第143話
「みんな、おはよ〜♪」
みんなでリビングへと向かうと、既にソファーでくつろいでいる人物がいた。イヴは彼女を見つけると、飛びつくように駆け寄っていく。
「……♪」
「もう、朝なのに元気なんだから」
今日から参加するノエルだ。彼女はイヴの頭を撫でながら、「仕事が終わってそのまま来ちゃった」と微笑んで見せた。
この時間に到着しているということは、夜はずっと車の中だったんじゃないだろうか。
「あれ、ノエルは車酔いしないの?」
「しないしない!アイドルは車に慣れて―――――」
ノエルがそう言いかけたのと同時に、キッチンの方から重めの足音が聞こえてきた。
「ノエル様、お冷です」
「し、
紫波崎と呼ばれたスーツの男は、ノエルにコップを手渡すと、次に僕らの方へと視線を向ける。
「ノエル様は車酔いしやすいタイプなんです。それを笑顔で隠せているところはすごいんですけどね」
「なるほど、そうなんですね」
僕がちらりとノエルの方を見ると、彼女はそっぽを向きながら水を飲んでいた。酔わないってのは嘘だったんだね、隠さなくてもいいのに。
「ところで、紫波崎さんって何者?」
「私、ノエル様の専属マネージャーをさせて頂いている紫波崎です」
「マネージャーさんですか」
「はい。以前はそちらのイヴ様からの依頼として、ノエル様のボディーガードをしておりました」
ああ、イヴの話の中に出てきた『影から見守ってくれていた人』ってこの人だったんだね。背も高いしがっしりしてるから、こんな人に守ってもらえていれば安心だよ。
「あれ、じゃあ元のマネージャーはどうなったの?」
「つい最近まで、ノエル様のマネージャーは
話によると、グループ自体が有名になってきたことで個別の仕事も増えたため、4人全員に専属のマネージャーが着くことになったらしい。
その中でも紫波崎さんは、広報系の仕事をしていた経験や官僚の秘書をしていた頃に培った情報処理能力、一流レーサーだった頃のドライバーとしての腕を買われ、引き続きノエルのそばにいてもらうよう社長から直々に頼まれたそうだ。
紅葉が「いや、この人何者?」と戸惑うのも理解出来る。「宇宙飛行士をしていたこともありました」と言われたら、いよいよ弱点が無さすぎて怖いよ。
「イヴ様が泣きながらノエル様の身を託してくださった時のこと、私は今も―――――――――」
「……」
「っ……失礼しました」
「……」コク
あれ?紫波崎さん、ちょっと顔が引き攣ったように見えたけど。もしかして、イヴみたいなタイプが苦手だったりするのかな?
「……」ジー
彼女が手招きをすると、紫波崎さんは「なんでしょう」と歩み寄る。イヴは彼の大きな手を取ると、手のひらに指で文字を書いた。
「っ……こちらこそ、ノエル様を任せていただき、ありがとうございます」
返事を聞く限り、イヴはお礼を伝えたのだろう。しかし、頭を下げた後の紫波崎さんの様子がおかしい。
イヴに握られた方の手をしばらく見つめると、ハッとしたように口元を押さえ、「では、私はこれで」と逃げるように出ていってしまったのだ。
「ちゃんと弱点があって安心したわ」
「そうですね」
「いくら完璧でも男の人ですからね」
紅葉、
「……?」
「まあ、イヴも分かってないみたいだからいいかな」
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