彼女を創って最強になった少年
緋色の雨
第1話
子供のころ、努力は必ず報われるんだって思ってた。どんなに困難でも、どんな無理難題でも、努力を重ねればいつかきっとなんとかなるって、そう思ってた。
だから俺は努力を重ねた。
なにをするにも身体が資本だろうと、小さな頃からトレーニングを欠かさなかった。そうして身体を鍛えた上で剣術や魔術、それらを駆使して戦う術を学んだ。
むろん、貴族の家に生まれた子供として教養の修練も怠ったことはない。人望を得るために、他者を惹きつけられるよう、身だしなみも可能な限り気を使った。
結果、貴族院の学生になった頃には学年で一二を争うほどの力と教養を身に付けていた。
なのに――
「好きだ、俺と付き合ってくれ」
「ごめんなさい」
――俺は彼女が出来ない。
という訳で、放課後。
俺は自分の机に突っ伏していた。
「あぁ……ちくしょう、努力が報われない世界なんて滅びれば良いんだ」
「物騒だな、アルノルト。まぁたフラれたんだって?」
どこから噂を聞きつけたのか、俺の敵が話しかけてくるが無視を決め込む。
「おいおい、敵ってひどいな。せめて親友Bくらい言えないのか?」
「人の内心に突っ込んでんじゃねぇ。というか彼女持ちはみんな敵だっ!」
顔を上げ、俺の敵を睨みつける。こいつの名前はエドワード。貴族院の学生になってからの付き合いで、なんだかんだと一年以上つるんでいる。
勉学にも励んでいるし鍛錬も怠っていない。身だしなみにも気を使っているし、性格もまぁ……悪い奴ではないのだが、彼女持ちなので俺の敵である。絶対許さない。
「妬くな妬くな。そのうちおまえにも彼女くらい出来るさ」
「そのうちって、どれくらいだよ」
「え? あぁ……う~ん、それはおまえ次第かなぁ?」
「他人事だと思って好き勝手言いやがって……これ以上、俺にどうしろって言うんだよ。今日告白したエリカだって、普段は俺のことを格好いいとか、憧れるとか言ってたんだぞ?」
「仕方ないだろ、おまえは伯爵家の三男なんだから。いくらおまえが成績優秀で、外見だってちやほやされるくらいに良くても、この学園に通うお嬢様方の恋愛対象にはならないさ」
「……ちくしょう」
それは努力ではいかんともしがたい現実だ。
伯爵家の三男である俺は、将来平民落ちが決定している。伯爵家は長男が継ぐ予定で、スペアとしての役割は次男が果たしている。
二人とも優秀で、同じく優秀な俺はむしろ不和の種、という訳だ。
そのうえで、この貴族院に通う生徒は全員が貴族の子供で、しかも特に優秀な者達だ。
ご令嬢は基本、政略結婚を前提に育てられている。
平民落ちの未来が待ち受けている俺と付き合うよりも、成績も外見も性格もそこそこだけど、目の前の敵――シュタット侯爵家の長男と付き合う方が断然良い、ということだ。
もっと言えば、年が一回りも二回りも離れているエロ侯爵の愛人の方が良いまである。
「こうなったら……やはり彼女を創るしかないか」
「あん? その彼女が出来ないから嘆いてるんだろ?」
「いや、そういう話じゃなくて……まぁ、創ってからのお楽しみだ。そろそろクリスの奴に頼んでた依頼が終わってるはずだからな」
「まぁたなんか変なことを頼んだのか?」
「変とか言うな、切実な話だ」
「はいはい。あいつをあんまり困らせるなよ」
「分かってるよ」
その後、エドワードと軽い雑談を続けた後、頃合いを見て学生寮へと舞い戻った。
「ただいま~」
扉を開けて部屋に入ると、奥からガタガタッと物音が響いてきた。同じ部屋で暮らしている親友、クリスが先に帰っているようだ。
「クリス、なにをやってるんだ?」
「な、なんでもないっ。それより僕は着替え中だからバスルームは覗かないでよ!?」
「言われなくても男の着替えなんて覗くかよ」
もはや日常的になりつつあるやりとりを経て、俺はクリスが着替え終わるのを待つ。ほどなく、ダボダボのルームウェアを身に着けたクリスが部屋に戻ってきた。
サラサラの長い金髪を後ろで一纏めにした貴公子。ややもすれば女性と見紛う容姿をしているために、過去に色々とあったのか着替えなどを見られるのを嫌う。
まぁ……分からなくもない。
もしクリスが女子の制服を着ていたら美少女と見紛うだろう。うっかり半裸の姿なんかを見てしまったら、開いてはいけない扉を開いてしまう可能性は否めない。
俺のためにも、クリスにはしっかりとした貞操観念を持っていてもらいたい。
「あっと、そうだった。クリス、前に頼んでいた調査は終わってるか?」
「あぁ、あの古代の地図の解読? 一応、現代の場所と照らし合わせることは出来たよ」
「ホントか!?」
「う、うん。過去の大戦とかで地形が変わってたりするからそこまで精度は高くないけど、おおよその場所は確認できたよ」
