『奇跡の一日』の最後の一人と模擬戦種次対風花01
「んだ。今日も良い天気なんだな」
気温は三十度を超え、太陽の熱さ、まぶしさに男は嬉しそうに目を細め、タオルで汗を拭う。
男の身長は二メートルを優に超え、ごつごつと岩のような顔、ボディビルダー顔負けのハンプアップされた体、足は短くて太く胴が長い。まさしく巨人族の特長だ。
そう、彼の名はボル、農業科一年Sクラス、『奇跡の一日』の最後の一人だ。
今はとある人物を待ちながら、畑を耕している最中だ。
土を手に取り匂いを嗅ぐ。
「んだ、良い匂いなんだな」
鼻を膨らませ、目一杯吸う。
一面、豊満な実を実らせ、もうすぐ収穫の時期だ。
大きく伸びをし、肩を回す。
「良い作物だなボル」
「んだ御影、よう来てくれたっぺな」
ボルの土まみれの手を差し出され、御影はためらわず、その手を握った。
畑を後にした二人は、あいてるスペースにどっかりと座り、御影が持ってきた酒で祝杯を挙げる。
巨人族の習わしで、友と会ったらひとまず酒を飲む。一杯目は一気飲みだ。
「んだ、兄弟も相変わらず良い飲みっぷりっぺな」
「お前こそな」
会うのは五回目、最初はいぶかしみ聞く耳を持たなかったボルも、今では義兄弟と呼び、親しい仲だ。
「考えてくれたか」
御影は自分のクラブにボルを誘っていた。
守達を誘ったときボルも誘ったのだが、畑が忙しいと返答は保留された。
「ん~だ。おでの腕はからっきしだっぺ」
ボルはポリポリと頭を掻く。
巨人族は大きく分けて二通りに分かれている。
戦闘するものとしないものだ。
戦闘するものは、気性は荒く、戦闘狂の傾向があり、しないものは気性は穏やかで、争いを好まない。
ボブは、戦闘しないものの一人だ。
異世界の日本は五つの国に分かれている。その中の一つ、桜花国では人族以外は下にみられており、巨人族も迫害の対象だ。
巨人族の隠れ村にいたボルは、そんな事とは無縁で、素朴でのんびりした少年に成長した。
朝は親の手伝いで畑を耕し、昼は近所の仲間達と遊び夜は腹一杯食べ、そして寝る。
時々くる、畑を狙う野良モンスターは『ボル』が退治していた。
畑仕事に使う鍬や腕っ節で。
さっきの発言は嘘を言っているわけではない。
少なくとも本人はそう思っている。
ちゃんとした修行をしたことはなく、害獣を駆除したぐらいに思っていた。
このままずっとこの村で暮らすとばかりボルは思っていたが、親や村人達の勧めでこの学園にきた。
入学が遅れたのは、徒歩での移動だったため二ヶ月遅れた。
初めて村を出たため道に迷ったのだ。
当然食料は底をつき、野宿をして、獣を狩り、あっちに行ったりこっちに行ったりふらふらしながら、ようやく目的地についた。
あれよあれよというまに農業科の最終試験を突破し、現在に至る。
御影のクラブに入りたいが、戦闘するのは遠慮したいというのがボルの本音だ。
「心配するな、強制はしないぜ。ボルにはマネージャー兼ある事を俺と一緒にやってほしい」
「んだ、それならおらでも大丈夫んだな。ん、でもなにすればいいんだな」
「それはな・・・・・・」
御影とボルがクラブの練習場に入った時、風花と種次の模擬戦が行われていた。
御影は邪魔にならないよう、そっと扉を締め、ボルに静かにのジェスチャーをする。
練習場は静寂につつまれていた。
種次、風花、両者とも一歩も動かない。
種次はじっと風花を見つめ、風花は目を閉じ柄に手をかけ、右足に重心をかけ、構えの姿勢を崩さない。
御影達が入ってきたときも微動だにしていない。
他の者達は御影の方を向いたが、御影は声を出せず、手を挙げるだけにとどめた。
種次の弱点の一つ、自分から攻撃を仕掛けるのは苦手だ。
将棋やチェスと同じで相手が指さないと、どんなに有利な手を考えても指しようがない。
それと同じで、どんなに予測しても動かないことにはやりようがない。
種次はカウンター主体で、相手の攻撃を予測し、それに併せて自分の攻撃を選択する後手のスタイル。
一つ一つの技には呼吸があり、その呼吸が隙となる。
こないだやったシンリィと水流、二人と同時に模擬戦をしたときも、相手の呼吸を狙い完勝した。
だいだい模擬戦で種次が勝つときのパターンだ。
何倍も格下なら先手で攻撃し勝利を収めるパターンもあるが、風花の場合、種次が不用意に攻撃すれば、風花のテリトリーに入り負ける。
実際模擬戦で風花が初めて種次に勝利した時はそのパターンだ。
不用意に種次が近づき、予測はしていたが、避けれず敗北した。
また、風花も半径二メートル以内ならこのクラブでも有数の力をほこるが、まだ領域変更ができず領域外の攻撃は手段が少なく、足の速さもプゥや美夜よりは遅い。結果としてじりじりと詰め寄ってはいるが、勝てる距離はまだまだ遠い。
御影はまだまだだなと思うが、確実に強くはなっているとも思う。
千日手の様相を呈していたが、場が動いた。
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