知らない彼女を好きと言い切るには確信めいたものはどこにも無い。

だけど、彼女に会ったその日から僕は彼女に惹かれていた。

その事に理由なんていらないと思う。


「ねぇ、お兄……真琴くん。もし今ここにいる私が真彩だったらどうする」

妹は意味深に僕に話してくる。

その言葉に僕はドキリとして背後で横になっている妹の方を向き顔をみる。


暗がりでよく見えなかったが、その顔は妹、柊木 美琴そのものに違いはなかった。


「なに言ってんだよ。美琴は美琴だろ?」


「……そうだね。」

妹は今にも消えてしまいそうな声で呟く。


「馬鹿なことばっか言ってないで寝るぞ。明日も学校なんだから!!」

と言って、僕は再び妹と反対方向を向き眠りにつく。


背後に感じる妹のぬくもりを感じながら、僕は夢の中へと旅立った。








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