ここまでご視聴いただき、ありがとうございました。

質問その１『子供の頃の夢は？』

その日、ある男が自室で動画の収録を行っていた。

「以上！　『タカちゃんねる』でした！　さて今日も視聴者の質問に答えちゃうよ〜！　ハイッ、ではコチラ！　“アステカライダー２（セカンド）”さん！　

なっつ！　子供の頃流行ったよね、アステカライダー。

それの二号機ってこと？　すんげぇ名前だな、オイ。」

男は手元のスマホを開き、自身のSNSのコメントを読みすすめる。

「で、質問は、何なに〜？

『タカちゃんこんにちは！　いつも楽しく見てます！　タカちゃんの子供の頃の夢はなんですか？　また、もしWhoTuberをやっていなかったら何をしていましたか？』

ということでっす！　ん〜。俺ね、小学校のときの夢ね、独裁者ｗｗ！　たしか学校の卒業文集でもそう書いたわｗｗ。

俺、小学校の時すでにチョー人気者だったから！　

みんな俺の前にひれ伏してた記憶あるわｗｗ。

これを見ているキッズのみんなも、独裁者目指してみてね☆　

それでは、ここまでご視聴いただきありがとうございました！　またねッ！」

カメラの電源をオフにし、ひと伸び。

撮影用の照明を消し、別の部屋へ移動する。

男の名前は高瀬亘（たかせ・わたる）２３歳。

動画投稿サイトWhoTube（フー・チューブ）上で『タカちゃんねる』の名前で活動する、WhoTuber（フー・チューバー）だ。

今年に入ってチャンネルの登録者は６０万人を超え、今、波に乗っているWhoTuber。　

これまで高瀬は人生において負けたことがない。

父親は大企業の代表取締役会長、母親も名家のお嬢様、子供のころから頭脳明晰、そして整った容姿。

大学の夏休みになんとなく始めた動画投稿がまさかのヒットをし、今では街で声をかけられるほどの有名人に。

そう、生まれながらの勝ち組である。

彼は新製品のレビューや流行り物の企画など、よくある動画を配信するが、その見た目ゆえ、若い女性のファンが多い。

そして、毎回動画の最後に視聴者から寄せられる質問に答えていた。

その質問は彼のSNSで募集されている。

「さてさて、今日も動画の編集をしますかね〜。あ、その前に次回の質問を先に決めちゃうか〜。え〜っと？　リプ欄、リプ欄っと……。ん？何だこいつ？」