第10話
「まさか山田君が私のこと好きだったなんて……明日から顔合わせずらい……」
「ごめんなさい、言わない方が良かった?」
稲海と羅地は校内にある学生ラウンジでひとまず休憩していた。
羅地は自販機でかったジュースを飲みほした。流石に喉がかわいていたので生き返った気持ちだ。
「稲海姉さん、これからどうするの?」
「どうしようか……」
稲海は一番怪しいと思っていた——一人しか怪しいと思っていなかったが——彼が犯人だとずっと思ってた。だから羅地君の練習にもなると考え総一郎さんに提案したのだ。もし、二人が犯人を特定できなくとも答えを知ってるから安心だ、と。
自惚れていた恥ずかしさと、好意に気づいていなかった自分の鈍感さが稲海の心に少なからずダメージを受けていた。
「羅地君は何か考えはある?」
「茜さんが置き忘れた物を盗んだ場合、その人は大学にはいるだろうけどそこまで近くにいる人じゃないと思う。茜さんがいるのに気づかずに盗まれたのならとっても近くにいたはず。だから茜が盗まれたのに気づいた時のことをもっと詳しくしりたい」
「確かに、その二つのどれかで調査の仕方はずいぶん変わってくるね」
「うん、でも茜さんは今まで忘れ物したことが少ししかないって言ってたから、置き忘れることはないと思う」
「そうだね、傘盗まれた後は置き忘れに注意すると思うし……。そう考えるとやっぱり、最低一つはあかねと同じ講義は受けてるはずなんだよなぁ」
二人が悩んでいると千晶がラウンジに入ってくるのが見えた。肩を落としているところを見ると防犯カメラの方も手応えなしだったのだろう。
千晶はラウンジの端っこにある机に座ってる二人に気づくと近づいてきた。
「その様子を見るに収穫は無さそうですね」
「それはお互い様でしょ」
睨みあう二人。
火花を散らせる空気をあえて無視し羅地は千晶に防犯カメラの方の結果を聞いた。
「映像を見させてもらうことは出来たのですが、更衣室に忍び込む人は女性を含めいませんでした。……タオルを盗まれたといっていたから、コッソリ授業中に盗みに入ったと思ったのですけど……。それでそちらは如何でしたか、まさか私にだけ喋らせておいて自分は話さないつもりじゃないでしょうね」
「私達の方もハズレだった」
「怪しいと思って問い詰めた人はただ稲海姉さんが好きな人だ——」
「ちょっ!羅地君」
稲海は慌てて立ち上がり羅地の口を塞ぐ。が千晶にはほぼ全部聞こえて、
と大爆笑「オホホホホ」
「そんな風に笑う人本当にいるんだ」と羅地は驚いていた。
「行くよ羅地君!」
耳を赤くした稲海が羅地の手を引っ張りラウンジを出る。
「千晶さん笑いっぱなしだけどほっといていい?あっ、むせた」
「いいのよ、あんなやつ。笑い死ねばいいわ。それよりもうすぐ次の講義があるから、後ろの方に座って教室内を観察しよ」
「わかった」
「絶対犯人見つけて、吠え面かかせてやる」
目的が変わってるような気がしていたが、そっとしておこうと羅地は思った。
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