第126話 魔王ベル(その4)

 「言っておくが俺には魔法攻撃などは通用しない!究極魔法以外の全てを体得した俺にはな」


 「こいつ完全にチートだろ……そんな奴に戦いを挑むってのがそもそもが無謀だったんだ……」


 佐藤夏樹は地面に四つん這いとなり俯く。


 「おい、そこのもう一人の童顔日本人。お前には神と同じ雰囲気を感じるがお前は一体何者だ?さっきから全然俺に攻撃を仕掛けるそぶりを見せていないが」


 ベルは誠に尋ね、「僕はあなたを神様のもとへ連れて行くと決めているからね、殺そうとは思っていない」と殺意を剥き出しにしているベルの質問に答える。


 「お前、ジョセフが死んだっていうのに殺さずに神の所へ連行するだと!?ふざけているのか?」


 佐藤夏樹は誠に対して喚き散らし誠の発言に対し顔を上げ歯軋りをしながら誠に睥睨とする。マリーは理性を失っていた佐藤夏樹を宥めるように止めるも一向に収まる気配はなかった。


 「その神様の所に連れて行くって言ったけど君それ本気でできると思っているの?ジョセフ君を殺した相手を何事もなかったかのように生かすなんて気に入らない……」


 「気持ちは分かるけど神様に頼まれたことなんだ……僕だってジョセフが死んだことに関しては悔しさだって感じるよ」


 誠の薄っぺらの表情を見てマリーは信用することができなかった。


 「どうやら君とは考えが合わないみたいね……それならそれでこっちの好きにさせていただくわ!」


 マリーは右足を一歩出し再度魔法を発動する。


 「師匠から直伝した魔法をここで発動することになるとはね……光属性魔法『スターダスイラプションキャノン』!」



 マリーの杖から流星群のように複数ものビーム状の大きな球体がベルの方へと軌道に乗り『スターダストイラプションキャノン』は隕石でも堕ちたかのようにベルのいた方角へ急接近し眩い閃光がベルを激しく包み砂埃が舞い上がり轟音が迷宮の中に鳴り響く。


 「この攻撃をまともに受ければいくらあいつでも……嘘でしょ?」


 砂埃が薄くなりベルの影らしきものが薄っすらと浮かび始める。


 「確かにあれは死ぬかと思ったよ……しかし残念だったな。俺は神に全てを強化してもらった元人間だからな、そう簡単にお前の攻撃を食らって死ぬほどやわな体はしていない」


 この圧倒的絶望感はまさに地獄絵図だ。


 「『リミッターリリース』!『アイススピア』!『ウィンドカッター』!『マッドボール』!『シャドウボム』!『ソルブラスト』!『煉獄』!」


 マリーはあがくようにベルに全属性の魔法を駆使するがベルの脅威の自己再生能力には手も足も出ない赤子同然で最初から勝負になっていなかったのだ。


 「ジョセフに比べれば魔法威力は確実に強いな、そして今まで俺が戦ってきた誰よりも強い。それだけでお前には何も感じない。所詮人間とはそういうものだ」


 ベルはマリーの方へと『身体強化』と『ハイスピード』を組み合わせジャンプするように高加速で急接近する。


 マリーは護身用に隠し持っていた剣を取り出し即座にベルの攻撃を受け止め、お互いの攻撃が交錯し火花が激しく飛び散る。


 「あんたが初めてよ、あたしに剣を使わせるとは……」


 「魔法使いでありながら剣術にも心得があるとはな、俺が戦った魔法使いはどれもお前のようなタイプはいなかった」


 マリーとベルの戦いは佐藤夏樹の動体視力では何が起こっているのか分からず閃光が走ったかと思えばすぐさま違う方向で閃光が走っていた。


 「この戦い、正直僕でも勝てる気がしなくなったよ……」


 誠は珍しくも弱音を吐き佐藤夏樹は誠の胸ぐらをつかみ喚き散らした。


 「お前も神様にチート能力を授かっているんじゃねえのかよ?あいつを神様の所へ連れて行くと言っていたあの余裕はどこへ行ったんだよ!」


 「そんなこと言ってもマリーですら太刀打ちできない相手を僕が倒せると思うかい?少なくても彼女の魔力量は僕よりも多く僕はジョセフのように魔力コントロールが上手くない以上確実に犬死するだけだ……」


 誠は珍しく深刻な顔をしながら佐藤夏樹に説く。その現実を未だ受け入れられずに肩を落とし魂が抜けるかのように脱力していた。


 「うっ、嘘っだろ……そんな奴を相手にどう戦えばいいってんだよ……」


 「僕にも分からない……そしてマリーさんは多分ここで死ぬ……」


 「何っ!?マリーが死ぬわけねえ!あいつは……俺達のメンバー最強の魔法使いなんだぜ!」


 佐藤夏樹は信じたくはなかったのだ。短い期間ながら一緒に同じ釜の飯を食った仲間がここで死ぬかもしれないなんて思いたくもなかった。


 そして誠の言葉もまた真実であることを受け入れたくはなかった。佐藤夏樹にとって嫌いな相手の言葉などは。

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