魔王と賭博師のウォーゲーム
貴舟塔子
第1部 A Journey before the Epic War
プロローグ 廃坑のEncounter Battle
「ちっ」
濁った金褐色の髪をした青年が大きく舌打ちをする。ミスをした自分に苛立つ。投げナイフを一本外した。その分敵に接近される。あまり使い慣れていないが、近接されたら剣を抜かざるを得ない。
青年は細身の剣を抜くと、迫ってくるゴブリンのカラック族に対して横向きになり体勢を整える。一撃だ。一撃で急所を突く。
カラック族が青年の間合いに入る。青年は長いリーチを活かして敵より素早く一歩踏み出す。勢いを付けながら狙いを済ませて敵の左胸を細身の剣で突き刺す。細身の剣は見事に肋骨の間を抜けて心臓を貫いた。ふぅ。思わず安堵のため息がこぼれる。仕留め損なっていたら、ダメージを受けていただろう。しかしなるべく剣は使いたくない。近接戦闘はオレの流儀に反する。
一行は彼を含めて3人しかいない。薄暗がりの坑道の中、皆それぞれの敵と戦っていて、青年を守る余裕はなかった。自分の身は自分で守らねば。
左翼の敵と戦っていた、額に大きな十字傷のある男が、素早い体捌きで、次々とかラック族の喉を小刀で掻っ捌いていく。相当な手練れだ。
「こっちは片が付いた。ラギ、お前はアレリオンのサポートに回れ」
「はいよ」
ラギと呼ばれた赤身のある黒髪の女は、自分と対峙している敵を十字傷の男に任せると、金褐色の髪の青年アレリオンの前に出る。
「精度が低い! 一対多数を想定して、一匹も取り逃さない!」
ラギがアレリオンを叱咤する。アレリオンはラギが前面に来てくれたことによって、細身の剣を鞘に納め、再びレンジ攻撃に切り替えた。
「わかってますよ! でもまだ左腕の感覚が完璧じゃない」
「言い訳しない!」
ラギは相変わらずオレに厳しい。命のやりとりをしている最中とはいえアレリオンは少しムッとした。
「おかわりがくるぞ。もたもたし過ぎた」
十字傷の男が遠くからこちらに近づいてくるカラック族の集団に気が付いた。
「くそ、ナイフを回収する暇もない」
残りの投げナイフは八本。援軍は十二体。オレの投擲の間合いに入ったら今度こそ全て脳天に命中させてやる!
近接している敵をラギに任せると、アレリオンは両手に三本ずつ、合わせて六本のナイフを手に持った。新たなカラック族が十メートル程度の距離まで迫る。
落ち着けアレリオン。オレならできる。
アレリオンは最初に右手から、次に左手から同時に各三本ずつの投げナイフを投げた。一、二、三、四、五、六。全て命中させた。だが二匹は急所を外した。アレリオンは六本全て急所に命中させられなかった自分を再び責めた。やはり左腕の感覚がまだ戻りきっていない。投げナイフは残り二本。だがこの距離ならもう一度投擲できる。
アレリオンは最後の二本のナイフを敢えて左手で持って、瞬時に敵に投げた。二本とも敵の眉間に命中する。やった!これで残りは半分!
アレリオンは改めて細身の剣を抜いて左手に持ち、懐に忍ばせていた小刀を右手に持った。右手の小刀で敵の攻撃をいなし、左手の剣で敵の急所をつくデュアルウィールドのカウンタースタイルだ。だが、アレリオンの出番はもうなかった。十字傷の男とラギが素早くカラック族を仕留めていく。
そこには二十六体のカラック族の死体が転がっている。アレリオンはナイフを回収しながら愚痴をこぼす。
「このルートで本当に良かったんですか? 戦いに次ぐ戦いでかえってテンポが遅い気がするぜ」
「山を迂回したり、山越えをする方がはるかに危険だ。お前のおもりをしながら進むにはこの廃坑を抜けるのがベストだ」
はいはい。オレが足手まといってわけね。アレリオンは床においたカンテラを拾って、ラギと十字傷の男とともに先を急いだ。
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