第6話 新撰組の、沖田くん???

「は……?!

 なんだこいつ、一体どこから……!!!」


冷酷そうなこの男ですら、

驚きを隠せずに目を見開いていた。

その白い肌に汗が伝っている。


無理もない。

突如現れたかと思ったら、

一瞬で男の喉元には刃が当てられていた。


沖田くん?の行動は素早く、

こちらを振り向いたと思った瞬間にはもう、

男の首を確実に捉えていたのである。

さすが沖田くん???だ。


「キルキルキルキル……」


さて、ここで先ほどから疑問符をつけている訳を説明しよう。

いや、もはや説明不要だろうか。

様子がどう見てもおかしいのである……


そもそもなぜ、本を持っていないのに沖田くんが現れたのだろう?

文字がなければ表現は不可能なはずだ。


ユメコは訳が分からないまま、

謎を解明しようと沖田くんが現れた光の元を辿った。


ポケットの中には、携帯が入っている。

カバンはツカサの元に置き去りになったものの、

習慣で携帯だけはポケットに入れていたのだ。

どうやらその携帯から光が放たれたらしい。


「あ……!!!

 もしかして、電子書籍?!」


そう。ユメコはオタクなので、

好きな作品は紙+電子書籍で両方買いをしていた。

特に沖田くんが出ている作品は本だけでなく、

ゲームやアニメ、映画なんかもスクショを撮りまくっている。


なるほど、それでか…… と、

ユメコは妙に納得してしまった。


「ぼく、斬る…… ん?

 俺がキル??

 私、この人をコロコロコロ……」


このオキタくん、キャラがブレまくっているのだ。


背中を見ただけでは気付かなかったが、

前から改めて見ると、外見もブレまくっていた。


特徴的な柄のお陰で新選組らしいと分かるものの、

洋服と羽織の間を取ったようなデザインの上に、

袴と半ズボンの間を取ったようなデザインの下。

言葉では形容しがたい、なんとも不思議な恰好だった。

髪の色はまさかの黒が不採用で、

金髪・銀髪・茶髪のどれとでも取れる曖昧な色味である。


そして極めつけは、瞳。

赤・緑・黄色がチカチカと、

キャラと同様にブレまくっていて、一色に定まらない。

まるで信号機の様だった。


「まさか、私の携帯に入ってた沖田くんのごった煮……?」


小説も、マンガも、おそらく映画やゲームアプリすら。


一冊の本だけでなく、

今までに出会った様々な沖田くんに想いを馳せていたら……


なんということでしょう。

愛した男のキメラを生み出してしまった。私は悪の科学者か。


ユメコはせっかく最推しが目の前にいるというのに、

素直に喜べなかった。


「ねぇ。なんでもいいからこの刃、どうにかしてくれない……?」


そうだった。最推しをキメラにしてしまったショックが大き過ぎて、

現在進行形で男に襲われている事を忘れていた。

勇者さま同様に突然消えてしまったら、今度こそ助からない。


「ねぇ、オキタくん。この人をどかして、私の縄をほどいて欲しいの!」


「は〜い」


その返事と共に、オキタくんは思いっきり男を蹴り飛ばした。

体格は華奢なのに、物凄い力だ。


男が木にぶつかり呻き声があがったのを見届けると、

オキタくんはすぐに手足の縄を解いてくれた。


「助かったぁぁ……」


手足が自由になりホッとしたのも束の間、

視界の端に逃げようとする男を捉え、

ユメコは慌ててオキタくんにお願いをする。


土地勘のない異世界で、置き去りになる訳にはいかない。


「オキタくん! その人、逃がさないで!!」


「かしこまりました」


踏みしめた一歩で、ゼロ距離へ……


何が起きたかユメコには分からないまま、

気付いたら男のみぞおちには柄が食い込んでいた。


男は恨み言でも吐いているのだろうか、

口を僅かにパクパクと動かしたものの、そのまま崩れ落ちる。


逃がさないで、という言葉の為なのか、

オキタくんは気を失った男を投げ捨てず、きちんと抱えていた。

男が180センチはありそうだというのに、

それを支えるオキタくんの身長は170センチもない。

歳だって私よりも下に見えるのに、頼もしい限りである。


やっぱり私の沖田くんはキメラになっても最強なのだ。惚れ直す。


「こいつ、食うのかぁ……?」


「いや、食べないよ……

 むしろ私がある意味食べられかけてたけど……」


人間を食べるかと最推しに聞かれるのは、複雑な気持ちになる。

完全にキメラの弊害が出てしまっていた。悲劇だ……


ユメコはどっと疲れ果てながらも、重い腰を上げる。

こいつを縛り上げたら今日はもう寝よう。

なんとも長い夜であった。

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