第83話 追加要件

ヒロはギルドの宿直室に住まわせてもらっている。

二度目の満月を終え、宿直室でプロジェクトを振り返りつつ、これからのことを考えていた。


今回の負傷者は2名。

プロジェクトの達成条件である、犠牲書・重傷者を3名以下に抑える、という観点から見れば、この戦いの成果は上々である。

あと2度の満月で、同じように3名以下に抑えることができれば、プロジェクトとしては完了となる。


順調と言える。


だが、兵器のテストフェーズと捉えると、課題がある。


鎧を身に付けたゾームの存在だ。

ゾームは知能がないモンスターだと思っていた。

だが、エルザスというボスがいることが分かった。

エルザスの指示に従って、ゾームたちは動いているように見えた。


となれば、全てのゾームが鎧のようなものを身に付けて挑んでくるかもしれない。

そうなれば、兵器では歯が立たない。


今回ヒロは鎧を腐食させる魔法を使い、兵器で対応できるようにした。

そんな、なにがしかの対策を盛り込まなければ、安定してゾームは倒せないということだ。


これは、プロジェクトでいえば追加要件である。


プロジェクトとは、未知への挑戦だ。

未知なものを少しでも先読みして堅実に進めるために、目的を決め、達成条件を決め、プロジェクトが担う範囲を決める。


だが、未知のものであるがゆえに、プロジェクト目的を達成するために追加で仕事が増えることがある。

これが、追加要件である。


元々の要件定義では、ゾームは鎧をつけていなかった。

だから、矛をさして雷撃を流すという要件の兵器で実現すればよかった。

だが、追加の要件として、ゾームの鎧をどうにかする、という要件がでたきたのだ。


追加要件が出てきたときに、プロジェクトマネジメントとしてすぐにすべきことがある。

それは、コストとスケジュールの見直しである。


新しいことをするのだから、期間もコストも、これまでよりも増える可能性が高い。

それを、プロジェクトオーナーに合意をとらなければならない。

でなければ、今までの費用とスケジュールで無理な要件を実現することとなり、品質が確保できなくなる恐れがある。


「プロジェクトマネジメントの極意、スコープ管理…再び」


ため息混じりにヒロはつぶやいた。


要件が変われば、スコープが変わる。

スコープが変われば、費用やスケジュールも変わる。

プロジェクトのスコープを予め定義し、スコープが変わる際に影響を確かめる。

ジューマンにスコープを増やされそうになった時同様、スコープ管理せねばならない。


ヒロは追加要件によって発生するタスクを書き出し、コストとスケジュールに変更が必要ではないかを考えることにした。


単純に、ゾームの鎧を取り除くための要件定義の時間が増える。

そして、要件実現のための設計、兵器に追加で変更が必要なら、そのコストも時間も増える。


だが、難点なのは次の満月の期間は伸びないことだ。

ヒロは、期間を延ばさずに、費用をさらに当ててもらい、魔道具を修正する技術者を増やすことで、スケジュールに間に合わせることをグレンダールに相談することにした。

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