第2話 魔女と女騎士

 「失礼ですが、冒険者になるための登録をしたいのですが…」


 「かしこまりました、二名で間違いありませんか?」


 「大丈夫です」


 「それでは分からないことがありましたらすぐにお声をかけてください」


 「了解」


 城から出た後、ジョセフとリサは冒険者になるべく王都ベイカーハイドにある冒険者ギルドに向かい早速受付で手続きを行うのだが、リサはさっきからジョセフの腕にがっちりと抱きついており中々離れようとしてくれないためジョセフは字が上手く書けずにいた。


 ジョセフはこんな時の為に読み書きができるようにしてもらってよかったと神様に感謝しており、転移される前に「誰にも負けない圧倒的な力をください」なんて言ったら絶対ここで文字を書けずに無様ぶざま醜態しゅうたい晒してたに違いないからだ。


 冒険者組合の1階には酒を飲んだり料理を食べたりする飲食店が隣のフロアにあり、そこで白昼酒を一気に飲んでいる客等、クエストの打ち合わせをしている冒険者たちがいたりとファンタジー感が半端なく強い。酔っ払いのおっさんが女性にセクハラしたりすることあったりと。


 そしてどうやら冒険者として登録するには運転免許証のように偽造防止のためのセキュリティのため、この世界では血液を魔法によって付与された冒険者カードに染み込ませる必要があるのだが周囲の人達はジョセフとリサのことをジロジロと凝視しており、手続きがかなりやりづらく感じており、ジョセフにとってもはやこれは羞恥プレイの一種だ。


 (こんなむさ苦しいところに可愛い13歳の金髪美少女を連れてるからもう周りが俺達を見るのはまぁ、しょうがないとしょうがないんだけどね)ジョセフは内心仕方のないことであることを自覚した。


 カードに血液を染み込ませるのが少し痛く、針みたいなので指を軽く刺して血を出さなければならず、いくら日本で喧嘩が強くてもチクッとくる痛い思いをしなければいけないことに関してはジョセフ自身抵抗があった。


 「このカードには偽造防止の魔法が付与されており、もし何らかの理由で紛失し、再発行される場合は料金を支払っていただきます」


 ジョセフとリサは手続きも済ませ一通り受付担当の人の説明を聞けたのはいいものの、リサの小さな胸が腕に当たり、ジョセフは周囲の目が気になっていた。


 「ジョセフ様、これで晴れて私達も冒険者ですね」


 「うふふっ、妹さんと一緒に冒険者を目指すなんてとても仲のいいんですね」


 「いえ、ジョセフ様は私の未来の旦那様です」


 「違う、同行者だ」


 「あら、新婚さんでしたか、これは失礼しました…」


 (受付のお姉さんの余計な一言のせいでまた変な誤解をされたのではないか?それよりも受付のお姉さんよ、人の話は聞けよ……)ジョセフはさっきよりも自意識過剰になり、早くこの場から立ち去りたいという一心から自分達に適したクエストを急いで探していた。


 「やっぱり周りの目がさっきよりも気になるな……」


 クエスト依頼の張り紙にはスライム討伐に洞窟の調査、森のキノコ採取等様々な種類がある。


 どれから依頼を受けようか迷ったジョセフは、この場合アニメとかラノベだったら討伐クエストはある程度階級の高い冒険者でないと受けられないだろうと断定し、どのクエストを受けようか悩んでいた。


 (アニメでしか異世界ファンタジーとか知らなかったからあれだけど、クエストは同時に他のクエストを複数受けられないし、クエストを失敗した際は違約金を支払わされたり、下手すれば冒険者の資格を剥奪されるし、討伐に関しては指定された場所でないと無効、冒険者同士のトラブルに関して組合は不介入だったり色々と就業規則みたいなのがあるようだ、要はルールをしっかり守ってクエストをこなせばいいってことなんだけどどれから依頼を受けようかな……あとは5~10年以上冒険者としての活動をしていないと自動的に登録解除されるみたいだからその辺も用心しとくか)ジョセフはそんなことを思いながら慎重にクエストを選ぶ。