「お、おぉ、でかした! さすがクリス、俺の親友だ!」
感激のあまりクリスの背中をバンバンと叩く。
「ちょ、アルノルト!?」
「ん? あぁ、すまん、おまえはこういうのも嫌いだったな」
「う、うぅん、こっちこそごめん。アルノルトに触られるのが嫌って訳じゃないけど、その、急にはびっくりするというか、外れると困るというか……」
「あん、外れるってなにがだ?」
「な、なんでもないよ! とにかく、急なのはダメってこと!」
「分かった分かった。気を付けるよ」
俺は謝罪もそこそこに、クリスが用意してくれた地図に視線を落とす。古代地図が指し示していた古代遺跡は、意外にもここから一週間程度の位置であった。
「意外と近いんだな。これだと、既に発掘されてる可能性もあるか?」
「そう思って少し調べたけど、ここに遺跡があるという資料はなかったよ」
「本当か? じゃあ……期待できるかもしれないんだな」
「そう、だね」
なにかを飲み込むような表情。
おそらく、古代の地図の方が間違っている可能性を指摘しようとして止めたのだろう。むろん、俺がその可能性に気付いた上で、遺跡がある可能性に懸けていると知っているからだ。
こういう気遣いは、さすが俺の親友、といったところである。
「とにかく助かった。もうすぐ夏休みだし、それに併せて調査に行ってくるよ」
「無茶はしないでよ……って言うだけ無駄だと思うけど、気を付けてね?」
「心配してくれてありがとな」
俺はクリスにもう一度感謝を告げて、それから目的地の詳細や、そこへ往復するために必要なあれこれについてメモを取っていく。
「ねぇアルノルト、その遺跡でなにを捜すつもりなの?」
「決まってるだろ、俺の彼女だよ」
一週間ほどの旅を経て、地図を頼りに山の中に足を踏み入れる。
その中腹辺りで古代遺跡の入り口を発見した。行商人から古代の文献を買ったときは眉唾物だと思っていたんだが……まさか、本当に古代遺跡を発見するとはな。
いや、喜ぶのはまだ早い。古代遺跡自体はそれほど珍しくない。問題はこの遺跡が本当に目当ての遺跡で、いまもちゃんと稼働しているかどうかだ。
俺は慎重に遺跡の周囲を探索、問題がないこと確認してから遺跡の入り口を調べる。そこに現代もなお生きている端末を見つけて――頭を抱えた。
古代遺跡で希に見られる端末。様々な種類があるが、基本的には登録されている者以外を拒絶する役割を持っているために、現代の人間は全て弾かれる。
ゆえにこの遺跡がいまも稼働していて、しかも未発掘である可能性は高い。
だけど、それゆえに、俺がこの遺跡に入ることも出来ない。おそらく、扉以外の壁をぶち破るような真似も出来ないように対策がなされているはずだ。
「せっかく、伝説の遺跡を見つけたって言うのに……なんとかならないか?」
なんかの間違いで開けと、端末に手のひらを乗せる。これで俺がこの遺跡の関係者だと認定されたら開くんだけど、世の中そんなに簡単にはいかないか……ん?
端末に緑のランプが灯り、そこに文字が浮かび上がった。
古代文字だが、一応は読める。……なになに? 彼女いない歴が生まれてからであることを確認しました……って、う、うるさいわ! ――って、扉が開いた!?
扉に光の模様が浮かび、静かに開いていく。
そうして開けた扉の向こうには、まるで宮殿のような廊下が延びていた。
古代の地図に添えられていた文章が本当なら、この先で理想の彼女を創ることが出来る。
彼女を創る――と言っても、正直なところ良く分かっていない。
ただ、古代文明では生物ですら創り出すことが出来たと伝えられている。おそらくはこの遺跡も、そういった生命を創造するための設備だろうと考えている。
あくまで憶測で確証はないが、これが俺にとって彼女を創る唯一のチャンス。ここまで来て引き返すという選択はあり得ない。
俺は周囲を警戒しつつ、ゆっくりとその廊下を奥へと進んだ。
その廊下の奥、一つだけ部屋が存在していた。
より一層周囲を警戒をしつつ、部屋の中へと足を踏み入れる。
なにもない、ただ広いだけの白い部屋。その部屋が不意に光で満たされ、俺の目前に幻術で生み出されたような、半透明の老人が浮かび上がった。
「待っておったぞ、お主が彼女いない歴が生まれてからの寂しい少年よ?」
「無性に全力で否定したい衝動に駆られるんだが」
ここは古代の遺跡で、相手はおそらく古代遺跡が生みだした魔法生物かなにか。敵対する訳にはいかないのだが、彼女いない歴が生まれてからであるのを認めるのは辛すぎる。
「ふぉっふぉっふぉ、その反応こそが彼女いない歴が生まれてからの証拠じゃよ」
「……ぐぬぅ」
なんか悔しい。
「……というか、遺跡の案内役はもっと無機質だって話だけど、爺さんは妙に人間っぽいな」
