第502話
『
そうすることで物理的な距離だけでなく、心の距離も再度縮めさせて無事に仲直り。始末の件も噂の件も全てまとめて丸く収まる。
言葉にすれば確かに上手く行きそうではあるけれど、人生は思ったより平和だ。そう簡単に危機的状況なんて訪れるはずがない。
そう心の中で否定仕掛けた僕は、2人がどこからともなく取り出したナイフとワイヤーを見て、そもそも彼女たち自身が平和的な人間ではないことを思い出した。
「なるほど。危機は作ればいいんだね」
「ええ、そういうこと」
「この家に少しばかり細工をすればいいだけだよ!」
僕とメイド機動隊の2人は向くべき方向を理解してやる気に満ち溢れているけれど、
こう言うと彼女が優柔不断だと思われるかもしれないが、これこそが普通の反応だと思う。
だって、怪我こそさせないとは言え、友達を危険な目に合わせるんだからね。躊躇して当然だよ。
だけれど、僕は確信していた。瑠海さんなら絶対に守り抜いてくれる、麗華を救ってくれるだろうと。
「大丈夫だよ、紅葉。瑠海さんを信じて」
「助けること自体は疑ってなんかないわ。でも、失敗する可能性だってあるじゃない」
「お嬢ちゃん、私たちを誰だと思ってるのかしら」
「闇社会に名を
「……知ってるけど」
「そんな私たちがあの子が失敗するような罠を仕掛けると思う?」
「自分たちの力量くらい把握してるもんね!」
ゴルフで全力で打った時の飛距離は同じ人同士でも、プロとアマチュアでは手加減しなければならない場所で勝負した時に差が出ると言う。
つまり、本当に実力がある人は、手加減の仕方までもを知り尽くしているということだ。
「まあ、罠に関しては私たちに任せてよ」
「僕たちは何をすれば?」
「お嬢様と普通に過ごしてくれればいいわ」
「私たちも危険な目に遭うってこと?!」
「大丈夫だよ、まとめて
「紅葉、大丈夫。僕も一緒にいるから」
「うぅ、わかったわよ!」
紅葉はようやく作戦に参加する覚悟を決めてくれたらしい。たとえ彼女が覚悟出来ていなくとも、手遅れになってはまずいから強制的に参加させるつもりだったけどね。
飴で釣るなんてことにならなくて良かったよ。その代償に、不安そうな表情がバレないように麗華の気を逸らさないといけないけれど。
「それじゃあ、決行する時は連絡するわね」
「連絡ってどうやって?」
「スマホを見れば分かるわ」
考えるまでもなく目の前にいる2人のものだろうけれど、どうやって僕のアカウントを特定したのかは謎だ。
まあ、彼女たちの能力なのかな。そういうことだということで納得しておこう。深く知って消されても困るし。
「今度こそ配置につくわよ」
「はい、よろしくお願いしますね」
これ以上時間をかけると、お手洗いだと言って出てきたことが疑われてしまう。
僕たちは急ぎ足で麗華のところへと戻ると、空になったお皿を運ぶ
上品に口元を拭っていた麗華は、こちらに気が付くと嬉しそうに頬を緩ませて駆け寄ってくる。
「お待たせしました! では、私の部屋へ向かいましょう」
「うん、そうだね」
「お2人に見せたいものがあるんです」
喧嘩のことなんて気にしていないのか、キラキラした目で腕を引いてくる。
僕はそんな彼女の視界からなるべく顔色の悪い紅葉を隠すように立ち振る舞いつつ、ポケットの中のスマホに意識を向けながら歩き出すのだった。
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