 実際、という言葉の響きはカッコいいかもしれないけどジョセフの前いた世界で例えるなら日雇い労働者みたいなものであり毎日冒険者ギルドという名のハローワークに通い日雇いの仕事を探す、異世界ファンタジーに興味のない世間体を気にする人間からしたら「まともな職に就け!」と言われておしまいだ。


 しかしマンガやアニメ、特撮とかで例えるならヒーロー活動の一環という考え方もあるのかもしれない、どのみちこの世界の人達が冒険者を目指した理由とかはたかが知れているもので、殆どが金儲けできるとか女にモテるとかそんな動機で目指した人の方が多いのだろう。


 そんなこんなで依頼を受けるクエストをどうするか掲示板を睨んでいると後ろから影がひっそりと見えてきた。


 「ねえ、初心者なら森のキノコ採取の依頼を受けてみたら?」


 女性の声が聴こえたため後ろを振り向くとくせ毛の強いショートヘアの魔女風の衣装を着た17歳くらいの少女が明るい表情でジョセフとリサに話しかけてきた。


 「あたしはマリー、一応駆け出しながら魔法使いやってるけど、お二人さん名前は?」


 「俺はジョセフ、ジョセフ・ジョーンズだ」


 「私はワトソン王国王女のリサ・ワトソンです、ジョセフ様は私の婚約者です」


 (だから婚約者アピールするなよ、恥ずかしいだろ)内心ジョセフはリサの婚約してますアピールを恥ずかしいと思っていた。


 「うふふ、あんた達ホント仲いいよねえ、実はあたしも最近ここに来たばかりだけどもしよかったら私もメンバーに加えてくれるかしら?」


 「丁度魔法使いとか色々なメンバー探してたからよろしく頼む」


 こうしてマリーはジョセフ達のギルドメンバー加わることになり、初めてリサ以外の可愛い女の子と会話することになったのだが中学の頃女性恐怖症になったジョセフにとっては素直に喜べずにいた。


 マリーは気軽に話しやすいサバサバとした明るいお姉さんタイプだ。


 (リサには悪いんだけど胸もDくらいはある方だな)ジョセフはリサが心を読めることを忘れているようでリサは後ろから頬を膨らませジト目をしていた。


 マリーは攻撃、回復支援魔法が全般に使用できるいわゆるラノベだとチート主人公ポジションの存在である。


 お互いの自己紹介も済ませ、いっぺんにこの世界について聞くのは流石に失礼だろうと考えたジョセフは、まず魔法についてマリーに教えてもらうことにしたのだが魔法には適正というものがあるらしくてジョセフは光属性魔法の適正があるようだ。


 マリーはジョセフの適正魔法について他にも何か隠しているようだったが今はそんな細かいことを気にするより今日をどう生きて明日にどう繋げていくかそこが大事だとジョセフは思っていた。


 ジョセフ達三人はキノコ採取に向かおうとした途中、一人の赤いポニーテールの女性が筋肉質な大柄のチンピラ達に絡まれているのが見えた。


 「ちょっとそこをどきなさいよ!」


 「ケッ、人にぶつかっといてその態度はなんか気に入らんなぁお嬢さんよぉ」


 「謝ったのに貴様達がしつこく付きまとうのがいけないのよ」


 どうやら口論はあっさりと終わりそうもなくこのままだと乱闘になってもおかしくなく、だからと言って部外者でもあるジョセフ達が変に首突っ込んで大事おおごとになるのは極力避けようとしておりジョセフはうるさいのは嫌いで口よりも体が動きそうになりリサとマリーはチンピラ達と女性のトラブルを止めようとするも時すでに遅かった。