「わしはただの人工生物ではなく、オリジナルのコピーじゃからな」
「……コピー?」
「ここの設備を作って生みだした身体に、オリジナルの人格をコピーして生まれたのがわしなんじゃが……この時代の人間には理解できぬか」
「ちょっと待て、爺さん。いま、この設備を作って身体を作った、といったか?」
「うむ、たしかにそう言ったの」
鼓動が早くなる。この遺跡を探していたのは古文書からその情報を見つけたからだ。俺は生唾を飲み込んで、もう一歩踏み込んだ質問を口にする。
「な、なら、この遺跡は、彼女いない歴が生まれてからの偉大な魔術師が、彼女を創るためにその一生を捧げて作り上げた施設――で、あってるのか?」
「わしが彼女を創るためにわしが一生を捧げたのは本当じゃ。だが、わしはここの研究を手伝ってくれた二回りも年下の美少女と結婚しておる」
「なん、だと……っ!?」
俺は思わず膝をついた。
歴史的にも有名な彼女いない歴が生まれてからの魔術師。その人物ですら実は彼女がいたという事実に、俺の心は耐えきれなかった。
「ふぉっふぉ、そう落ち込むでない。この設備がなんなのか、お主は知っているのじゃろ?」
「――っ! 彼女、彼女を創る施設、なんだよな?」
「ああ、そうじゃ。わしには必要なくなったが、わしと同じ苦悩を抱える人間を救済するために創ったのじゃ。という訳でお主に質問じゃ。彼女が……欲しいか?」
「欲しい!」
「ふぉっふぉ、良い返事じゃな。では、まずはこれを見るが良い」
爺さんの隣に女の子の幻影が浮かび上がる。
女の子と評したが、その子は髪はボサボサで、肌は荒れて痩せ細り、目は虚ろだし、体型も良いとは言いがたい。お世辞にも可愛いとは言えない女の子だった。
「おい、爺さん。この子が俺の彼女とか言うのか? 正直、その……」
「心配するな、お主の言いたいことは分かっておる。これはあくまでデフォルトの姿であって、完成された彼女ではない」
「完成されていない? どうやったら完成するんだ?」
「一つずつ――たとえば、性格はもちろん、頭の大きさや、身長、スタイル、目の形など、あらゆる設定を自分好みに弄ることが出来るフルメイクが可能じゃ」
彼の言葉に従って、半透明の少女の体付きや顔立ち、それに服装や髪の色が変化する。どういうシステムかは分からないが、とにかくその変化をコントロール出来るようだ。
その一瞬だけ、俺の好みど真ん中の姿になった。
「お、おい、爺さん、いまの、さっきの姿、むちゃくちゃ俺好みだぞ!」
「ふぉっふぉ、そうかそうか。じゃが、設定はお主自身でする必要がある。それに、設定に関してはいくつかルールがあるんじゃ」
「ルールだと? それに従えば、さっきの姿にすることも可能なんだな?」
「それはお主次第じゃ。それじゃルールを説明するぞ。まず一つ目は――」
爺さんがルールの説明を始める。
まずは彼女の設定について、一ヵ所ずつ変化させるかどうか俺が任意で選択するらしい。パスした場合は次の項目に進み、選ばなかった項目は二度と選ぶことが出来ない。
そして、変化させることを選んだ場合は試練を受ける必要がある。その試験に合格することが出来れば、選択した項目の設定を好きに変えられるようになる。
その試練は最初は簡単で、回数をこなすごとに厳しくなっていくらしい。
「……つまり、俺の好みにより近づければ多くの試練を受ける必要があるってことだな。ちなみに、試練って言うのはどういう内容なんだ?」
「仮想現実の中で戦闘をしてもらう。諦めない限りは再挑戦が可能だが、受けた試練を一度でも諦めたらそこでおしまい。彼女を与えるという話はなしじゃ」
「……なるほど。ちなみに、試練の数は最大でいくつなんだ?」
「それは答えられん。ただし、こだわり抜くことが出来ることから、その試練の数は相応に多いとだけ教えておいてやろう」
つまり、俺好みの彼女を手に入れるためには何度も試練を受ける必要がある。だが、彼女のデザインにこだわりすぎて何度も試練を受けると、全てを失ってしまう可能性がある。
どの部位の変化を選び、どの部位の変化を選ばないかの選択も重要だ。最初の方で試練を受けすぎると、後半で苦しむ可能性もあると言うことだからな。
「分かった。ぜひともチャレンジさせてくれ」
「うむ、良いじゃろう。では最初の項目は――髪の毛だ」
「……髪の毛? 長さとか髪形の話か? そんなの、後でなんとかすれば良い話だろ」
「いや、むろんそれらも含まれるが、ここで需要なのは髪の質や色などじゃな。選ばなければいまの少し痛んだ黒い髪じゃが、選べば金糸のように美しい髪にも出来る」
「……あぁ、なるほど。そういう部分を選べるのが本質なのか」
どうするか――と俺は考えを巡らす。
