第301話
それを飲んだ彼女はようやく落ち着き、いつもの凛々しい表情に戻ってくれる。
「会長、
「……幼馴染だ」
「だから仲良さそうだったんですね」
「そ、そう見えたか?」
「ええ、付き合ってるのかなってくらいには」
僕の言葉を聞いた会長はしばらくの間固まったかと思うと、突然立ち上がって空になった缶を蹴り飛ばした。
斜め45度に飛んで行った缶は校舎3階の開いた窓から中へ飛び込み、直後に悲鳴が聞こえてくる。何が起こったのかは分からないけれど。
「わ、わわわわ私が浜田と?! そんなわけ……」
「会長、すごくわかりやすいですね」
「私は学園のトップだ、浜田なんかを好きになるはずがないだろう!」
「でも、浜田先輩ってイケメンですよね。その上料理も得意で性格も良い、非の打ち所がないです」
「そうなんだよ、昔から何でもそつなくこなすあいつに憧れて、私も色々と習い事を……」
そこまで言った彼女はハッとすると、「何を言わせるんだぁぁぁぁ!」と僕の胸ぐらを掴んで激しく揺らしてくる。
そんな状況へ他の場所を探していた
「
「君は黙っていろ!」
「会長だからって許さないから!」
「ええい、瑛斗クンに認めさせるまで引き下がれないんだ!」
引っ張ってくる紅葉を振り切って再度僕に掴みかかってきた彼女は、「私は浜田のことなんか嫌いだ!」と叫ぶ。
しかし、それと同時に何かを地面に落とすような音が聞こえてくる。振り返ってみれば、浜田先輩がその場で立ち尽くしていた。
「は、浜田?!」
「……そうか、俺って嫌われてたんだな」
「違うんだ、今のはそういう意味じゃ……」
「ごめんな、もうお節介はやめるからさ」
そう言った彼の顔は笑っていた。まるで先程の嫌い発言に対して何も感じていないかのように。
それでも浜田先輩はくるりと背中を向けると、そのまま走り去る。会長はすぐに追いかけるも、落として言った何かに躓いて転んでしまった。
「浜田、待ってくれぇ……」
立ち上がろうとした彼女は膝を押えて座り込む。擦り傷から血が垂れていた。かなり痛そうだ。
「会長、保健室に行きましょう」
「でも……」
「紅葉、浜田先輩を探してくれる? 見つけたら連れてきて欲しい」
迷うことなく頷いて走り出す彼女の様子に、諦めたようにため息をついて抵抗をやめる会長。
僕は彼女に肩を貸して校舎の中へと入ると、痛みの様子を伺いながら保健室までゆっくりと向かったのだった。
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「会長、大丈夫ですか?」
「ああ、おかげ様でな」
手当てを終えた会長は幾分か落ち着いていたが、すぐに浜田先輩を探しに行きたいという気持ちが目から読み取れた。
だから、僕は話を聞くということで、彼女をここに留めておくことにしたのである。
「浜田先輩ってどんな人なんですか?」
「そうだな、良い奴だ。昔から私が困っていると助けてくれるし、お菓子を作って笑顔にしてくれた」
「すごい人ですね」
「でも、あいつは
「違うところ、ですか?」
僕の問い返しに小さく頷いた会長は短いため息をついた後、真っ直ぐにこちらを見つめながら教えてくれた。
「浜田には無いんだ。喜怒哀楽のうち、怒りと哀しみの感情が」
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