コンビニ
お魚君
コンビニ
今日からこのコンビニで働くことになった。
いつまで世話になるかわからないけど頑張ろう。
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「いらっしゃいませー」
若いスーツを着た男性だ。
入社したてだろうか。別のレジには同期と思われる男性もいる。
…おや、後ろに並んでいた人も仲間のようだ。
三人揃って店を出て行った。
なんだか楽しそうだったな。いいな。ああいうのって。
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「いらっしゃいませー」
…あの女子校生少し前から見かけるようになったな。
どうやら、昼飯を買ってから学校に行っているようだ。おにぎり二個にお茶を一本。
実に普通のメニューだ。
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「いらっしゃいませー」
見るからにリーダーという感じの人と連れの方々。彼らの話に耳を傾けると、どうやら最近事業が成功して、業績が右肩上がりのようだ。リーダーのような人は本当に
その後彼らは飲み物やお菓子を買って店を後にした。
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「いらっしゃいませー」
いつもの女子校生だ。何かいいことでもあったのだろうか、見るからに浮かれている。
彼氏でもできたのだろうか?
買った物はおにぎり二個とお茶一本。
相変わらずのメニューだ。
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「いらっしゃいませー」
最近見かけなかった若いスーツを着た男性だ。どうやら今日は一人のようだ。
しかし前に見た時よりもやや痩せた、気がする。何か疲れているようにも見える。
しっかりと休んでほしいものだ。
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「いらっしゃいませー」
いつかの社長さん御一行だ。
相変わらず皆さん仲がよろしいようで、楽しそうに会話している。少しうるさいが。
…そういえば、前見た時よりも人数が少ない気が…
気のせいだろうか。
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「いらっしゃいませー」
いつもの女子校生だ。
ただ、どこかそわそわしているように見える。一体どうしたのだろうか。
……あぁ、なるほど。レジに持ってきた物で理解できた。前に彼氏でもできたのかと予想していたが、どうやらその予想は当たっていたらしい。
コンビニでコレを買う人は意外と見かけるので、「ああこの人これからヤるんだな。」ぐらいにしか思わないが。
いつもの昼飯のメニューと一緒にレジ袋に入れた。
****
「いらっしゃいませー」
いつかの社長さんが来た。
ただ、連れが二人しかいない。彼らの顔も険しい。ヒソヒソと話す彼らの会話の断片から察するに、彼らの会社は経営に失敗したのだろう。いつかの元気溢れる姿は何処へやら。
今いない人たちはクビになったのか、逃げたのか、はたまた別の会社に引き抜かれたのか。
…まぁ、私の知ったことではない。
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「いらっしゃいませー」
若いスーツの男性だ。今日も一人。
雰囲気が悲壮感に溢れている。別の客もチラチラと彼を見ている。
商品を持ってまっすぐ私のところに来た。横のレジを見ると、隣のレジへどうぞの立札が。…逃げたな。
ここまで近いと分かったが、独り言をブツブツと呟いている。
…どうやら彼は仕事の失敗の責任を色々な人から押し付けられたようだ。これは社会の荒波に揉まれた、というのだろうか。
なんというかまぁ、可哀想ではある。
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「いらっしゃいませー」
最近見てなかった女子校生が来た。
顔面蒼白。彼女の今の状態を表すならその一言に尽きる。今にも倒れそうな感じだ。
彼女はお茶を一本だけ買って行った。
食事も喉を通らないのだろうか。
頭の中に前に会った時のことがよぎり、もしかしたらと思ったが、あまりにも可哀想だったので考えないようにした。
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「いらっしゃいませー」
いつかの社長さんだ。
賑やかな連れはおらず、今日は一人のようだ。
なんというか無気力だ。肩は力なく下がり、視線は常に下を向いている。
おにぎりを一つだけ買って帰った。
****
「いらっしゃいませー」
その後、若いスーツの男性、女子校生、社長さんともに見かけることは無くなった。
彼らが今どうしているのかは分からない。
…なんて人の事を色々と考えていたが、私も今後の事を考えなければならない。
働いていたコンビニをクビになった。人件費の削減だそうだ。上からの命令らしい。
世知辛いものだ。
また職を探さなくては。
お茶を一本買って外に出た。
「ありがとうございましたー」
コンビニ お魚君 @osakanakun
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