髪の長さや髪形ならどうとでもなるが、髪質や色となると話は別。髪は女の命とも言うし、ルールによると、ここでパスをすると二度と髪を変えることが出来なくなる。
試練の難易度を知るためにも、ここは受けてみるか。
「よし、髪の変化を選ぶ。試練を受けさせてくれ」
「良いじゃろう、では――開始だ」
「――なっ!?」
いきなり、本当に何の前触れもなく、目の前にゴブリンが現れた。俺は反射的に腰の剣を引き抜いて警戒態勢を取りながら爺さんに話しかける。
「おいおい、さっき仮想の戦闘がどうとか言ってなかったか?」
「心配するな、いまお主が立っているのは仮想の空間じゃ」
「……これが? まぁ、良い。とにかく、あのゴブリンを倒せば良いんだな?」
「うむ、その通りじゃ、簡単じゃろ?」
「ああ、これくらいなら余裕、だっ!」
ゴブリンがショートソードを振り上げて迫り来る。その攻撃を軽くステップを踏んで躱し、隙だらけの胴を両断した。次の瞬間、ゴブリンはまるで存在していなかったかのように、光の粒子になって消えてしまった。
「……いまのは、なんだ?」
「言ったじゃろう、既にここは仮想空間だと。とにかく、一つ目の試練はクリアだ。ほれ、お主の思うままに、この娘の髪を弄るが良い」
「弄るって言ったって……おぉ!?」
俺が思い浮かべただけで、少女の髪がサラサラで艶やかな長髪へと変化した。そして髪の色も銀に近いプラチナブロンドとなる。
「物凄く綺麗な髪だが……アンバランスだな?」
「まぁ、他があれじゃからのぅ」
「なるほど、じゃあ続けていこう。さっきくらいの試練ならまだまだ余裕だからな」
次の項目として提示されたのは身体のバランスだった。
目の前にいる少女は胴長短足で、スタイルが良いとは言いがたい。ここをパスするという選択はあり得ないと、俺は続けて試練を受けた。
敵はゴブリンからオークに代わっていたが、脅威度としては大差ない。俺はゴブリンと同じように、一刀のもとに斬り伏せた。
そうして彼女は長くしなやかな手足、小さな頭と、モデルのような体型を手に入れた。
続いて顔のパーツの大きさや形、そして配置などの設定。これもパスできるはずがなく、俺は続けて試練を受ける。
今度の試練はオークが二体。やはり大したことがないとそれぞれ一刀で斬り伏せた。
切れ長の眉に薄い唇、目はぱっちりとしていてまつげは長い。
鼻筋がすっと通った小顔の美少女が完成する。
その次は意外にもまた顔のパーツ、瞳の種類だった。さっきとは違い、今度は瞳の色や透明度、視力などが設定できるらしい。
というか、設定しないと視力がかなり低いらしい。
俺の都合で生み出す彼女、俺の都合で目が悪いままというのも申し訳がない。ここは当然挑戦するぜと試練を受けて、青く澄んだ、とても視力の高い瞳を手に入れた。
その後も挑戦を続け、透けるように白くすべすべの肌、大きすぎず小さすぎない形の良い胸、安産型の丸みを帯びたお尻、腰のくびれや手足の細さなどを調整した。
ズルいことに、各部位の詳細な設定――という項目があったのだ。
この辺りから、俺は嫌な予感を覚え始めていた。
後半の試練ではトロルやオーガなど、Aランククラスの魔物が登場したが、俺はからくも勝利する。正直危なかったが、彼女が欲しい一心でなんとか勝つことが出来た。
そうして出来上がったのは、文句なしの俺好みの美少女だった。
そして――
「では次の項目じゃ。次は――服装じゃな」
「なんだ、服なんて後で買えば済む話だろ。試練もだいぶキツくなってきたし、パスに決まってるじゃないか」
「良いのか? 旧世界の、凄まじく可愛いデザインじゃぞ?」
「な、に……?」
ここで無視することが出来れば未来は変わっていたのかも知れない。だが俺は、旧世界の可愛いデザインという言葉を無視することが出来なかった。
「……旧世界の服って、どういうのだ?」
「そうじゃな……お主の好みで言うと、こう言うのじゃ」
「ふおぉぉぉっ!?」
少女の服装ががらりとわかり、俺は思わず叫び声を上げた。たしかに現代では見慣れぬ、だが確実に俺の好みのど真ん中を行く服装だった。
「ノースリーブのトップスに、ティアードスカート。その下はガーダーで釣った黒のストッキングじゃっ!」
「意味はまったく分からないがむちゃくちゃ可愛いことは認めよう! ……だが、ここでデザインを見られたのだから、洋服店に作らせたら済む話だな、やっぱりパスだ」
「ふっ、そう甘いはずがなかろう」
「なに? それはどういうことだ?」
「このデザインは、この挑戦が終わった時点で、このデザインはそなたの記憶から消えてしまうのじゃ。ゆえに、ここで選ばなければこのデザインと出会うことは二度と叶わぬ」
「ば、馬鹿なっ!?」
こ、この凄まじく俺好みの服を二度と見ることが出来ない、だと?
