王妃になる予定でしたが、偽聖女の汚名を着せられたので逃亡したら、皇太子に溺愛されました。そちらもどうぞお幸せに。

糸加

1、偽聖女の汚名を着せられた上に婚約破棄されました

「エルヴィラ・ヴォダ・ルストロ。お前を聖女と認めるわけにはいかない! お前が育てていた『乙女の百合』は偽物だった! この偽聖女め!」


この国の若き王である、アレキサンデル様が、わたくしにそう告げました。

皆が驚きの声をあげました。


「エルヴィラ様が聖女でなかった?」

「何かの間違いでは?」


それもそのはず。

本来なら、この「聖女の儀」は、わたくしが正統な聖女だと認定されるもの。

それが、一転して、「偽聖女」呼ばわりなのですから。


アレキサンデル様は、さらに声を張りました。


「伝説の『乙女の百合』、それを育て、咲かせることができるのは、エルヴィラだけだった。私を含めて、みんなそう思っていた。しかし、それこそが、エルヴィラの計略だったのだ! 『乙女の百合』は偽物だった! 珍しいだけの、ただの白い百合だったのだ!」

「そんなわけない!」


割って入ったのは、わたくしのお父様です。

アレキサンデル様は、ニヤニヤと笑って言いました。


「ルストロ公爵、今の態度は、娘可愛さのあまりだと思って、不問にしよう。だが、どう異議を申し立てても、事実は覆らない。なあ? 大神官殿」


大神官様が、スッと出てきて、言いました。


「その通り。エルヴィラ様は、聖女ではありませんでした」

「では、問おう。誰が本当の聖女なのだ?」


大神官様は、とある女性の名前を呼びました。


「ナタリア・ツィトリナ・ズウォト! こちらへ」

「はあい、ナタリア、ここにおりますぅ」


群衆の中から現れたナタリア様が、わたくしの隣に並びます。


仮面舞踏会にでも出席するような、黒のレースを使った、露出の多いドレスは、この場に似つかわしくないと思うのですが、わたくしが口を出すことではありませんわね。


大神官様は、高らかに告げます。


「おめでとう、ナタリア。あなたが聖女です!」

「馬鹿な!」


お父様の叫び声に、わたくしの胸は痛みます。

申し訳ありません、お父様。

大神官様は、続けます。


「ナタリア、あなたが育てた百合が『乙女の百合』でした。よってこの国の聖女は……ナタリアです!」


「ナタリア?」

「ナタリアって、あの男爵令嬢の?」

「ってことは、どうなるんだ?」


周囲のざわめきは最高潮です。

飛び出そうとしたお父様を、お母様が抑えます。

アレキサンデル様は言いました。


「聖女ではないということは、私とエルヴィラとの婚約も白紙に戻すことになる」


そこで、初めてわたくしは、口を開きました。


「——承知しました」

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