第44話 シャーロック王子の帰還(その1)

 一人の少年が勢いよく険しい表情で馬を走らせながらワトソン王国へと向かっていた。


 「早く父のもとへと行かねばならないのに僕は立派な人間になるための勉学に励みすぎて遅れるなどどう言い訳すればいいんだ…」


 少年は自身が勉学に励むため遠出の学校に通っていたことを深く後悔をし、一秒でも早く父親と再会せねばと思いながら馬も休憩なしで走らせていたからなのか息をきらしており、速度がゆっくりと下降していった。


 「そうか、馬をあれから一回も休ませていなかったな…ここで立ち止まるわけにはいかないが大事な馬がなければ僕は国に帰ることができなくなる…」


 近くの河原へと向かった少年は馬を休憩させ、自身も川の水で顔を洗っていた。


 「はあ、水が冷たくて気持ちいいなあ。学校に行っていなければこんな風に顔を洗うことなんてできないからなぁ…しかし、早く父のもとへ向かわねばならんな!」


 この少年、見たところ身分の高い貴族か王族のような身なりをしているがこのような格好をして一人で馬を走らせて大丈夫なのだろうか?この辺りは盗賊だったり魔物が数多く生息していてもおかしくない近辺だっていうのに。


 「そうだ!ここに長居はできぬな、この辺は危険な魔物や盗賊がいると学校でも習っていたからすぐに国へと向かわねば…」


 五分程休憩した少年はハッと学校で習ったことを思い出していた。


 少年はすぐさま休憩を終え、馬を走らせる準備をして勢いよく乗馬し河原を全速力で抜けた。


 ワトソン王国近辺に到着した時にはもう周囲は真っ暗で自分が何処にいるのか分からなくなりそうだった。


 「空も暗くてワトソン王国がどこなのか分からなくなりそうだ…仕方ないがこの辺で野宿でもするか」


 少年は野宿の準備を始め、馬はゆっくりと座っていた。


 「今日はお前に無理をさせてすまなかったな…」


 眠り付いた馬の頭を撫でながら少年は涙目になりながら謝っていた。


 周囲にあった石を組み焚火をして寒さを凌いでいたがそれでも夜は寒く、寝具などの準備をせずに飛び出してきたことを後悔していた。


 「夜の外がこんなにも寒いとは思わなかった…僕はどうしてこんなことも分からなかったんだ…」


 少年は自分を責めており、誰もいない平野でただ一人孤独を感じていた。

 

 こんな夜中に少年と馬だけでポツリと野宿することは危険ではあるがどこかで休息を取らねばワトソン王国に到着する前に力が尽きてしまうためそうせざるを得ないのだった。


 「そういえばお姉ちゃんが婚約をしていると手紙に書いてあったが一体どんな人だろう。あんなに男嫌いだったお姉ちゃんが自分から婚約を申し込んだというのだからさぞかし立派な人なんだろうな…」


 少年は自分の姉の婚約者がどんな人かを想像しながら眠りについたのだ。

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