いやそれどころか、素晴らしいデザインと出会ったという記憶のみが残り、それを諦めたことを一生後悔し続けるという可能性も……っ。
いや、だがしかし、既に試練はだいぶギリギリだ。これ以上試練を受ければ、全てが水の泡となる可能性も存在する。いや、だが、それでも……っ。
「おぉ、そうじゃ忘れておった。ちなみにこの服には鎧の役目を果たすほどの防御魔法が掛けられておるぞ」
「そ、それはたしかに凄いが、鎧は鎧で用意すれば良い話だしな……」
「ちなみに、選択できるのは服だけではなく、可愛い下着もセットじゃ」
「こ、この悪魔め……っ」
悪魔の誘惑に勝てずに挑戦した。
そして敗北して死んだ。
「――はっ!?」
飛び起きた俺は辺りを見回す。
そこは変わらず、遺跡の最奥にある真っ白な部屋だった。
「俺は……どうなったんだ?」
「お主は試練で挑んだ敵に敗北したんじゃよ」
「敗北……じゃあ、俺は彼女を手に入れられないのか?」
服に釣られたことを後悔する。
だが俺が絶望する前に、爺さんは首を横に振った。
「言ったじゃろう。試練は再挑戦が可能だと。ここは既に仮想空間で、何度死んでも生き返る。現実ではほとんど時間が過ぎていないから、食事や睡眠も必要ない」
「……なるほど、そういう意味だったのか」
睡眠も食事も時間も、死の心配すら必要ない。
ただ、勝利できない限りはこの試練も終わらない。俺に選ぶことが出来るのは、全てを諦めて敗北を認めるか、なにがなんでも試練を乗り越えるの二択、ということだ。
「面白いじゃねぇか、再挑戦だ!」
彼女を手に入れるためなら、死んで生き返るくらいなんでもない。何度でも勝てるまでやってやる。そうと決まったら無様に床の上に寝てなんていられない。
飛び起きた俺は再び剣を構えた。
その意思に答えたのか、再び俺の前に試練の敵が現れる。ケルベロスと呼ばれる、その犬型の獣はSランク認定されている、正真正銘の魔獣である。
一戦目は無謀に斬り掛かってあっさり返り討ちに遭った。ゆえに今回は慎重に相手の出方をうかがって――気付いたら背後に回り込まれていて、奇襲で殺されていた。
続けての三戦目は同じように相手の出方をうかがい――相手が背後に回った瞬間に俺も振り向いてカウンターを仕掛けて打撃を与えた。だがその後が続かずにやはり殺される。
そこから更に何度か死にながら試行錯誤して、なんとか勝利することが出来た。
「は、はは……勝ったぞ。いきなりキツくなったが、頑張ればなんとかなるもんだな」
重要なのは、こちらは経験を積むことが出来るが、相手は成長しないという点だ。行動パターンを研究することで、相手の裏をかくことが出来るようになる。
「うむうむ、なかなかやりおるのぅ。では次は、この娘の声じゃ」
「……声、だと?」
「そうじゃ。このままだとこの娘は声を発することが出来ぬ。だが選択をすれば、多くの声優サンプルの中から、お主の好みに合わせて設定することが可能じゃ」
「相変わらず鬼畜な選択を提示しやがって……良いよ、挑戦してやる!」
たしかに厳しいが、俺が選択から逃げて少女がしゃべれなくなるのはキツい。
またこちらは死ぬことがなく、パターンを解析すればクリアすることが出来ると証明できた。ここで引き下がってたまるかと挑戦して――気付いたら死んでいた。
「ふぉっふぉ、そろそろ諦めるか?」
「誰が諦めるか、もう一回だ!」
再戦を求めるたびに殺される。
ケルベロスが相手のときと違い、なぜ殺されるのかすら理解できない。
殺されて殺されて殺されて、やがて俺は挑戦を宣告されてから、殺されるまでにわずかなラグが存在することに気が付いた。
……もしかして、見えない敵がいるのか?
