第64話 討伐準備(その1)

 最初から分かっていたことだったのだ。ジョセフ自身がチート転生者に勝てないことくらいは。


 そして誠が本気を出せばジョセフの攻撃は一発も当たることはできなかっただろう。神に力を授かった人間とそうでない人間とではこれほどまでに差が出るという当てつけなのかと考えるだけで敗北感で自信を失いかけそうだ。


 だがジョセフは自信喪失をすることはなかった。その代わり抜け殻のようにベッドで眠りにつき溜まりに溜まった性欲を処理していなかったことを脳内に過らせながらもする気力すらなく目は虚になっていた。


 扉を開く音が小さく聴こえリサがジョセフの横で眠りについているのが分かったがジョセフは気付かないふりをしてそのまま目を閉じたまま眠っていた。


 「ジョセフ様、私の話を聞いてくれますか?」


 リサはジョセフの心を読みながら傍から見たら独り言でも言っているのか?と言葉を発し始めた。


 「私はジョセフ様の身に何もなかっただけでも嬉しく思っています。あの誠という方からは人とは違う何かを感じていましたので正直ジョセフ様が決闘を申し込んだときは止めたくて仕方がありませんでした…」


 声を震わせながらも話を続けようとしているが涙で声が詰まり上手く思っていることを口に出せないことを歯がゆく思いながらも話すことを辞めようとはしなかった。その優しさがあるからこそ今のジョセフがあるのだろう。


 「ジョセフ様、私にもっとジョセフ様のいた世界について教えてもらってもいいですか?ジョセフ様からは普段悪に近い禍々しいものを感じているのに暖かさも一緒に備わっている気がするんです。私が今まで見てきた人でジョセフ様以上に光と闇療法を併せ持った人を見たことがないんです」


 光と闇、ジョセフの心が闇堕ちしたのも元を辿れば中学時代の出来事が原因であろう。中学の頃好きになった女子に告白してみたら罵声を浴びせられたり普段ジョセフのことを虐めていたクラスメイト達からはゲラゲラと笑われたりとプライドをズタズタにされそれに怒りを感じ好きと告白した女子に渾身を込めた拳を頬に一発入れ、必要以上にぶちのめした後一緒にいたクラスメイト達にも制裁と称して蹂躙していた。


 一人残らずぶちのめした後、ジョセフの拳は血だらけになっており自分の手を見て嘔吐してしまいながらもジョセフ自分は悪くない!悪いのは自分の心を弄んだ相手だと自分に言い聞かせていた。それがきっかけでジョセフは誰も愛さず、信用できる仲間以外と交流することを極力避けるようになっていた。


 多分エミリー以外の女に好意を寄せた当てつけなのか呪いなのか分からないがもう二度と女に恋はしないと二次元に走り、オタクではありながらも体を鍛え、鍛錬の成果を発揮することを前提に学校にいる不良とわざと喧嘩をしたりと荒れた生活に明け暮れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る