【番外編】ローゼマリーの恋3ー二人だけのお茶会

その日の夜。


わたくしはカモミールのお茶を淹れながら、ルードルフ様に、一連の報告をしました。柔らかい香りが、寝室に広がります。就寝前に、このお茶を並んで飲むことが、最近の習慣でした。


「そこでどうして刺繍の準備をさせるのかわからないんだが」


わたくしの話を聞いたルードルフ様は、カップを手に不思議そうに首を傾げます。


「孤児院のバザーに出す刺繍を、ローゼマリーに担当してもらおうと思いましたの。今より外に出る用事が少なくなりますわ」

「疑われるようなことをしないように?」

「はい」

「そんなまどろっこしいことしなくても、直接ローゼマリーとエリックに話を聞けばいいじゃないか」

「もちろん、そうするつもりですが、ローゼマリーにもなにか事情があるかもしれないでしょう?」


わたくしは湯気の向こうのルードルフ様の顔を見つめました。


「わたくしにはこれがローゼマリーとエリック様だけのことではないように思えるのです」

「というと?」

「エルマに話を聞いた後、すぐにハンスに会いに行ったのですが、急用ができたとかで、代わりの者が馬の世話をしておりました」

「ふむ」

「なんだかそれが逃げたように思えて。考えすぎかもしれませんが、タイミングがよすぎました」

「それは確かにそうだな」


わたくしはため息をつきました。ただ、ローゼマリーが最近、姿を消すことが多かったのも事実です。


「明日にでも刺繍をしながら、ローゼマリーと話をしようと思っています」


刺繍、と思うと一瞬、気持ちが落ち込みましたが、すぐに持ち直しました。

ルードルフ様も頷きます。


「ハンスがどこの屋敷から紹介されたのか、フリッツなら知っているな。明日にでも聞いてみるよ」


ルードルフ様はそう仰いましたが、ルードルフ様もお忙しい身です。


「あの、ルードルフ様」

「なんだ?」

「この件、わたくしに任せてくださいませんか」


ルードルフ様は一瞬、動きを止めしたが、すぐにカップを置いて頷いてくださいました。


「わかった、頼む」


信頼してくださっている、とわたくしは嬉しくなりました。


「ありがとうございます!」


と、ルードルフ様の動きが止まりました。わわたくしはハッとして、頬に手を当てました。


「申し訳ありません……わたくしったら、子供みたいにはしゃいで……ルードルフ様?」


ガチャン、とテーブルに置いたカップが揺れました。ルードルフ様がわたくしをご自分の方に突然引き寄せたのです。


「ルードルフ様……これではカップが持てませんわ」

「いいさ」


ルードルフ様の声が、いつもより近くで響きます。


「おかしいかな? 嬉しいんだ」

「何が……ですか?」

「エルヴィラが笑ってここにいることが。毎日嬉しい」

「……おります」

「うん、知ってる。知ってるけど、たまに確かめたくなる」

「あのときはご心配をおかけして──」

「そうじゃない。責めてない」


ルードルフ様は小さく呟きました。


「たまに、目の前のエルヴィラは完璧で、可愛すぎて、いてもたってもいられなくなる」

「そうなの、ですか?」


わたくしは全然完璧などではないのですが、それ以上なんと言っていいのかわかりません。


「うん、だからこうやって閉じ込めたくなる」


ルードルフ様は、わたくしを包み込むように抱きしめました。

カップからは、まだ温かい湯気が立ち上っています。

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