そう考えた俺は、次の戦いではただひたすら虚空を注視する。そうして殺される瞬間、俺は周囲の空気が揺らぐのをたしかに感じ取った。
たしかに見えない敵がいる。
俺はそれを前提に挑戦を繰り返し、ついに一撃目を剣で受け止めることに成功した。だが、一撃目を受け止めても後が続かない。こちらが反応することで相手の行動が変わり、こちらが必要になる対応も変わってしまうからだ。
そこで俺は目を閉じて、空気の揺らぎや気配で相手を感じ取ることに注視した。
最初はなにも出来ずに殺された。だが、二度三度と続けているうちになんとなく空気の揺らぎで方向が変わるようになり、十回、二十回と続けているうちに距離が分かるようになった。
そうして死亡数が三桁を突破して、俺はついに見えない敵を感覚で見ることに成功した。そうして見えない敵と切り結び、俺はついにそいつにも勝利する。
「ふぉっふぉっふぉ、まさか、まさか、ここまで勝利する者が現れるとは思わなかった。まれに見る彼女に対する執着心じゃな、さすが彼女いない歴が生まれてからの猛者じゃ」
「余計なお世話だ。これで声が選べるんだな?」
「うむ、好きな声を選ぶが良い」
俺はいくつかの声を聞き、その一つに惹かれた。当時の声優という職業の人の声をサンプリングして生み出された声らしい。
良く分からないが、とにかく透明感のある綺麗な声で、俺はそれを選択した。
なにはともあれ、完璧な容姿に完璧な声の少女が完成した。もはや一点の隙もない。これでようやく、俺は最強の彼女を手に入れることが出来る。
「さぁ、その彼女をもらおうか」
「いや、まだじゃ。まだ選択は残っておるぞ?」
「だとしても、これ以上の試練は無理だ。絶対に無理だ。さっきのがクリアできただけでも奇跡みたいなものだからな。だから、残りの選択は全て拒否だ」
「おや、それで構わぬのか? そんなことをしたら、この娘はすぐに死んでしまうぞ?」
「……は?」
凄く、物凄く嫌な予感がする。だが、そんな風に言われて聞かない訳にはいかない。
だから俺は聞いた。それはどういう意味なのか、と。
「次の選択は、この娘の体調や能力じゃ。このままでは彼女は生命活動もままならぬ。そなたのものとなっても、数日と保たずに死んでしまうじゃろうな」
「ふざっけんなっ! なんだ、その地雷設定は!」
「なにを言うておる。ちゃんとルールは教えておいたではないか」
「……ぐぬぬ」
たしかに爺さんはほのめかしていたし、俺も最初に選びすぎると後半で苦しむ可能性があると気付いていた。けど、彼女の生命に関わるような選択があるとは思わないだろ!?
「どうするのじゃ? ここで諦めても構わんぞ? そもそも、お主は彼女を作るためにここまでの努力が出来る男じゃ。たとえ現実に戻ろうとも、ちゃんと彼女が出来るじゃろう」
「出来ないからここに来てるんだよ! というか、この後も同じような選択が続くんじゃないだろうな? 無限にこういった選択があるとか言ったら怒るぞ?」
「いや、それはない。生命活動的な意味では、この選択が最後じゃよ」
「……そっか、だったら良いよ。あぁ、良いさ、良いだろう。挑戦してやるよ。この際、神でも魔王でも関係ない、俺の彼女作りを邪魔するなら全部纏めてぶち殺してやる!」
そして俺は再び殺された。
ちなみに俺の倒すべき敵は魔王だった。
「――こんなの勝てるかぁっ!」
「ふぉっふぉ、さすがに無理のようじゃな」
「ぐぬぬ……」
そこから死んで死んで死にまくる。死亡回数が四桁を超えた辺りで数えるのを止めた。
ちなみに、魔王はただ強いだけではなくこちらの心を折りに来ている。こちらのあらゆる攻撃を受けとめ、それの威力をきっちり五割増しにして反撃してくるのだ。
「まぁそうしょげるな。ここまで頑張ったのはお主が初めてじゃ。その根性と努力があれば、彼女もちろん、欲しいものはなんでも手に入れられるじゃろう。お主がこの試練で手に入れたのは、なにものでも自力で掴むことの出来る根性、という訳じゃな」
このまま、ただ殺されてても埒があかねぇ。なにか糸口が必要だ。だが、こちらの攻撃を五割増しにして返してくるような相手に……いや待て、五割増し?
