第11話 ベニヤ板の向こう側

 ピジョーは刑務所で、糖尿病でいかれたカモメとお薬で壊れたハトと同部屋だった。

 毎日の思想授業と作業、刑務所ではこれを「作務」と呼んでいたが、それが終わると食事をして部屋に戻される。全員、無期懲役なので本来、心配ご無用だが、自然と今後の生活の話しが始まる。


「出所したら、どうするつもり?」

 三人とも無期懲役なので出所の予定などないのである。空を自由に飛べる者の犯した罪は重い。

「そうだね、何か仕事を見つけなきゃならないね」とピジョーはパジャマに着替えながら答えた。

「お前知らないかもしれないけど、あひるランドでは、カモメとハトが就ける仕事は、介護か建設か警備だけだよ。ベニヤ板の向こうの国では、また違うみたいだけど」

 お薬で壊れたハトのナカちゃんが言った。

「そういえば最近、ベニヤの向こうで何か混乱が起こったらしいね。あひるランドで突然、体中が痒くなる奇病が発生してるみたいで、その原因がベニヤの向こうの混乱らしい」

 糖尿でいかれたカモメのマークは続ける。

「噂では政権交代が起こったんだって。クーデーターだったようだ」


 情報屋でもあるマークによると、あひるランドの中央に建てられたベニヤ板の向こうの国で、神ががった女性のカリスマが現われたという。そのカリスマは、どこかで巻き上げてきたお金を貧しい住民たちに配ったり、彼らに無償で食べものを施したりして、爆発的な人気を得ていた。特に高価で人気のある食べものは若いネコであったから、それをどこかで捕まえてきては貧しい住民たちに施した。

 次第に支持者が増えると同時に、カリスマは私兵の必要性を説き始め、自らの軍隊をも組織した。あげくに安穏に昼寝をしていた政府を襲い、簡単に政権を奪取したのだ。

 ベニヤ板の向こうから、旧政権の幹部とその親族たちが大量にあひるランドへと逃げてきていたのだった。



(続く)

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