神の花嫁は悪魔の奴隷
渡瀬 富文
1話
その娘は、神の嫁になるよう育てられた。
世間から隔絶された部屋で、俗世の楽しみも苦しみも何ひとつ知らずに成長した。
娘に関わる人間は、母親代わりのシスターだけ。そのシスター以外の人間を、彼女は知らない。
娘には、名前すら与えられていなかった。シスターも、名乗りはしなかった。
そういう決まりなのだ。
娘に許されている行動は、あまりにも少ない。
けれど彼女自身は、全く不自由を感じてはいなかった。それが、当たり前だったからだ。
部屋からは出られないけれど、部屋の中でなら、何をしても、何もしなくても、彼女の自由だ。
彼女が特に好きだったのは、シスターが聞かせてくれる“世間話”だ。シスターは、時々、外の世界を少しだけ教えてくれた。
その話は、どれもみな、幸せに満ちていた。時に困難があっても、神を信じていれば、必ず救いが訪れる。
キラキラと美しい“世間話”に憧れた彼女は、神への祈りを欠かさなかった。
シスターが、言っていたからだ。神を信じ続けた女の子は、幸福な花嫁になれるのだと。
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