第37話 ピジョーの「しお」

 戻らないピジョーを心配しながらサマンサとはったんは、相変わらずあひるランドにあるピジョーのアパートで策をねっていた。


「なんだろう、これは」

「えっ?」とはったんはサマンサが手にしている箱を見た。

 サマンサはピジョーが大切にしていた塩の入った箱を見つけたのだ。

 ピジョーは、村の子どもらのイタズラで羽根に火をつけられて村を追われ、泣きながら多摩の浦を渡った。そのときの涙が固まってできた塩だった。流したなみだの分だけ塩はあった。

 あひるランドで、ドバトであるがゆえに、理由なくしいたげられたり、はずかしめられた際には、この塩を取りだしなめた。あのときの思いに比べたら、こんな情けなさやくやしさは何でもないと、涙の塩をなめながら、自分に言い聞かせていたのだ。


「塩のようだね」

「ピジョーが使っていたものだろう」

「しかし、ピジョーは上手く村に着いただろうか」

 心配そうにはったんは言った。

「大丈夫だよ、きっと。でもあの『計画書』の内容が村人に知られたら、大変なことになるだろうな。しかし伝えなければ村がやられてしまう。柿太郎やおばあさんたちはいま、どうしているだろうか・・・」

 サマンサもまた心細く心配な様子で答えた。




(つづく)


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