第82話 最強の魔法

糸を受けつつ、メグは言い放つ。


「私の…最強の魔法!

 これで死ね!」


白く光る雷を帯びた剣のようなものが数本、エルザスの頭上に現れた。

すぐさま、エルザスへ剣がまっすぐに降り注ぐ。

エルザスを覆うバリアが反応したが、3本目の剣が当たった瞬間、あっさりと砕けた。


蜘蛛の背中部分にぐさりと刺さる。



「ぐあぁ!」


エルザスが声を上げだ。


光の剣は、次々に現れる。

5本、10本現れては次々に降り注ぐ。

青白く光る雨のように、エルザスを覆いつくした。


百を超える光の雨がやんだ時には、エルザスは見えなくなっていた。


「倒した…?」


ヒロは見に行きたいが、糸が絡まって動けない。


「ジュドーさん、エルザスは!?」


ヒロは転がりながらジュドーに問いかけた。


「たぶん…逃げられた。

 メグの魔法に撃たれながら、魔道具を使っているのが見えた。

 魔道具を使ったとたん、エルザスが姿を消した。

 透明になったのか…」


ヒロがあたりを見渡すと、エルザスの緑色の血痕があった。

血痕は王都シュテールから遠ざかる方向に続いていたが、途中で消えていた。


「透明になって、逃げた…ということか」


ヒロはそうひとりごちた。

すでにあたりは真っ暗だ。

調査スキルをもつ者がいない討伐隊には、逃げたゾームを探すことは、難しい。


メグの方を見ると、メグは体に絡まった糸をジュドーに再び切ってもらっていた。


「悔しい…

 逃げられたなんて…」


糸から開放されたメグは下を向き、涙を流した。

ジュドーがメグの方に手を当てながら、慰める。


「だが、かなりの深手を負ったはずだ。

 メグの魔法は、確実に奴に当たっていたからな。

 メグのおかげで、あいつを退散させることができたんだ」


それでも、メグは顔を上げなかった。

5年間追ってきた仇を逃したのだ。

ヒロはメグの気持ちを察した。


同時に、プロジェクトにおける課題も見えた。

鎧のゾーム。

これは、兵器では倒せない。


「これは、追加要件だなぁ…」


体に絡まった糸を切ってもらうのを待ちながら、戦いが終わった安堵感の傍ら、追加要件に頭を悩ませた。

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