第40話 幽霊の仕業
パーティーは王都シュテールに戻った。
ヒロは今、要件定義書の作成に取り掛かっている。
ゾームを倒した後、パーティはそのまま湿地帯を抜け、見晴らしの良い岩陰でキャンプを張った。
ヒロは、キャンプですぐにゾームとの戦いについてノートにメモした。
先の戦いは、ゾームの倒し方を知るための戦いであり、兵器の要件定義だ。
この戦いでどうゾームを討伐したのかは、よくよく記録しなければならない。
そして朝まで休み、パーティーは帰路についた。
王都に戻ってからは、要件定義の旅で得たゾームの情報を王宮に伝え、過去の文献などからこのモンスターについてのさらに詳細な情報がないかを確認してもらった。
結果として分かったのは、ゾームというモンスターは、”パラサイトスペクター”という実態のないモンスターが生み出すものということだ。
パラサイトスペクター。
生物に寄生する、実態のない魔物である。
ヒロはそれを聞いたとき、幽霊を連想した。
パラサイトスペクターは、数が少なく、モンスターとしての危険度は低い。
というのは、自我が無く、あまり目立った悪さをしないためだ。
虫、動物、まれに人間にも寄生する。
寄生された生物、体に紋章のようなあざが現れる。
ヒロはゾームの上半身の人間部分に紋章が描かれていたのを見たが、これだったのだろう。
そして、寄生されると宿主の意識はなくなり、パラサイトスペクターによって無意識に行動をする。
だが、パラサイトスペクター自身にもあまり行動目的が無い。
人間が寄生された場合、夢遊病のように歩き回ったり、突然叫んだりと異常な行動をするようになる。
とは言え、事故的に被害がでることはあるが、パラサイトスペクターが故意に人に危害を加えることは少ない。
対処法も明確で、神聖魔法という種別の魔法で、宿主からパラサイトスペクターを追い出すことができる。
もう一つ、パラサイトスペクターには特殊な性質がある。
それは、捕食した者の特徴を宿主に埋め込む、ということだ。
例えば、オオカミにパラサイトスペクターが寄生したとしよう。
パラサイトスペクターは宿主の空腹を察知して、オオカミがいつも食べるものを食べる。
シカを食べたとしよう。
そうすると、シカの角が生え、足が速いオオカミになる。
羽が生えたライニャスとか、熊のようなゴブリンなど、複数の生物の特徴が合わさったモンスターがいるなら、パラサイトスペクターの仕業であることが多い。
特性は捕食したものが無限に反映されるわけではなく、数個だけしか反映されないが、とんでもないモンスターが生まれることもある。
だが、パラサイトスペクターは個体数が少ないため、あまり大きな問題にはなっていない。
また、パラサイトスペクターは満月の夜に魔力が上がって活動的になるという特徴もあり、今回のゾームの特徴と合致している。
今回目撃したゾームが、王国内の記録にある100年以上前にシュテリア王国内で目撃されたというゾームと全く同一のものかはわからない。
だが、どちらのゾームも、シュテリア王国内では珍しくないモンスターであるジャイアントスパイダーにパラサイトスペクターが寄生したものではないかと想像される。
そして、少なくとも今回のゾームは、もっと体の大きなモンスターを捕食し、元々のジャイアントスパイダーよりも大きくなった。
さらに、湿地帯でヒロが見たゾームは、人の特徴を持っていた。
ということは、人を捕食したのだ。
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