魔王が五割増しの攻撃で反撃できるのは、本気の一撃がもっと高レベルなところにあるからだろう。つまり、魔王は本気を出していない。
だが、俺には常に、自分の五割増しの手本があるとも言える。それを学び、自分の物とし続けることが出来たのなら、いつか魔法の本気に追いつくことが出来るはずだ。
「そなた、まさか、まだ続けるつもりなのか?」
「当然だろ、ここで諦めてたまるかよ」
「いやいやいや、さすがに魔王は無理じゃろ? ……仕方ないの。一つ教えてやろう。端末のチェックによると、お主が気付いていないだけで、近くにお主を想う相手がいるはずじゃ」
「はあ? 俺を想う相手だと?」
「そうじゃ。健気に尽くしてくれる相手に心当たりはないか?」
そんな相手がいたらそもそもここに来るはずがない。だが、爺さんがこんな風に言うからにはなにかあるのだろうと、それらしい相手がいないか考えを巡らす。
基本的に、俺の周囲にそういう人間はいない。というか、そもそも女っ気がない。実家には生意気な義理の姉妹はいるが、どう考えても俺に恋愛感情を抱いているとは思えない。
後は……
「もしかして、クリスのことを言ってるのか?」
「ほう、心当たりがあるのじゃな?」
「たしかにあいつは親切だ。朝起きたら飯を用意してくれているし、部屋の掃除もしてくれる。見てくても女みたいに可愛いが……あいつは男だ!」
「ほぉん? いや、男の場合はシステムに引っかからないはずじゃ。男の恋人を作っても、彼女いない歴という意味では変わりがないからな。そうなると……」
「ごちゃごちゃうるせぇ! とにかく再挑戦だっ!」
やっぱり俺にはこれしかないと、再び魔王に挑む。
相手がこちらの攻撃を上回る攻撃を繰り出してくるのなら話は早い。俺は相手の反撃を喰らうたびに、その威力の増した攻撃をお手本として研究する。
そうして研究を繰り返し、何度死んだかは分からない。
おそらくは数万、もしくは数十万回。本来なら生涯で一度しか体験できないような死闘を繰り返した。そうして俺はついに、魔王の反撃の威力が俺の攻撃と大差なくなった。
つまりは、魔王の本気と、俺の一撃が同じレベルに達した証拠だ。
だが、そこからが苦労した。
手本がなくなったせいで、剣技の威力を上げることに手こずったのだ。だから剣技はひとまず置いておいて、次に魔術を使って同じことをした。
魔術で攻撃して、威力を増した魔王の反撃を解析する。そうして数万回と繰り返して魔術も魔王と同じクラスにまで至る。
その次は近接格闘――などなど、俺は様々な技術を身に付けた。
それらを組み合わせることで新たな攻撃手段をも手に入れる。ついには魔王が真似できないオリジナル魔術を生みだし、その力を持ってして魔王を討ち滅ぼした。
「やった、勝った、勝ったぞっ! くくくっ、はーっはっは、俺はついにやりとげた! もう死ななくて良い。これで、最高、最強の彼女の完成だ――っ!」
狂喜乱舞して雄叫びを上げる。
「ま、まさか魔王を討ち滅ぼすとは……いやいやいや、いくら仮想空間とはいえ、いや、仮想空間だからこそ、身体能力の向上はないというのに……明らかに身体能力まで向上しておるな。意識の力が、システムに干渉する能力を身に付けておるのか……? 訳が分からぬ」
なにやら爺さんがドン引きしているように見えるが機嫌が良いのでどうでも良い。
「どうだ、見たか、爺さん」
「お、おう。見たぞ、こうして見せられても信じられないが、の」
「とにかく、設定だ。病気にかからない健康な身体。細い体付きが変化しない範囲での優れた身体能力や回復力。そしてなにより才能に恵まれた身体だ」
「ふむ……まぁ問題なかろう」
「よしっ! 言質は取ったぞ。ってことで、これで最高最強の彼女は俺のモノだな!」
これでようやく彼女が出来ると興奮するが、爺さんは再び首を横に振った。
「いいや、まだお主のものではない。最後の選択が残っておるからな」
「――おい!? 彼女の生命に関わるような選択はもうないって言っただろ!?」
「うむ、じゃから今度はそういう選択ではない。さっきも言ったが、お主が最後の選択せずとも、この娘は問題なく生きていける」
「だったら――」
「ただし、その場合、お主はこの娘の心を手に入れることは出来ないが、な」
「……あ?」
もはや嫌な予感とかいうレベルではない。選択項目は、選択をしない限りは基本的に底辺設定だ。心という項目がある時点で、確実に最悪の想定が思い浮かぶ。
そして爺さんはその予想通りに声を上げた。
「最後は娘の性格や想い――すなわち、お主を好きかどうかなどが選択できる。言うまでもないことじゃが、選択しなかった場合は性格が最悪で、お主のことも嫌いじゃ」
「ふ、ふ、ふざっけんなっ!」
最強に可愛い彼女(他人)とか、それは彼女違いも甚だしい。意味がないどころか、悔しい的な意味でマイナスとすら言える。
「ふざけてなどおらんよ。そもそもさっきから言っておるじゃろ。お主はもはや、自分の欲しいものは自分で掴み取るだけの根性……というか、技術的にも、環境的にも、じゃなぁ?」
「御託は良いから、さっさと次の挑戦を始めろよ」
「ま、まだ続けるつもりなのか? というか、わしの話、聞いておるか?」
「うるせぇ! いままで他の奴らもそうやって俺を慰めたが、いまこの瞬間も俺には彼女がいない、それが答えだ! これが現実だ! 俺に彼女は作れない、創るしかないんだ!」
「こじらせておるのぅ……当時のわしを見ているようじゃ」
