「私の中に誰かがいる」
私の中に もう一人誰かがいる
朧げに けれど声ははっきりと聞こえてくる
誰なのかは思い出せないけれど
思い出の中にいるのだろうか
顔は覚えていない
けれど優しい手で撫でてくれた
顔が見えない筈なのに
どこか笑っているように見えて
ほんの少しだけ前のこと
私は知らない人たちが住んでいる
大きなお屋敷にいた
知らない人はひとの形をしていない
けれど私には優しい
私だけがひとの形をしていた
私にはあなたしか見えなかった
柔らかな手で撫でてくれるけれど
外には出してくれないから
そのうちにあなたの姿が見えなくなって
やっと見つけた時には
あなたは事切れていた
何処を刺された訳でもない
とても綺麗な骸がそこにはあった
誰に、されたの?
どうして、起きないの?
私に笑いかけてよ
もう それすら叶わないなんて信じたくなかった
私はあてもなく彷徨い歩き
虚ろな足取りで「何か」を探し求めていた
糧を得る為に剣を振るい
見知らぬ人たちから流れる血を掬い取る
そうして 少しずつ生き永らえてきた
衝動は抑えられない
何度止められたとしても
気がつくと私は幽世にいた
誰かが私を見下ろしながら笑いかける
恐ろしい けれどほんの少しだけ懐かしい
そんな気がした
「君は永い時間をかけて、その在り方を歪められてしまった」
「光満ちる現世でこのまま生きていれば、君はいずれ『天庭』の住人になってしまう」
「もう君を罰する者も、虐げる者もいない」
彼の言うことは私には分からない
分かる筈もない
けれど 一つだけ分かるのは
私は望まれることなく生まれたということ
「君の中にはもう一人誰かがいるね」
「それが君から生まれたものかは分からないが」
「もし、それが君から生まれたものでないならば」
「ソイツは君に跪くべきだった」
「君が望まれることなく生まれてきたのは、弱きものを不幸に導いてしまうからだ」
「君を不幸に追いやった弱きもの達もまた、君のことを畏れていたのではないかね」
彼は私の心を見通しているようだった
それどころか 私の過去までも
けれど その声は不気味な程に優しく
私を包み込んでくれる
「なかったことにすることは出来ない」
「けれど、これからの道を創ることは出来る」
「もう、寂しくはないだろう」
優しさ故の傲慢
私はそれに掬われ 赦された
私のことを受け入れてくれた
彼の瞳は生々しい青灰色に澱んでいる
その夜 私は夢をみた
どこまでも続く螺旋階段
上も下も分からない
昏い路を私は進んでいく
光はどこに
あなたはどこに
答えが分からないまま
私は進んでいく
あなたの面影を求めて
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