【番外編】エルヴィラの贈り物ー2
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わかったようなわからないような、でも大事なことを聞けた気がしたわたくしは、休憩も兼ねて、宮殿の庭園を少し歩くことにしました。
出ていく前に、クラッセン伯爵夫人はわたくしに上着を厳重に着せます。
「わたくし、子供じゃありませんよ?」
「大人でも風邪を引きます」
十歳しか変わらないのに、クラッセン伯爵夫人はときどきわたくしを小さな子のように扱います。もちろん……嫌ではありませんけど。
「考え事をしたいので、離れて見守っていただけますか?」
「かしこまりました」
警備の騎士たちにそう言い、わたくしは庭園を散策しました。ここなら背の高い木々が風除けになり、そんなに吹きさらされることはありません。
——あ、ここ。
わたくしはふと足を止めました。
——春になると薔薇がたくさん咲くところよね。
今は何も咲いていない一角ですが、ルードルフ様と初めてお会いしたときも薔薇の咲く庭園だったことを思い出してしばらくそこに佇みます。
——あの頃はまさかルードルフ様と結婚するとは思ってもいなかったけれど。
懐かしさと今の幸せで胸がいっぱいになったわたくしは、春になって薔薇が満開になったときのことを想像しました。
——以前もお渡しして喜んでいただけた、
なかなか悪くない思い付きです。さらに考えを巡らせます。
——ほかに薔薇から連想できるものはないかしら? 香水はもう定番になっているし。
と、聞き覚えのある声がしました。
「エルヴィラ様?」
振り向くと、タンポポのような明るい金髪と勝ち気に輝く青い瞳が美しい女性が立っていました。わたくしは驚いて駆け寄ります。
「シャルロッテ様?! まあ、珍しいところでお会いしましたね」
「わたくしも驚きましたわ、エルヴィラ様。こちらでは初めですね」
そこにいらっしゃったのは、フリッツ様の奥様、シャルロッテ様でした。何度か夜会やお茶会でお会いして交流させていただいており、わたくしにとって数少ない、この国での友人の一人です。
シャルロッテ様はふんわりと微笑みました。
「夫婦で訪問しなくてはいけない用事がありますのに、フリッツの会議が長引いてまして、待っている間の気分転換にここに来てみたんです」
「まあ、そうでしたの」
わたくしは、ふと思い付いて言いました。
「よろしければ、ご一緒に少し歩きません?」
「もちろんですわ!」
シャルロッテ様は愛らしい笑みで応じてくださいます。さすが、フリッツ様が偶然街で見かけて一目惚れしただけのことはありますね。
——そういえば、シャルロッテ様はフリッツ様になにか贈り物をするのでしょうか?
「シャルロッテ様とフリッツ様はご結婚されてもうどれくらいですか?」
「7年ですわ」
わたくしは思い切ってシャルロッテ様にもご助言いただこうと、一部始終を説明しました。
「なるほど。贈り物ですか」
シャルロッテ様は愛らしい大きな瞳を輝かせて、わたくしの話を聞いてくださいました。
「シャルロッテ様はフリッツ様にどのような贈り物をされているのですか?」
シャルロッテ様は少し考え込みましたが、すぐに答えました。
「覚えてません」
「そうなんですか?」
「隠してる訳じゃなく、本当に覚えてないんです。私、多分、贈るだけで満足してしまうんでしょうね」
「そういうものですか……」
「でも、もらったのは覚えていますわ。フリッツが最初にくれたのは小さな赤い石のついた指輪で、それは今でも大事にとってあります。あ、でもフリッツには内緒にしてくださいね」
「どうしてですか?」
「恥ずかしいから」
そう言って笑うシャルロッテ様は、その日一番の愛らしさで、わたくしは見惚れてしまいました。
「そうだわ、エルヴィラ様」
シャルロッテ様は突然呟きます。
「いいこと思いつきました。こういうのはどうですか?」
「なんですか?」
青い瞳が輝きました。
「エルヴィラ様の肖像画を、ルードルフ様の執務室に飾るんです」
「え?」
「いい画家を知っていますの。人気なので予約はいっぱいですが、エルヴィラ様がモデルなら絶対に描きたいと言うはずですから」
「待ってください。わたくしを、執務室に?」
「ええ! 絶対にルードルフ様は喜びますわ」
「それはちょっと……」
そこまで言って、わたくしも思いつきました。そうだわ、これなら。
「シャルロッテ様、その画家の方、ぜひ紹介してくださいません?」
「もちろんですわ!その気になってくださったのね!」
「そうではないのですが——」
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