第57話 友達に隠し事は出来ない

 週末にお出かけしたからなのか、それとも瑛斗えいと自惚うぬぼれだろうか。

 心做しか、紅葉くれはの機嫌が良さそうに見える月曜日。

 しかし、そんな彼女にも他のみんなと平等に訪れる定期イベントがある。


「そろそろ期末テストだね」

「一学期って終わるの早いですよね」

「時間が早く流れるのは心が老化して日々の刺激を感じづらくなるかららしいわよ、ぷぷ」

「……東條とうじょうさん?」


 地頭がいい上に努力家な二人は、テストと聞いても喧嘩をする余裕があるらしい。

 瑛斗の方はそうもいかない。この二人やノエルイヴに対してポイントのやり取りが必要なくなったものの、他で使う場面が無くなった訳ではないから。

 それにある程度貯めたら、これまで貰った分を紅葉に返すつもりでもある。本人はきっといらないと言うけれど。

 そのためにもなるべくいい点数を取らなければならないという焦りが、彼の中にはフツフツと湧き上がり始めていた。


「でも、テストが終われば夏休みよ。こんな学校に来なくていいなんて天国よね」

「それは同感です。もちろん、ポイントは使わせていただきますが」

「そりゃそうよ。これは私たちが我慢をした頑張りに対する報酬なんだから」

「……その頑張りを僕は貰ってたのか」

「き、気にしなくていいのよ。むしろ、これだけあると一人で持ってても仕方がないわけだし」


 紅葉はそう言うが、やはり貰うだけというのも気が引ける。全額は無理でも一部くらいはお返しさせてもらおう。

 そんなことを考えた瑛斗は、ふと二人の顔を順番に見て思ったことを口から零す。


麗子れいこはお嬢様だから、多分高いものを買うことに慣れてるよね」

「そうですね。いいものを選ぼうと思うと、自然とお値段も張ります」

「だよね。でも、ポイント的には紅葉も結構持ってる方なんだよね?」

「S級だもの」

「その割には紅葉は高いものを買わないよね。この前だってプチプラとか何とか言ってたし」

「だって無駄遣いしたところで、私にはもったいないものばかりじゃない」

「しっかりしてるね。将来は税理士か何かかな」

「そこはいいお嫁さんになるとかじゃないの?」


 不服そうな目を向けてくる紅葉に「お嫁さんになりたいの?」と聞き返すと、彼女は顔を赤くして「あ、相手が居ればの話よ」と顔を背ける。

 そんな姿を眺めていた麗子は、「あの……」と話に入ってくると、こちらをじっと見つめながら聞いてきた。


「この前、というのは?」

「ああ、お出かけしたんだ。正確には紅葉の化粧品を一緒に選んだんだけど」

「化粧品を一緒に?! どうして私を誘ってくれなかったのですか!」

「紅葉は麗子が来たら高いのをおすすめしてくると思ってたみたい。僕はそんなことないって言ったんだけどね」

「ええ、もちろん値段は考慮しますよ。ですが、そのように思われていたとなれば話は別です」


 お金持ちであるが故の偏見が余程気に触ったのだろう。紅葉へジリジリと詰め寄った麗子は、逃げ出そうとする彼女を捕まえる。そして。


「私の金銭感覚はまともです!」

「わ、わかったわよ……」

「お金持ちだからって馬鹿にしないで下さい!」

「もうしないから。皆見てるから勘弁して」

「いいえ、許しません」


 麗子は家がお金持ちであるが故に苦しめられた。だから、それを他者からイジられるのは辛いのだろう。

 それを考慮してもやりすぎだ。紅葉が両頬を引っ張られて痛がるのを見て、瑛斗もさすがに止めに入った。


「紅葉、大丈夫? ほっぺ伸びてない?」

「伸びてるわけないでしょ! 白銀しろかね麗子れいこ、手加減ってものを知らないの?!」

「ふん、私をバカにするから悪いんです」

「そっちがその気ならこっちだって―――――」

「はいはい、ストップ。これ以上やるなら僕は二人と一週間口を聞かないよ」

「「なっ?!」」


 彼女たちはしばらく睨み合っていたが、「ふんっ」としかめっ面で腕を組む姿を見て本気度を理解したらしい。

 「仕方ないわね」「やむを得ません」と言い合って仲直りの握手をしてくれた。


「二人が仲良しで僕は嬉しいよ」

「あはは、そうね……」

「ふふふ、そうですね……」

「仲良しだよね?」

「「そ、その通りです!」」


 ピシッと背筋を伸ばして頷く二人に、瑛斗が満足だと頷いたことは言うまでもない。

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