Wi-Fi放浪記
さとうたいち
砂漠
ここは砂漠。Wi-Fiなど存在しない砂漠。そんな砂漠で私のデータ容量は枯れ果てた。定期的にYouTubeを見なければ、私は、私の心は、真顔になってしまう。すごい嫌いなやつが全然面白くないこと言ってる時くらい真顔になってしまう。
私は、Wi-Fiが何処にあるかもわからないまま、この砂漠を歩いた。
水も食料もたんまりある。なんなら空から支給される。結婚もしたし、子供もいる。最近、一軒家も買った。顔は中村倫也似のイケメン。仕事は忙しくもなく、趣味にも没頭できる。年収は2000万。
ないのはデータ容量とWi-Fiだけ。
12LDKの新築一軒家で、妻と子供を待たせている。陽子と粗品。家族ってものは良いものだけど、時より一人の時間が欲しくなる。だから私は、一人になれる砂漠に来たのだ。
一人でYouTubeを見たいだけだった。それだけだったのに、私はなぜか、どうでもいい芸能人のスキャンダル記事を端から端まで見てしまったのだ。
YouTubeが見たい。
川口春奈のはーちゃんねるを見て癒やされたい。ジャルジャルのコントを見てほくそ笑みたい。ポッキーのゲーム実況を見て、楽しくなりたい。
芸能人のスキャンダルに驚くほどの興味を持ってしまった数分前の私をぶん殴りたい。なんで良いところで次のページにいかなければならないのだ。5ページあるの全部見ちゃうではないか。巧妙な手口が私を後悔させた。
え?驚くものを見つけた。
あれは、あの緑と青と白いのは、俗に言うプァミマではないか。砂漠のど真ん中にプァミマがあるではないか。
私は走った。水を得た魚のように走った。いや、大量の人参を与えられた馬のように走ったのだ。
プァミマにはWi-Fiがある。
私は、無我夢中でWi-Fiを探した。スマホを取り出し、まるでガラケーの電波探しみたいにスマホを振った。
やっと君を見つけた。
プァミマのWi-Fi。プァミマWi-Fiである。私は早速つないだ。つなげない。ここで驚きの大事件。プァミマWi-Fiはログインをしなければ使えないみたいだ。なんということだ。
ログインをするにしても、ネットに接続しなければいけない。私のデータ容量はゼロ。いけるのか。スマホよ。私は、藁にもすがる思いでボタンを押した。
しかし、データの接続状況を示す、青く細長い棒は一向に進まない。ずっとずっと、ちょこんとしている。諦めるしかないのか。その時!青く細長い棒が、グイーンと、急にグイーンと、驚くべき速さで右に進んだのだ。
だがしかしのしかしのしかし。
進んだだけだった。グイーンは何だったのだろうか。真っ白い画面が私を見つめる。
もう諦めた。繋げたとて、プァミマWi-Fiはどうせ弱い。YouTubeなんぞ、10秒でくるくるだ。もっと強いWi-Fiを。そしてログインの必要のないWi-Fiを。探すのだ。
かれこれ、10キロは歩いた。ここはどこだろうか。YouTubeはもういいから、妻と子供に早く会いたい。12LDKの新築一軒家に早く帰りたい。
ん?Wi-Fiが入ってきたぞ。
TottoriCity-Wi-Fiだ。
Wi-Fi放浪記 さとうたいち @taichigorgo0822
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