第28話 2回目の無報酬クエスト(その2)

 依頼主の男性と共に村に徒歩で向かって行くのかとばかり思っていたが男性は馬車を使って冒険者ギルドに来ていたみたいだ。


 その馬車はほろの無い荷台をつけただけのシンプルなものであったが徒歩で何日もかけるよりはまだマシな方だ。ゴブリンの討伐を依頼しようにも報酬の支払いが出来るかも分からない状況らしいから無理もない。


 御者台ぎょしゃだいにゆっくりと乗った依頼主から荷台に乗るようにと促されジョセフ達はそのまま乗り込み、依頼主は全員が荷台に乗ったのを確認し馬をゆっくりと走らせた。


 涼しい風が優しく吹き、ジョセフの長い金色の髪がなびいては右往左往と揺らいでいた。


 「おいジョセフ、その長い髪どうにかならないのか?」


 「言いたい気持ちは分かるけどヘアゴムを持ってないから髪の毛を結ぼうにも結べないんだよ」


 佐藤夏樹はジョセフの長い髪を指摘していたのだ。長い髪がなびいては佐藤夏樹の顔に時々当たっていたらしい。


 「ジョセフ、ヘアゴムとはなんだ?」


 「髪を結ぶ紐のことだよ」


 ヘアゴムに関して何なのか疑問に感じたテレサはジョセフに質問をしたため即答で髪の毛を結ぶために必要なものであることだけを伝えた。


 この世界にはゴムというものは存在しないのか疑問に思ったジョセフはこの世界に来てまだそんなに時間が経ったわけではないけどゴムのように伸び縮みする道具を見かけたことがなかった。もしかしたらゴムという概念がまだこの世界にはないのだろう。


 「髪の毛を結ぶ紐が欲しいのであれば私のを一つ使うといい」


 「…ありがとう」


 テレサはさりげない態度でジョセフに髪の毛を結ぶ紐を渡してくれた。テレサの手は毎日剣を握って戦っている手とは到底思えないほどに柔らかく、暖かさを感じた。


 (これが女性の手というものか、日本にいた頃女性との交流が殆どなかった俺からしたらいい体験なのかもしれない。神様の手違いで転移させられたけどもしかしたら俺はこの世界で女性との交流を深く、人間らしい心を取り戻すためにこの世界に送り込まれたのかもしれないな)ジョセフはふと、自分は手違いで転移させられたのではないのではと思い始めるようになる。


 ジョセフはテレサ達女性陣に危険がないように全力でカバーしていこうと心がけることにした。


 髪の毛をうなじが見えないように低めに紐を結んでいるジョセフは少し気なっていることがあった。テレサが最近ジョセフに対してとても優しくなった気がしたからなのだ。


 「テレサ、この紐いつかちゃんと綺麗に洗って返すよ」


 「べっ、別に返さなくてもいいんだから!その代わりちゃんと大切に使ってよ」


 テレサはツンツンとした表情をしながらデレていたのだ。


 それを見ていたリサの視線が気になりつつあったのだがこれは間違いなく嫉妬していた。リサは普段ほんわかそうに見えて妙に独占欲というか他の女性と軽く会話しているだけで眉間にしわを作ったり顔が引きるからだ。


 「リサ、勘違いしていると思うがこれは別に意味はないよ…」


 「分かってます、でもやっぱりジョセフ様に構ってもらわないと寂しいんです!」


 少しご機嫌斜めのようだ。リサも一国の王女様だしその辺りは仕方のない部分ではあるのだがこうもすぐ機嫌を損ねているようではジョセフも不用意に声をかけづらく感じていた。


 ジョセフは髪の毛を何とか結び終え、纏まった髪はさっきよりも激しくなびかなくなり、自分の後ろに束ねた長い金色の髪の毛が何処に行ってしまったのか一瞬分からなくなっていた。


 「髪の毛を結んだことがなかったがこんな感じなんだな」


 「そんなに髪が長いのに今まで結んだことなかったの?」


 食事をするときはヘアゴムをしたりなどはしたことあるけど普通の紐で髪の毛を結んだのは今回が初めての出来事であったからだ。


 中世ヨーロッパ風の世界というのは色々と不便に感じるものが沢山あるがジョセフ達は今までに体験したことのない未知なるものを体験できる楽しさを味わっていた。


 ジョセフは今はこうやって頼れる仲間達と共に、ゴブリンを討伐したりと知らない場所へ旅に行ける。日本にいた頃はこんな風に楽しめるなんて思いもしなかったのだ。


 空気も綺麗で辺りは草原に囲まれていて自然を感じることができ、ギターを弾きたくなりそうだ。ジョセフが弾けるのはエレキの方だからこの世界に持ち込んだとしてもアンプから音を出すための電力をどうやって供給するか疑問に思ったが常時魔法で電流を流せるわけでもないこととボルト数にワット数を考えれば素人が簡単に電気を操れるとも到底思えない。


 自家発電所か水力発電所さえあればなんとかなるのだろうがジョセフには化学の知識のないため一から作り上げることは不可能に近い。


 ジョセフは日本にいた頃を懐かしく感じ口元が緩くなってしまった。


 「フッ」


 「ジョセフ、何ニヤケテるの?」


 「少し昔のことを思い出しただけだよ」


 「昔のことねえ」


 ジンジャーはジョセフの過去に興味津々な様子で話を聞き出そうとしている様子が伺えた。


 「俺のいた国では魔法を使わなくても快適に暮らしていて、いろいろな娯楽があったんだ」


 「「「「えっ!?」」」」


 女性陣は一気に驚愕した様子でいたのだ。勿論御者台で馬を扱っている依頼主も。


 「まず電気を作る施設があって夜でも灯りが付いているんだよ」


 「電気を作る?」


 「それだけじゃないよ。写真ていうものがあって紙に人や建物を映し出すことだってできる」


 みんなはうんうんと頷く。


 「おいおいジョセフ、俺達のいた世界のことをそんなに言っちまっていいのかよ?」


 佐藤夏樹が心配した様子で俺の耳元で小さく囁く。


 「悪いことではないと思うがいいすぎない方がいいかな?」


 「俺達がこの世界の人間でないことがバレれば大騒ぎになって魔女狩りとかされることだって…」


 「二人とも、何の話しているの~?」


 「何でもないよ、アイリス。佐藤夏樹には男だけの大切な約束をしていたんだよ」


 「そうそう、俺達ちょっと二人だけの大事な話しててよ…これだけはどうしても他の人には言えなくてさ」


 佐藤夏樹は「誤解を招くような言い方をするな」と言いたそうな表情であわあわとしながら俺の話しに合わせていた。


 もしかしたらジョセフは同性愛者疑惑を持たれてしまった可能性がるかもしれないがリサに後で説明すればちゃんと理解してもらえるはずだとジョセフは思った。


リサは人の心が読めるからだ。

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