第16話:超絶美少女、マグダラのマリア登場!
「しかしなんだよ? 黙示録の獣って」
俺はサタンに訊いた。
コツコツと、階段を上がるふたりの足音が響く中で。
7つの首に10本の角のある獣つーけど、数が揃ってないのがなんとも雑な感じだ。
手抜きか?
「とにかく、強い魔物と思ってくれればいいですよ。未完成で、まだ私の言うこときいてくれなくて…… そんで逃げ出しちゃって。神(オヤジ)にばれるとヤバいんですよ」
「ふーん。そうかぁ~」
「噛みつくんですよ。7つの口で、だから痛いし。でもって、角で突くし…… 火も吐くんですよ。ボォォォって」
「そんな、あぶねェもん、野放しにすなよ。このボケが!」
俺がローキックを入れた。頭きたから。
「ああ! 蹴らないで! 蹴らないで下さいよ」
泣き言をいうサタン。
本来であれば、自分の失態なのであるから放置しておくべきだろう。
しかし、こっちの目的もマグダラのマリアの悪霊を祓うということなのである。
よって、放置もできないという状況だ。悪霊じゃなくて、獣かよ……
しかし、悪霊よりも強そうな感じがしないでもない。どうなんだ?
『黙示録の獣』つー名前自体が、なんかラスボス感をかもしだしているような気がする。
「なんか、弱点ないの? そいつ」
「う~ん…… 頭が7つあるので落ちつきが無いって感じですかね。あと忘れ物が多いとか」
「バカなのか?」
「まあ、所詮は獣ですからねぇ」
俺の言った「バカなのか?」はサタンに対しての言葉なのだ。オマエはバカなのか? と言いたいのだ。
「弱点は?」という質問に対し「落ち着きがないとか、忘れ物が多い」とか回答する奴がいるのか?
コイツは、根本的に頭が悪いと思ったのだ。学のない俺でも分かる。
サタンは、自分がバカと言われたことに理解できずに「黙示録の獣」のことと思っとるのである。
だから、主にこき使われ、ウダツがあがらぬのだ。
コイツと話しても時間の無駄である。やはり、サタンの言葉に耳を貸してはいかんなぁと思った。
途中、壁に大きな穴があいていた。
ああ、エジプトの魔術師が吹っ飛ばされた穴だなぁと思った。
これをやったのが、黙示録の獣なのか。
確か火を噴くと言ったな。
「なあ、サタン」
「なんです、イエスさん」
「黙示録の獣は火を噴くんだよな」
「吐きます。硫黄の混じった火を吐きますよ。熱いです。すゲェ熱いです」
「火かぁ……」
俺は、自分の持っている奇蹟のチートスキルについて考えた。
・食べ物を無限に増やす(食べると止まる)
・水上歩行
・治癒能力
・悪霊祓い
・死人を生き返らす
最後のはまだ試していないが、主にもらった奇蹟の力はこの5こになる。
主は仕事が雑な部分があるので、もしかしたら他にもあるのかもしれない。
果たして「悪霊祓い」が「黙示録の獣」に通じるのかどうか? どうなんだ?
冷静に考えると、心もとない気がしてきた。
火を噴かれたら、かわすしかないわけだ。
奇蹟の力でなんとかできるものがない。
治癒能力は自分に使えるのか…… ああ、それも試したことねーな。
主に通信しようかと思った。でも、サタンと一緒に歩いているので止めた。
サタンは旧約聖書によれば、神への信仰をチェックする役割の者だ。
その点で、神とズブズブの関係といっていいだろう。
しかしだ――
俺がサタンと馴れ合っていいかどうかは分からんのだ。
御信心の心が足らぬと判断されかねない。全然関係ないと思うけど。
とにかく、人の考えるような論理性を神に期待してはいけない。
自分ルールと他人ルールは決定的に違う。それが神。
俺はそう思っている。
「着きましたね。この部屋にいますよ」
俺の思考をサタンの声が遮る。
気がつくと、塔の天辺だ。この部屋にマグダラのマリアがいるのだろう。
でもって、それに憑りついた「黙示録の獣」も一緒に。
ドアを開けて入る。
まあ、なんとかなんだろうと思う。
所詮は、このマヌケのサタンの下僕のような獣だ。
「マリアちゃーん。助けに来たんだけどぉぉ。どこぉぉ」
俺は言ったが、反応はない。
シーンとしている。
部屋の中は、薄暗い。
窓はあるのだが、布で塞がれているようだった。
なんか、剣呑な空気が充満している気がする…… 確かに、危険な感じ。
「おい、サタン、なんでオマエは俺の後ろに隠れてんだよ!」
「だって、怖いじゃないですか。薄暗いし……」
「あんま、くっつくなよ! なんか、オマエ生臭いよ……」
「えーー!!」
俺は、サタンが俺の背中にしがみ付こうとするのを振り払う。
ん?
唐突に部屋の中に、存在の気というか、気配というか、そんな様なもんを感じた。
薄闇の中に溶けこむような姿が徐々に明瞭になる。
「何者だ? お前たちは? また魔術師などの輩(やから)か?」
不意に聞こえた声。
透明感のある声。聞いた瞬間頭が真っ白になるような感じの声だ。
まだはっきり見えないその姿。その声の主。それは絶対に美しいと確信がもてる。
「懲りぬな……」
ポツリと声が続いた。
透明な声の中に、わずかに揶揄の色が混ざる。
それが、またなんというか艶っぽかった。
「マリア…… マグダラのマリア?」
俺がそう言うと、相手が薄闇の中で笑みを浮かべたような気がした。
そして、前に出てきた。
「あ…… マジ? すげぇ……」
それしか言葉が出ない俺。なんというか、べらぼうな美貌じゃねーか。
ええ!? って感じだよ。
俺の考えていた美少女というか、美女の想定をはるかに超えている。
マジで、見たことねーよ。
大工時代から、都会で上流階級の女も見たことはある。
最近も、見るだけなら見ているのだ。
俺が「あ、すげぇ、いい女だなぁ~」って思ってた女がカスに見えるよ。マジで。
端的に言って、あり得ないレベルの超美少女。
「私を連れ出そうというのか? お前たちも――」
豊かな金髪が波打ち、ふわりと揺れる。まるで純金で出来ているような感じだ。
薄っすらと透明な光を放っているかのような白い肌。
細い腰にスッと伸びた腕と脚。
しかも、ゆったりとした服を着ているのに、分かる。分かるのだ。
すごくおっぱいが大きいのだ。脳内で姦淫しちゃいそうなくらい大きい。
やべぇ、歩く戒律ブレイカーだ……。野放しにしていたら危険なレベルで美しすぎる。
「私を連れだすのか?」
彼女はもう一度言った。
「あ…… ああ、あの…… まあ、ボク的には、そんな感じにしようかなぁって思いますけど…‥ ダメっすか?」
いきなり一人称が「ボク」なってしまった。俺的には久しくなかったことだ。
なに、この現実感も生活感もごっそり抜けおちた美少女。
「美」という概念を結晶化してそのまま人にしたような感じ。
「あのぉ…… 『黙示録の獣』を返していただければ、私としては業務終了ということで――」
サタンが空気を読まず言った。
つーか、部屋の中にはそんな頭が7つ、角が10本などという畸形じみたバケモノはいないのだ。
マリアはそんなサタンを無視して、俺をジッと見た。
瞳の色が碧い。吸いこまれそうな色だ。
髪の毛と同じ金色のまつ毛が長く瞳に影を作る。
その双眸がすっと細められた。
それは、美しくゾッとするような笑みだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます