01)「五等級は【水の絶望迷宮】に行こう!」

【五等級冒険者必見の創刊号大特集】

 さめざめと降る霧雨に季節の変わり目を感じていると、バケツの底が空いたような土砂降りに見舞われて、なにか恨み言でも言いたくなる季節。

 そう、雨季がやってまいりました!


 天神ラウグリア様の気まぐれで空が様々な表情を見せるこの時期、アルエス王国は雨量の多さはもちろん、湿度も高くて憂鬱な気分になりますよね?

 ですが、そんな嫌な季節を快適にしてくれる迷宮があります。


 その名前は「水の絶望迷宮」


 春から冒険者になったばかりの五等級の皆さんにとっては、きっとそこが初めての迷宮になることでしょう。


 危険な迷宮と言っても必要以上に恐れることはありません。むしろこの季節にこの迷宮に挑めることは実に幸福だと言えるでしょう。




【水の絶望は遠くない!】

 迷宮の場所はアルエス王国の王都マンディラから南西のヴァキラ市へと伸びる「華の街道」の途中にあります。


 春先はピリングの花が舞う風光明媚な街道ですが、この季節は泥濘ぬかるんで、馬車の轍が地面を抉ってしまい徒歩で行くなら木靴が泥まみれになるでしょう。


 ※ヴァキラ市までは雨季でも一日三回、駅馬車が往復しています。乗り賃十~十五銅貨を支払えば快適且つスピーディーな移動も可能です。


 華の街道を馬車に揺られること約三時間。左手にクシカル湖が見えてきます。夏は王侯貴族の方々が避暑地として利用している別荘が立ち並んでいますが、この季節に利用されている御仁は稀です。

(だからといって不用意に近づくと別荘地を守る番兵たちが問答無用で攻撃してくるので、初心者さんは注意してください)


 そのクシカル湖の湖畔には、貴族様の別荘とは異なる風貌の、真っ白な建物があります。それは何千年前の物ともわからない遺跡で、王都の学者様たちの調べによると旧世界から存在するものだとか。


 その地下に広がっている迷宮が「水の絶望迷宮」です。




【水の絶望は怖くない!】

 迷宮の名前は恐ろしげですがご安心ください。ここは冒険者ギルドが五等級から四等級の冒険者に探索を推奨している比較的安全な迷宮で、初心者に何度となく攻略されている「試練の場」とも言える迷宮なのです。


 この「水の絶望迷宮」はクシカル湖の湖底へと続く地下探索型迷宮です。

 しかし迷宮内は水没することがないばかりか、我々の知らない古代のがかけられていて、湿気もなくカラッとしています。

 むしろこの季節はとても涼しく快適に冒険ができる名所と言ってもいいでしょう。


 その証拠に迷宮の入り口ロビーはジメジメから開放されたい冒険者たちでいつもごった返しています。


「水の絶望迷宮」の第一階層入り口に出てくるモンスターは、バブリースライムや小規模なゴブリン集団くらいのものです。

 冒険者ではない商人でも安全に倒せるモンスターばかりですし、そもそも迷宮の入り口は人が多くて、モンスターもわざわざ近寄ってきません。


 もちろん入りロビーから数ブロック先に進むと、先述したモンスター以外にも初心者を狙う手練の追い剥ぎや、迷宮の魔素を浴びてアンデッド化したゴブリンの死骸、足元から這い上がってきて冒険者の肉を啄む複数のクログロムシなどに遭遇することもあるので油断は禁物です。


 ですが、そんな迷宮の怖さなど何処吹く風。

 入り口はあちこちで篝火が焚かれ、大小様々なランタンを持った押し売り……いえ、露天商たちがあなたを明るく出迎えてくれます。

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