第85話
「ほら、血が出てるよ。絆創膏貼ってあげる」
「い、いいわよ!こんな傷、すぐに治るから」
「もう開封しちゃった。もったいないから貼ってね」
「……仕方ないわね」
廊下で転んだ時に膝を怪我してしまった
この調子だと、今日の運勢はかなり上がってるね。流れ星くらい見れるんじゃないかな。
「はぁ、今日は朝から運がないわ」
「他にも嫌なことがあったの?」
「ええ。寝不足だし、お弁当も忘れてきたし、おまけに左右の靴下の色を間違えたのよね……」
そう言われて見てみれば、確かに右が白で左が黒だった。新しいファッションだと言われれば、そう見えなくもないけれど、あんまり流行らなさそうだなぁ。
「それ、全部紅葉が悪いと思うけど」
「……それは言わない約束でしょう?」
「そんな約束したっけ?」
「世の常ってことよ」
「靴下なんて誰も見ないよ」と言ってあげると、「そうね、私の事なんて誰も……って、誰が寂しい人間よ!」と軽くパンチされてしまった。
紅葉、いつの間にかノリツッコミもできるようになったんだね。まあ、ツッコまれるようなことを言った覚えはないけれど。
「紅葉って何座?」
「ぎょうざ。――――――ちょ、ちょっと言ってみたかっただけよ!そんな目で見ないでもらえる?!」
「安心して、紅葉の膝は笑ってくれてるよ」
「恥ずかしさで震えてるだけだから!」
僕の言葉がトドメになったのか、彼女は両手で顔を覆って丸くなってしまった。「言わなきゃ良かった……」と嘆く声もボソッと聞こえてくる。
「ぎょうざはないけど、餃子引換券ならあるよ。これでも食べて元気出して」
「……引換券?」
僕が差し出したものを指の隙間からちらりと見ると、首を傾げながら受け取った。
「これ、デバイスのゲームで10位以内じゃないともらえない券じゃない。あなたも始めたの?」
「ううん。今朝、必要ないからって
「奈々ちゃんが……?」
紅葉は少しの間唸ると、突然何かを思い出したようにデバイスをいじり始めた。そして、僕にゲームのランキング画面を見せてくる。
「1位の人の名前は『セブン』。これって、奈々ちゃんなんじゃない?!」
「ほんとだ、そうかもしれない」
「……意外と単純な推理だったわね」
奈々だから7でセブン。我が妹ながら、『Kureha』と同じくらい単純だったよ。
家に帰ったら、実名を推測できる名前もゲームに使っちゃダメだって叱っておかないとだね。
「じゃあ、奈々に頼めば欲しかった景品も交換できるよ」
「……そうね。でも、よりによって奈々ちゃんが1位だったとは……」
「どうしたの?」
「いえ、あの子に貸しはあまり作りたくないだけよ」
「お
「下に金貨詰め込んで……って、誰が悪代官よ!」
「悪代官は持ってこさせる側だけどね。というか、誰もそんなこと言ってないよ」
僕の反応に、紅葉はぷいっと顔を背けると、「とにかく、自分から頼むのは無理なのよ」と呟いた。何があったのかは知らないけれど、彼女はどうしても奈々に頭は下げたくないらしい。
「1位を取るのも無理で、貰うのすら嫌なら、奪えばいいんじゃない?」
「……奪う?」
「そう。他のことで勝負して、報酬として唐揚げ丼引換券を勝ち取ればいい」
「なるほど、その手があったわね」
「負けた時は相応の報酬を支払うことにはなるだろうけれど、相手は妹だからね。僕も裏方として動くことくらいは出来ると思うよ」
その提案に何度か頷いた紅葉は、ニヤリと悪い笑みを浮かべて「ふふふ、お主も悪よのぉ〜」と言ってきたから、「悪代官様ほどではございません」と返したら、「誰が悪代官よ!」とまた軽くパンチされてしまった。
「紅葉が先に言い始めたくせに」
「い、言ってみたかっただけだから!あなたは乗らずに止めなさいよ!」
「理不尽だなぁ」
まあ、妹に対して理不尽なほど卑怯な勝負をさせようとしている僕が言えたことでもないけどね。
「勝負の申し込みは今日の昼休みにするわ。あなたもついてきてもらえる?」
「今日は無理かな。学園長に呼び出されてるんだ」
「……また呼び出し?今度は何やらかしたのよ」
「綿雨先生の時は教科書代の話をしただけだよ。今回は多分、僕のランクについての話だと思う」
「なるほどね。少しはマシな数値になっていることを願っておいてあげるわ」
「うん、ありがとう」
僕らはそんなやり取りをして、教室へと戻った。既に授業が始まっていたから、先生に怒られちゃったよ。
後で紅葉に文句を言いに行こう。それから、お詫びとして新作の飴を食べてもらうんだ。
今回のはかなり刺激的だから、実験台が欲しいと思っていた所なんだよね。ちょうど良かったよ。
「っ……」
一瞬、紅葉の体が震えた気がしたけど、多分気のせいだ。
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