第61話 佐藤夏樹の過去(その2)

 それからというも佐藤夏樹は宿題をわざと忘れたりテストも0点を取るほどまでに落ちこぼれ、自分の人生なんてどうせこんなもんだと希望を失い無気力で自堕落な人間へと変貌していた。


 「佐藤さん、宿題を何回忘れたと思っているの?大体ちゃんと宿題をしないと将来いい大人になれませんよ!ちょっと、ちゃんと話を聞いているの?」


 教師の声など佐藤夏樹には一切聴こえることはない。佐藤夏樹にとってこの世界のことなどどうでもよくどうせいつもみたいに宿題をしてこなかったことを説教するのだと分かっていたからだ。


 佐藤夏樹はまるで某ちびっこ向けのマンガの主人公のように何をやらせてもダメな人間というわけではなく自分よりも優れた人間が出現したことにより怠惰になる方が楽だと思ったからである。


 一流大学卒のエリートが一流企業に就職し、大した結果を出せずに挫折した引きこもりニートのように精神を病み心の殻を自分から破れずにいた。その方が楽であることを知っているからこその自己防衛ではあるが世間というのはそれを良しとはせずに社会に溶け込めない人間は悪者扱いを受ける。それに耐えきれず自殺をする人間もいたりと現代社会の問題点でもある。


 「俺はこの世界の中心だと思っていた。その世界の中心は俺ではなく他の人間が俺の求めていた中心的人物にそいつがなり俺はただ指をくわえながらただ黙ってみていることしかできなかった。運動会ではいつも一位を取っていたのにいつからか順位が落ち始め誰からも相手にされることは無くなりテストの点数も満点が取れなくなりクラスの人気者だったはずの人生が急にどん底になり宿題なんかしてもどうせ正当な評価なんかももらえずにさぼり始め先生からこっぴどく怒られそれも慣れたのか宿題をすることを辞め家に帰ればアルバムを開いて過去の栄光を思い出しながら傷なめることしかできないそんな自分自身が大嫌いだ…」


 部屋に閉じこもってそんなことを延々と小声でぶつぶつ呟いていた。


 佐藤夏樹は小学生でありながら不登校になり、教室に足を踏み込むことに恐怖を感じ保健室でもいいからということで保健室で勉強をし休み時間は窓の方で外を見て黄昏れ「鳥はいいな…自由気ままに空を飛べるから」覇気のない声で鳥を羨ましがり茫然としたまま顔も窶れてしまい小学生でこんなにも精神状態が不安定になる程にまで追い込まれていることを見て見ぬフリしている歪んだ大人達はそれを見て「自分勝手にその道を選んだのだから自己責任だ!」と佐藤夏樹を一方的に悪者にしたりと大人も子供も誰も彼に手を差し伸べることすらしない。

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