第116話 魔人族の復讐(その1)
魔人族はひっそりとジョセフ達を尾行しており仲間の仇討ちをしようと企てていたのだがタイミングを掴めずに苛立つ様子で歯噛みをしていた。
「あの長髪男は、ゾッドを無惨に殺したのに……人間のくせに何であんな簡単に人殺しをしているのに何とも思っていないんだ!」
魔人族は自分達を人と思っており人間でありながらその人を殺すことに何のためらいを感じずにいたジョセフを許せずにいた。しかし魔人族もその理屈で言えば罪のない人間を大量に殺したりしているためその矛盾に葛藤をしていた。
そして自分達が人間と戦う理由に疑問すら感じていた。
魔人族も人間と同じように平和に過ごしたい、そう思う者もいるのだから。
「サンドイッチを用意してくれてありがとう。おかげで空腹で死なずに済んだよ」
ジョセフは素直に食料を用意してくれたリサに感謝の言葉を述べる。
「そんなこと言いながら死にかけたことを誤魔化そうとしないでください!」
「……やれやれだな」
リサの独占欲の強さも可愛さの一種として割り切っていたつもりだがこうも簡単に心を読まれるというのもいい気持ちにはなれないものだ。
「それはそうとジョセフ……魔物の血を吸い取っていなかった?」
ジンジャーは少し引き気味な顔で声を震わせ尋ねる。
「ああ、血を吸っていたのは魔力を回復するためであれは餌のようなものだよ」
その言葉を聞いた瞬間リサ達は驚愕しており唖然としていた。
「ジョセフ様、魔物の血肉は毒のようなものでそれを体内に取り込むことは自殺行為に等しいのですよ?」
「それはマリーにも言われたが体内で『浄化』を発動することで魔物の毒成分は取り除いているからこのとおり体に異常はないよ」
そう言うとリサは眉間に皺を寄せ目を細め集中力を高めジョセフの心を読み始める。
「ジョセフ様の言っていることに嘘偽りはないみたいですね。それでもやっぱりジョセフ様が無茶をする姿をこれ以上見るのは婚約者としては賛成できませんわ!」
そう思うのも当然だ。誰だって愛する者が危険に晒されるのをいいと思う者なんているはずがない。この戦いだってそもそもジョセフが勝手に仕掛けたことでありその落とし前はきっちり付けるつもりでいた。
勿論リサ達はそれをさせたくはないのだろう。それでも俺は世話になったこの国を襲撃するのを阻止したい。
そして、ベルが俺達と同じ日本から来た人間だと知った以上放っておくわけにもいかないのだ。
「リサ、この戦いはもう魔人族と人間の戦いだけってわけにはいかないんだ。もうこれは同じ世界から来た人間でもあるベルを……鈴木徹彦を倒さなければどの道ワトソン王国は……この世界はあいつのものにされる」
「それでも私は……ジョセフ様がこれ以上苦しむのは……せっかくジョセフ様のような優しい方に本当の恋心を抱けたっていうのに……」
「リサ、それは優しさではなく俺の甘さだよ……」
「私はジョセフ様の言うその甘さが好きなのです!その甘さが結果的に優しさになっているのですから……」
「俺が魔物の血を吸血したことにより人間の心を失っていたとしても同じことを言えるのか?」
リサは迷うことなくその質問に答える。
「私はジョセフ様がどのような形になったとしても愛します!」
真剣な眼差しでそう言われるとジョセフは恥ずかしくなってしまいそうになりながらもリサがそれでもと言うのなら羞恥心を持つのは失礼だと思い改まっていた。
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