ダンジョン二日目


 ~二日目~


 御影がダンジョンに入って二日が経過した。


 ここまでで新たに分かったことは三つある。

 〇回答しないまま三時間経過すると罠が発動する。

 〇深夜0時になると、問題がリセットする。

 〇ダンジョンに入った経過時間が一日経過すると、ペナルティが発生する。


 一つ目が分かったのは、寝ているときで、当然ダンジョンの上扉付近から百度の熱湯が濁流のごとく流れてきて設置型の魔法障壁のお陰で御影は事なきをおえた。最も、流れ出た瞬間に危機を感じ起きて、罠の度合いからそういう選択をしたのだが。


 二つ目と三つ目は直接脳に無機質な声が響いてきた。


「最悪だな」


 御影は悪態をつく。


 御影にとって最悪の事態だった。


 眠れないのはいい。


 間間で二時間もあれば上等だし、モンスターも襲ってこない。あっちの世界では、常に気を張ってないといけなかったし、三日間徹夜だった事はざらにあった。


 こっちにきてからも、深い睡眠などしたこともなかった。


 あっちからの習慣で、何かあったときすぐに目が覚めるようになっていた。


 問題リセットする件も、どうせ分からないからどちらでも構わなかった。


 問題は三つ目だ。


 二日目突入のペナルティは、気と魔法の使用制限。

 

 試してみたら、出力がマックス七十五パーセント程度に抑えられていた。


 つまりは入ってから四日程で魔力と気が使えなくなる。


 つまり亜空庫に保管した食料も魔法で出現させる水も使えなくなる。


 ダンジョンは、ダンジョンにあるもの、身につけているもの以外は三時間程度で消えてなくなる。


 倒したモンスターのドロップ、ダンジョン内で亡くなった冒険者達も三時間で消える。


 だから、あらかじめ置いておくことは出来ず、御影は亜空庫を持っているため、パックパックやリュック等持ってこなかった。


 御影も必要性は理解しているが、冒険者用やバックバッカー用は高いため後回しにしていた。


 食料がないのはまだ我慢できる。しかし水がないのは危険に感じていた。


 人の大半は水でできている。普通の人なら一日位なら我慢できるが、二日三日経つと危険領域だ。


 あっちで、『飲まず食わずのままどれだけ生きられるか』という訓練を何度となくさせられたが、もって五日が限界だった。


 となると、タイムリミットは十日目だ。


 人の尊厳も考えずなりふり構わなければもっといけるが、御影の黒歴史なので今は考えたくなかった。


 あれから御影もクリアしようと色々試した。


 ダンジョンの壁や扉の破壊、解析魔法による問題の解答、転移魔法に部屋の移動、脱出魔法による学園への帰還。


 そのどれもが失敗に終わった。


 壁や扉は、あっちでも同じで、神の加護がかかっているかしらないが破壊不可。解析魔法はこっちにきてからアップデートに時間がかかっているため、答えが分からず、転移魔法は行ったことがある場所にしか行けず、どうやらここは、転移、脱出魔法が禁止されているらしく発動すらしない。


 脱出魔法には期待していたが、っくそっ。


 御影は舌打ちし、眉間に皺をよせ目の前の、最短距離でクリアできる右扉の問題を見ていた。


〇円周率を百桁いいなさい。


 御影も円周率は分かっている。


 しかし3、1415位しか覚えていない。


 事前に知っていたのなら御影も覚えていられるが、突然言われても答えられるはずがなかった。


 他の問題も同じく答えられないような内容。


 御影は諦めて梯子を使わず跳躍し、下に飛び降りる。


 三十分前に罠を作動させたため、時間的に余裕があった。


 今御影が考えているのは黒幕の事だ。


 岬に対し憎むと言った負の感情は御影にはない。


 おそらく、岬は、心の隙をつかれはめられたのだろう。


 岬は中度の洗脳魔法にかかっていた。


 凄い女だと御影は思う。


 本来洗脳の段階は三段階ある。


 軽度は感情の強制だ。例えば好きな人がいて、洗脳魔法によって、嫌いという感情に変えられると、その人を見ると負の感情になる。


 中度は一歩方向への強制。この状態になるとそのことしか考えられなくなる。


 そして重度は、人形化だ。連太郎みたいに命令したものの傀儡となる。


 舞先生や御影はかからないが、心に不安や隙があるものはかかりやすい。


 岬の場合、一つの大きな隙がある。


 その事で揺さぶられ、かかってしまったのだろうと、御影は予想する。


 舞先生の派閥にいる岬は洗脳魔法の対策はしているはずだ。


 それでもかかってしまったという事は余程の話術師か、凄腕の洗脳魔法使いか、それとも両方か。


 そんな状況の中で、岬は御影が行くのを一度は止めてくれたのだ。


 これには御影も驚いた。


 会議室を後にした後解除魔法を使おうと思っていたが、使う前に止めた。


 本来ならあり得ないことだ。


 軽度ならまれに解ける事があるが、中度以降はは絶対に解けない。かかったら最後、術者が解くか、解除魔法を使わない限り、魔法にかかったことさえ分からない。


 だから御影は罠に飛び込む決心をしたのだ。


 ・・・・・・に危害を加えさせないために。


 といっても、最初から六割方行くつもりでいたのだが。


 誰か来ないか。


 ふと御影がそんなことを考えた時、祈りが通じたのか二人目が上から降ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る