いつか見た夢

縁田 華

×××の詩

零:幾つもの物語 星屑のアクアリウムで紐解いてみる

そのどれもが色ガラスのようで キラキラと輝いて見えた 古代の吟遊詩人が書いたものではないけれど 私のものでもない あなたのものだから私は記録する あなたのことを 色ガラスの欠片をステンドグラスにする為に


壱:星の時計は指し示す あなたがこの世界に来た時間を 星の時計は指し示す あなたが友達と出逢った日を 星の時計は指し示す あなたが煉獄へと来た時を けれど星の時計はどこにもない それは天に還ってしまったから


弐:あなたは冷たい袋小路へ迷い込んでしまった 誰一人他にはいない 冷たく無機質な歯車が廻り続け 一本道の行き止まり けれどあなたは進み続けた 止まる選択もあったのに


参:私はまつろわぬ者たちを従え 旅をしてきた

畏れられた者 忌み嫌われた者 抗った者 皆 私と同じ目をしていたから ただそれだけ


四:怖がりな女の子がおりました 仔猫と一緒に時計を見つめ 冬が来ないようにと祈ります

怖がりな男の子がおりました 春になっても眠ったまま 幸せな夢を見続けることを望みます 二人の側にはいつも 奈落への入り口がありますが 足を踏み入れることは遂にありませんでした


伍:ある日 ウサギが私に問い掛けた

「あなたが求めるものは何ですか?」

私は草をやりつつこう答えた

「あの子の笑顔をもう一度」


ある日 犬が私に囁いた

「あなたはきっと気づかない」

私は肉を与えてこう答えた

「気付いているけど見たくない」


ある日 鷹が私に嘯いた

「お嬢さん あなたの願いを叶えよう」

私は気づいた もういつものように追い返すことは出来ないと


陸:お墓に毒の花が咲きました

花は見つめ続け その度に胸を痛めます

「どうして人間は争うのだろう」

「どうして分け与えないのだろう」

同時に花は自分が花でいられることを喜びました


漆:唄うようにして物語を紡ぐ 私が見てきたもの全てを パズルのピースのように一つ一つ嵌めて行きながら 虹色の物語になるように 色ガラスの破片を少しずつ 形を整えながら 一つの詩にしていった


捌:いつの頃からか ビンの中には輝きが溢れていたガラクタを詰めて 蓋を閉める度に部屋は輝きを増していった その中身は誰一人知らなかったけれど 私は幸せだった 部屋の中に鍵をかけたから もう私以外は入れない


玖:有り余る食べ物 箪笥に入り切らない程の服 テレビを見ても私の心は冷たいまま もう気付いてる 私がいていいのは此処ではないと 私の名を呼ぶのはあなただから 私の側にいてくれるのはあなた達しかいないから 言葉を持たずともあなた達は温かい


拾:男の子は囚われていた 彼は大切な人を失ったから だから彼の心には 悪魔が棲みついた 女の子は怯えていた いつか自分も壊れてしまうかもしれないから だから彼女は悪魔に縋り付くことにした

神さまは問いかける

「あなたは幸せになれましたか?」





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