第29話 敵をつくらざるべし

ヒロは”ゾームの調査フェーズ”における最終的に得られるアウトプットを

”ゾーム討伐兵器の要件定義書”とした。

その後、最終アウトプットを作成するために必要なタスクを詳細化していった。

そうして、調査フェーズに必要な費用もレインやランペルツォンの協力を得て明確にし、グレンダールから再度承認を得た。

優秀な冒険者によるパーティーとあって、調査フェーズの費用はそれなりにかかる。

王国の経理担当は渋ったが、そこはグレンダールが口を効いてくれた。


その、調査フェーズのタスクの一つとして

”湿地帯へ赴いてのゾーム一体を実際に討伐する”

があり、今に至る。


実際に対峙してみないことには、倒し方が分からない。

このパーティーであれば手練れぞろいなので、未知のモンスターであるゾームも一体ならば倒せると、ヒロは思っている。


討伐の方法が分かれば、それを要件として定義し、兵器と言う形にすることで、多数のゾームにも対応可能な環境を実現できる。

だが、このパーティーでも倒せないなら、倒せないで対策を検討せねばならない。


元の世界においてのプロジェクトでも同じだった。

システムの更新でも、更新対象のシステムについて知る必要はある。

業務を改善するにしても、今の業務における問題点を明確にする必要がある。

とにもかくにも課題となる対象を見ないと、ということである。


疲弊が明らかに見えるヒロに対して、マーテルがヒロに液体が入った瓶を取り出して言った。


「経費として後で請求してよいなら、体力回復の薬を差し上げますが?」


マーテルは当初、プロジェクトの参画にメリットを感じずに抵抗していた。


ヒロは、マーテルを説得した。

兵器の構築となれば、資材や魔道アイテムなどの調達が必要となる。

マーテルがプロジェクトに参画しておけば彼の所属する商工会から調達するという選択肢がとりやすくなることを伝えた。

つまり、プロジェクトに参画すれば、マーテルの扱う魔道具が売れる。


先のフェーズでのメリットのために、マーテルはこの調査フェーズにも協力してくれることになった。


森での一件の際に、逃げたマーテルを糾弾せずにいたことは正解だった。

もしマーテルとの関係が悪ければ、確実に別のメンバーを探すことになっていただろう。


ヒロはそう思っている。

理不尽な要求には毅然と対応する必要はあるが、貶めたり感情的になったりして関係に溝を作ることは、チームビルディングにおいても何かを進めるにおいても、マイナスにしかならない。


ヒロはマーテルに返事をした。


「薬…ありがとうございます。

 もう少しだけ頑張って、無理ならいただきます…」


女神ファシュファルよ。なぜ基礎体力を上げてくれなかったのか。

ヒロは嘆いた。

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