「御託は良いから、次の試練だ! 次こそ最後、なんだろうな?」
「まぁ、たしかにこれが最後ではあるが……まぁ良い、これだけの努力をみせてくれたお主に免じて、最後まで付き合ってやろう。では最後の相手は――この世界の創造神じゃ」
――もはや勝利とか敗北とか、そういう次元の問題じゃなかった。
どうやっても勝てない。
何十万回、何百万回やっても勝てない。
もしかしたら、何千万、何億回戦って死んだかもしれない。
だが、あらゆる戦略が、全てなかったことにされてしまうのだ。神に一撃を加えたときですら、その事象自体がなかったことにされてしまった。
「事象なかったことになるとか、いくらなんでもデタラメすぎるだろ!?」
「いや、わしは神に一撃を入れるお主の方がデタラメだと思うんじゃが……お主の精神構造はどうなっておるんじゃ? 彼女が欲しい一心だけで色々限界を突破しておるのか?」
「ちくしょう。俺もあの力を手に入れるにしても、なにをやってるか理解できないしな」
「うむ、聞いておらんな。というか、神の力はさすがにそういう事象があるという結果だけを再現しておるだけじゃなから、お主がいくら化け物でもそれは不可能じゃよ」
「……ふむ?」
そう言えば、さっきからこの爺さんは、仮想空間だの、システムだのと言っていたな。
最初は意味が分からなかったが、見えないモノを見る技術を身に付け、見えるようになったモノ。それが魔王の魔術を解析しているうちに、なんとなく理解できるようになった。
それがおそらく、この仮想空間とやらを構築している魔術だろう。
「――そうか! 神は殺せずとも、神を生み出したシステムには介入できるはずだ!」
「お主がもはやなにを言っておるかわしの方が理解できんようになってきたが、なんだかろくでもないことを言っていることだけは理解できるぞ?」
「ろくでもなくねぇよ、俺がこの、最強で最高に可愛い彼女を手に入れる一手だ。見てろっ」
魔王の力を解析して身に付けた魔術を行使して魔剣を生みだす。
「ま、まて、お主、いまシステムに介入しなかったか!? というか、なんじゃそれは、それでなにをするつもりじゃ!?」
「これを使って、こう、するんだよっ!」
試練を受けるたびに、システムとかいう魔術が発動していたのは確認している。俺はその一点、神と戦うたびに動いていた術式を魔剣で――斬り裂いた。
「ば、馬鹿もんっ、そんなことをしたらシステムが暴走するぞいっ!」
「心配するな、ちゃんと斬るところは選んだ」
「斬ること自体が意味不明じゃし、そういう問題じゃないわっ! お主の生身の身体もこの部屋にあるんじゃぞ! このままでは――」
爺さんの叫びが、白く染まった魔力の本流に押し流されていく。
そして、不意に周囲から音が消え――衝撃。それを防御しようとした俺は、けれどさっきまで使えていたはずの魔術が使えず、そのまま為す術もなく吹き飛ばされた。
「……うぅん?」
意識を覚醒させた俺は、ぼんやりと目を開く。そこはなにもない真っ白な部屋で――自分がシステムの一部を斬り飛ばしたことを思いだした。
「いたた……どうなったんだ?」
不意に響いたのは透明感のある声。それは自分が選択した少女の声だ。ってことは、システムを斬るというのがやっぱり正解だった、って訳だな。
あの爺さん、慌てた演技までしやがって、手の込んだことだ。
おかしいとは思ったのだ。
いくらなんでも神に勝てるはずがない。だが、仮初めの神を創りし古代遺跡の術式を斬ることくらいなら頑張ればなんとかなる。そうして間接的に神に勝利する、というのが最後の試練をクリアする方法だった、って訳だ。
とにかく、最強に可愛い彼女は俺のモノだ。
「さっきの声からして近くにいるはずだけど……って、え?」
俺はここで初めて違和感に気付いた。
再び、俺が作った最強に可愛い彼女の、透明感のある声が響いたのだ。それも、俺がしゃべろうと思った内容を、そのままなぞるように。
「これは俺の声……って、いやいやいや、そんな、まさか……」
ペタペタと顔を触る。
ほっぺたはぷにぷにで、手はすべすべ。そして細くしなやかで、透けるように白い。胸はほどよい大きさだし、腰はきゅっとくびれている。
俺がこだわり抜いて設定したスタイル、そのままだ。
「……だから言ったんじゃよ、システムが暴走する、と」
「じ、爺さん、これはどういうことだ!?」
「システムが暴走して、現実にあったお主の身体が吹っ飛んだ。そして、帰る肉体を失ったお主の精神は、近くにあった心を持たぬ肉体の中に、という訳じゃ」
「そ、それはつまり?」
「うむ、そういうことだ。ほれ、鏡じゃ」
俺に向けられた鏡には、驚愕の表情を浮かべるむちゃくちゃ可愛い女の子。
つまり――
「お、お、俺が最強に可愛い彼女になってる――っ!?」
◆◆◆あとがき◆◆◆
お読みいただきありがとうございます。
真面目にふざけたくて衝動的に書きました。
今作はここまでの予定で書きましたが、反響が大きければ長編化することもあります。続きが読みたいって方は、ブックマーク等しておいていただけると嬉しいです。
また、明日には「王子……邪魔っ 執事様のお気に入り」の一章が完結します。
気が向いたら、そちらもご覧ください。
彼女を創って最強になった少年 緋色の雨 @tsukigase_rain
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