【番外編】ユゼフの休日−1

ユリウスとユゼフを中心にした番外編です。時系列としては、「リシャルドの弱点」のすぐ後の話になります。

・・・・・・・・・・・・・・


「どうするんだ?」


港で働いていたユリウスが、ユゼフに説得され一旦屋敷に戻った日の夜。ユリウスは、早速、父フレデリックの執務室に呼ばれそう聞かれた。


「何をどうするんでしょうか」


漠然とした問いかけすぎて、そう答えざるを得なかった。フレデリックはため息ついて付け足した。


「リシャルド様から直接話があった。お前をリシャルド様付きの騎士にしたい、と」


もう話が通っていることに、ユリウスは声に出さず驚いた。フレデリックはやや苛ついた声で続けた。


「なぜ迷う? 騎士団を辞めて逃亡していたお前にとって、名誉挽回のチャンスじゃないか」


その様子だと、「情報屋レオン」を引き継ぐことまでは知らされていないようだった。


「聞いているのか?」

「聞いています」

「だからどうするんだ」

「わかりません」


ふざけているわけではない。本当にわからなかったのだ。

正直、あの変わり者リシャルドに仕えてみたい気持ちはある。影の役目も、できるのならこなしてみたい。

だが、やってみたい、という欲望が強ければ強いほど、自分にとって都合のいい道を選んでいいのかとユリウスは思うのだ。


——何にも出来なかったのに。


ユリウスにとって、アレキサンデルとヤツェクは立場を越えた友だった。ナタリアのことも本気で聖女だと思っていた。

つまり、まったく何もわかっていなかった。

見る目のない自分に、そんな大きな役目がこなせるのか。


黙り込んだユリウスに、意外にもフレデリックは静かに言った。


「まあいい。ゆっくり考えろ」


顔を上げると苦々しい視線を向けられた。


「リシャルド様からも時間をかけていいと言われている」

「ありがとうございます」


その言葉はリシャルドに向けたものだったが、フレデリックは疲れたように息を吐いた。


「それでは私は宮廷に戻る」

「こんな夜中にですか?」

「目が離せない奴らが多すぎてな」


ユリウスは慇懃に頭を下げた。


「お気をつけて」


責任を取ってその地位を退こうとしていたフレデリックだったが、ルストロ宰相に引き止められた。

腕に自信がある不満分子たちをあちこちに散らばすよりは手元に置いて管理する方が得策だと宰相は考えたのだ。だが、その分フレデリックの心労は増える。ユリウスに構ってられないのが本当のところかもしれない。





そういうわけでしばらく屋敷で過ごすことになったユリウスだが、催促をされない状態というのは、逆に落ち着かない。

ひとりで鍛練などしていたが、それも飽きて、港に行くことにした。

今の自分の話を聞いてくれるのは、ユゼフしかいないと思ったのだ。


だが。




「なんだ、ユーレか。ギルド長なら今日は休みだぞ」 


事務所に入るなり、ユゼフの部下のアントニにそう言われた。


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