第8話:年齢不詳

「ダンジョン街のことだよ。冒険者がダンジョンに潜って素材を取ってきて、街で金に変える。街の住人は、冒険者を相手に商売をしたり、素材で交易をしたり。そうやって成り立つ街だ」


 ダンジョン。RPGっぽいのがまた来た。順応して来た僕は、胸を躍らせる。ここが異世界で、RPGの世界だというのを、受け入れつつあった。


 バーチャルだ、オンラインだ、というのはまだ実感がわかなかった。魂は別にあり、この世界の肉体にアクセスしているとのことだが、それらが目に見えるわけでもない。エリルと接する限り、この世界を現実として生きているようだし、とてもこの世界を仮想だとは呼べない。


 少なくとも、この世界にいる間は、ここが現実だった。


 エリルを先頭にして、二人は街へ向かって歩き出した。二人は街からそう遠くないところにいるとのことだった。


「ダンジョンってのは、いくつもあるんですか?」

 歩きながらエリルにたずねる。


「そりゃあ、世界のあちこちにあるさ。ダンジョンがあるところには、テトラもある。ダンジョンとテトラは、切っても切り離せない関係だな。魔界にもダンジョンはあると聞くが、私は見たことはないな」


「魔界もあるんですか!?」


 魔物に、ダンジョンに、魔界。情報量が多すぎる。こんな世界を本当に管理できるのか。そもそも管理って結局なんなんだろう。


 二人が話をしている間にも、時折、魔物が現れた。僕の知るものより少し大きいが、コウモリやオオカミの類のような魔物ばかりで、脅威になりそうなものはいなかった。


 とはいえ、キノコにすら殺されかけた僕には、それらを倒すことはできないので、魔物の相手をするのはエリルだけだった。


 エリルは武器も使わず、魔物をすべて殴り殺していた。


 時折、魔物が消えた後に牙のようなものが残り、エリルは腰に下げた小さな袋にそれを収容していた。その体積以上に、どんどん物が入っているように見えたが、もう細かいことを気にするのに疲れた僕は、袋についてはなにも聞かずにいた。


「エリルさんの職業は格闘家かなにかですか?」


「格闘家ではない。ただ、こんな敵に、武器も魔法も必要ないだけだ」


「違うなら、どんな職業なんですか?」


「お前には教えん」

 人のステータスをのぞいておきながら、エリルは自分のことは秘密にしようとする。


「えー、じゃあ、レベルはいくつですか? あと、いま年齢はおいくつなんですか?」

 エリルのレベルと年齢がわかれば、この世界でレベル上げにかかるおおよその時間がつかめるかもしれない。


「どちらも秘密だ。エルフに歳をきくなんて、やっぱりお前は失礼なやつだな」


「すみませんっ」

 鋭くにらまれ、反射的に謝った。なんか謝りグセがついてきた気がする。


 エリルは、外見は二十を過ぎたばかりくらいに見えるが、実際はもっと長く生きているのだろうか。エルフの寿命や老い方がどういうものなのか、分からなかった。


 そんな話をしながら進み続けるうちに、遠くに街が見えてきた。僕たちのいる高地からちょうど見下ろせるような位置にあり、全体を見渡すことができた。


 石造りの高い壁に囲われていて、城塞都市のように見えた。想像していたよりも大きな街で、数万人が暮らしていそうだ。地面は石畳で、赤い屋根の一軒家が多く建ち並んでいる。協会やギルドかなにかだろう。街の中に、いくつか、大きな建物も点在していた。


「大きいですね……」


「テトラ・リルは、ダンジョン街としては標準的な大きさだ」


「これだけの街が成り立つってことは、ダンジョンも大きいんでしょうね」


「まあな。多くの冒険者たちが、数十年挑み続けて、まだ攻略しきれていないからな」


「その割には、ダンジョンは見当たりませんね」


「リルのダンジョンは地下ダンジョンだからなぁ」


「そうなんですか?」


「ああ、深く深く、ずっと地下に続いているよ。他の街には、塔のダンジョンもあるよ。水中ダンジョン、なんてのもある」

 エリルは説明を続ける。聞いていて、気が遠くなってきた。一つのダンジョンでも手に余りそうなのに、それがいくつもあるという。


 管理人として、自分はなにをすればいいのだろう。普通に一つの街で冒険者として暮らせばいいのか、世界中のことをもっと知らなければいけないのか。


 そういえば、ここがゲームのような世界ということは、なにかクリア条件のようなものがあるのではないだろうか。

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