 「一人の女性に対して大の男が数人で何をしている?」


 「なんだあ?お前のような若造には関係のないことだ」


 「兄貴ぃ、この長髪のガキの着てる服珍しい作りしてますぜ。もしかしたら高値で売れるかもしれやせんぜ」


 「んなこたぁどうでもいい、この女をどうするか決めようじゃあないか」


 「お前達さっきから何をはなしているのかさっぱり分かんねえぜ」


 (人がどういう状況なのか質問してるのにこいつら人の話全く聞いてないな)ジョセフはため息を吐き肩を竦めていた。


 「先に喧嘩を仕掛けてきたのはこいつらだ。私の剣がこいつらの体に軽く当たったからごめんと謝っているのに骨が折れたと嘘をついて私から金を盗るつもりでいるのよ」


 「人聞きの悪いことを言うなあ、ホントに俺の骨が折れたんだから慰謝料払うのは当然だろうが!」


 「お前ホントは骨なんか折れてないだろ」


 「このガキ、折れてるっつってんだろが!」


 「骨が折れてるのにそんな元気な人間がいるかボケェ!」


 「テメエら、タダで帰れると思うなよ!」


 チンピラ達は武器を構えジョセフと赤毛の少女に襲い掛かり、少女は素早い動きでチンピラ達の攻撃を軽やかにかわしていた。


 (この女中々手慣れているな、な小綺麗な格好しているから危ねえと思ったけど次々と繰り出される攻撃をかわしては反撃する様子が全くないぞ!)ジョセフは少女の動きからただものではないと瞬時に察する。


 一体何故攻撃しないのか……ジョセフはそこに疑問を感じていた。


 そもそも少女はその気になればチンピラ達を無傷で圧勝することなど造作もないのだろう、本来ならここであのチンピラ達を倒して是非仲間にして下さいなんて典型的な流れになるのだろうが、何しろジョセフはチート能力を授かるのを拒否した身でこの前ゴブリンに殺されかけたばかりなのにジョセフの倍以上の体格を持ったチンピラ達に立ち向かえば確実に少女の足手まといになるだろうし異世界転移したことが無駄になるため身動きが取れずにいた。


 ジョセフは長い金髪をくるくると指で回しながらこの場を丸く収めるにはどうしたらいいのか考えてはいるものの今のジョセフの実力で成功できる確率が低すぎたのだ。


 「ここは慎重に自分ができることをやろう……」


 「衛兵さ~ん、早くこっちに来てください!喧嘩が起きてます!」


 マリーはジョセフの意見に頷き大声で衛兵を呼んでいた。


 衛兵はすぐこっちに駆け付けそれに気づいたチンピラ達はやばいと感じたのか、少女への攻撃をすぐさま辞め、遠くへ退散していった。


 「ありがとうございます、貴方達のおかげで大事おおごとにならずに済みました」


 「別に俺らは大したことはしてないさ、ただあの状況はどうしても放っておけなかっただけだ」


 「ちょっとジョセフ君、あたしが幻覚魔法で衛兵の幻を見せなかった君も危なかったんだからね」


 マリーはジョセフに唖然とした表情で注意した。


 ジョセフマリーをチート魔法使いだと再認識し、衛兵の幻を見せられることに驚愕していた。


 「自己紹介がまだだったな、私の名はテレサ、もし良ければお礼に私を君のギルドに加えてもらえないか?」


 「俺はジョセフ、この世界の情勢にはかなり疎いから是非ともよろしく」


 「あたしはマリー一応全属性の魔法を使用できるわ」


 「全属性の魔法適正があるだと?そんな人間聞いたことないぞ!」


 全属性の魔法適正を持つ人間というのは歴史上いなかったらしくテレサは驚きを隠せずにいた。


 「私はリサ・ワトソンです」


 「もしかしてワトソン王国の王女様であらせられますか?」


 「ええ、そうですけど…」


 「これは失礼しましたリサ王女!先程の見苦しい姿をお見せして申し訳ありませんでした!」


 「テレサさん、頭を上げてください」


 「ハッ」


 テレサの家系はワトソン王国に仕える騎士団の団長であるためかリサにあんな堅苦しい態度を取ってしまったみたいだ。


 「今はただの冒険者ですのでリサと呼んでください」


 「かしこまりました、リ…サ」


 リサはかなりフレンドリーにテレサに接していたのだが彼女は顔を赤らめ躊躇いながらもリサのこと呼び捨てで呼んだ。


 (何この急展開なハーレムパーティは?正直満更でもないけどいくら何でも順序が早すぎる)ジョセフは毎度心の中でツッコミを入れていた。


 チート魔法使いに王女、騎士とか完全にオタクが嫉妬してしまう程だ。


 マリーとテレサという新しいメンバーを率いてジョセフ達は森のキノコ採取に向けて準備を整えることにした。

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