第93話 運用体制を決めるべし

レインが質問する。


「仕組みの維持?

 兵器が壊れたら直すとか、ですか?」


「そうですね。

 それも一つです。

 ただ、もっと基本的な、いつ兵器を使う?とか、どう兵器を使う?とか、どう討伐隊を結成する?ということも含みます」


ランペルツォンが不思議そうな顔で聞く。


「兵器をいつ使うって、ゾームが襲ってきたときだろう?

 そんなこと、改めて言われなくても、プロジェクトに参加した人員なら理解していると思うが」


「ええ、その通りです。

 プロジェクトが解散したとしてゾーム討伐が王国兵士団が行うことになったとしても、ランペルツォンさんや討伐隊の兵士の方がどう運用すればよいかは知っています。

 ですが、それは永遠ではありません。

 人間、記憶は薄れます。

 また、ランペルツォンさんや兵士の方が異動したり、なんらかの事情で兵団をはなれることになればどうでしょうか?」


「兵器や討伐隊の運用方法を知っている者はいなくなる…。

 兵団では命を落とすことは珍しくない。

 私が知っているからと言って、未来永劫ゾーム討伐ができるというわけではないということか。


 確かに、兵団で個別に作った兵器のうち、使い方が分からなくなっているものが倉庫にあるな…。

 もはや誰も使い方を知らないもの…」


「そうです。

 作り上げた兵器は残ったとしても、使い方を知る人間がいなくなれば使えないものになるのです。

 討伐隊という仕組みは残ったとしても、有事に結成できる知識をもった人間がいなくなれば、結成はできません。

 誰もが使える状態にするために、運用として兵器の利用方法のマニュアルや、討伐隊を結成する手順や手続きなどを明文化しておく必要があるのです。

 そうでなければ、せっかくプロジェクト目的を達成したとしても、時間がたつにつれて以前の状態に戻ってしまいます」


「兵器があって、討伐隊をつくればよいと分かっていても、うまく兵器も討伐隊も使えない、ということになる。

 そして、ゾームを討伐するためにまた苦心することになると…」


ランペルツォンが真剣な顔で、そう言った。


レインが質問する。


「プロジェクト解散後も、ギルドがずっとゾーム討伐し続ける、という方法はないんですか?

 プロジェクトでうまく討伐できたなら、そのままそのチームで続けたほうがいいですよね…?」


「プロジェクトは新しい仕組みを作るためのチームです。

 作られた仕組みを維持するためのチームとは、必要なスキルもコストも違います。

 よって、プロジェクトチームがそのまま運用もする、ということはあまりありません。

 とは言え、レインさんのおっしゃるような体制もないわけではありません。


 運用体制は主に2種類です。

 一つは、プロジェクト解散後、プロジェクトオーナーの手に戻り、プロジェクトオーナー側で運用するパターン。

 もう一つは、プロジェクトチームを運用に最適化して運用チームとし、運用するパターン。


 今回前者を選んでいる理由は、後者がギルドに引き続きお金を払い続けて体制を維持する、というコストが王国側に発生するためです」


ランペルツォンがうなずいた。


「ああ。

 王国で引き取れるものは引き取って使いたい。

 経理のリーガルも許してくれないだろうからな」


ランペルツォンがヒロに向き直って言葉を続ける。


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