第108話 ジョセフのいないクエスト(その5)

 ゴブリンロードは通常のゴブリンよりも一回り以上大きく通常のゴブリンは身長おおよそ130~140cmほどであるのだがゴブリンロードは180~200cmほどはある。


 「ゴブリンだからってここまでデカいと正直少し不安にもなるがここで黙って負ける気はない!」


 佐藤夏樹は『ハイスピード』を発動しゴブリンロードへと高速接近し、斬りかかろうとするも魔力がかなり消耗していたからなのか40パーセント程度しか成果を発揮できていなかった為ゴブリンロードには攻撃を見切られ躱され続けていた。


 (ここで魔力切れかよ!?まだ2~3回程度しか使っていないってのに……)


 そう、佐藤夏樹は自分の魔力量がどれくらいあるのかを意識せずに全開で使っていたため燃費の悪い状態で戦闘を繰り広げていたのだ。


 「オラァッ!」


 がむしゃらに剣をブンブン振り回しているがゴブリンロードは嘲笑うかのように声をゲラゲラとあげ、みぞおちに一発拳を入れ佐藤夏樹は岩に叩きつけられる。


 勢いよく叩きつけられたからなのか呼吸困難となり、気管支が一部傷つき吐血をしていた。


 「ガハッ!」


 ゴブリンロードの攻撃は中型トラックにでも衝突したのかと言わんばかりに重く、『身体強化』を事前に発動していなければ確実に死んでいたことは目に見えていた。


 (ジョセフは魔力が切れかけても諦めることはなかった……俺だって、ここで簡単にくたばってたまるか!俺だってジョセフみたいに可愛い女の子と恋愛したいんだからよ……)佐藤夏樹の脳内は常に美少女とラブラブになることのみだ。その夢を実現するまでは死ねない理由が佐藤夏樹にはあった。


 「もういい、お前が強くなろうとしていることは……だからここからは私に任せろ!」


 テレサの一言は何とも頼もしさがあり、マリーは『ヒール』で佐藤夏樹を治療し「認めたくはねえが……」と自分の実力ではゴブリンロードには勝てないと佐藤夏樹はテレサに託す。


 「テレサだけじゃ心配だから私も付き合うよ」


 「それなら援護頼む……」


 テレサはぶっきらぼうにジンジャーの援護を聞き入れる。


 「んじゃ、足止めするから」


 ジンジャーの魔力量はまだまだ余裕があったからなのか佐藤夏樹よりも『ハイスピード』の性能を発揮させており、ゴブリンロードはジンジャーの剣捌きにより身動きが取れないようだ。


 「ぐぅぅぅぅ~」


 ゴブリンロードは低く声を唸らせ左足の腱を切断されているからなのか出血もしており、ふらふらと倒れ込みそうになりながらも片足だけでなんとか立位を保っている状態であった。


 「あいつ、俺よりも使いこなしているな……」


 「そりゃあそうよ、君と違って魔法を当たり前に使っている世界の人間なんだから」


 「ちょっと待てよマリー、お前の言っている意味が分からないんだが……」


 「隠しても無駄みたいね……君をこの世界に転移させたのはあたしだから」


 佐藤夏樹はマリーから発せられる言葉の一つ一つを回収しその意味を少しづつ理解していく。自分がマリーによって転移させられた人間である事実をまさかこの場で明かされるなんて思っていなかったからだ。


 「お前は何故俺をこの世界に召喚した?俺以上に適任者がいたはずだろ?草凪誠とかジョセフとかよ!」


 佐藤夏樹はマリーを睥睨し声を震わせる。いつもなら大声をあげているところだったのだが今回はかなり冷静に対処しているようだ。


 「あたしの師匠が予言をしたのよ。佐藤夏樹、あなたを召喚することでこの世界を魔人族の野望を阻止できると……」


 「……俺はお前達の知っての通り落ちこぼれなんだぞ!そんな落ちこぼれを召喚したところで世界が変わるわけねえだろ……」


 涙ぐんだ声でマリーに自分が落ちこぼれでどうしようもない人間であることを自負するのだがマリーは目を閉じ首を横に振る。


 「過去の君なんて正直どうでもいい。落ちこぼれだって自分で思っているのなら変わる努力を死に物狂いでやればいいじゃない?」


 「あぁ、お前に召喚される前からやってたよ……けどっ、ダメだったんだよ!どんなに努力したって周りから評価されることなく追い抜かれ差をつけられて、だから俺は学校もサボるようになって家に引きこもっていたんだよ!いきなりこの世界に召喚された時とか俺にも……と期待が膨らんだがジョセフや誠みたいな奴がいることから俺の必要性は全然なさそうだしこうなるくらいならいっそあの場でジョセフが俺に手を差し伸べなければとも思ったよ。あいつは俺が駄目な奴だと分かっても仲間として受け入れてくれるし見捨てるような奴じゃないから本音が言えなかっただけで……」


「それよりもテレサちゃん達がゴブリンロードを倒すところを見届けましょ、詳しい話は終わってからで……」


 マリーは絶望に浸り顔を俯かせている佐藤夏樹にテレサ達の戦いを見るよう少し強めの口調で言う。


 ジンジャーは再び足を引きずりながら歯を食いしばり棍棒を振り上げるゴブリンロードに『スパーク』を発動し、ゴブリンロードの胴体に穴が開き麻痺が生じ身動きが取れなくなる。


 掌から『スパーク』を発動したジンジャーは『サンダースピア』のように貫通能力を重視した魔力コントロールをしているのだがジョセフのように麻痺させて神経を破壊といったイメージも浮かばせていたことから成功率は高かった。


 「テレサ!」


 ジンジャーはテレサの名を呼びテレサは脚力を生かし助走をつけ剣を掲げズバッと振り下ろす。


 ゴブリンロードはテレサの剣により一刀両断され、マリーは火属性中級魔法『ストロングファイヤー』でゴブリンロードの体は跡形もなく消し炭となり地上から消え去った。


 「マリー、連携攻撃ありがとう……」


 テレサは恥ずかしげな表情でマリーに感謝の言葉を述べる。


 「別に礼を言う程じゃないよ、テレサちゃん。このくらいのフォローしかできなかったけどね……」


 マリーはいつもの口調でテレサに謙虚な態度を取る。


 二階層のゴブリン討伐が終了したことによりギルドへと討伐完了の報告をしに行こうと一階層で転移陣を守っている冒険者に軽く「ご苦労様です」と挨拶を済ませ迷宮の外へと出る。


 迷宮から出た後の外の空気はいつもよりも美味しく感じマリー達は背伸びをしながらふあ~っと欠伸をする。

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